街のお医者さん相談室
体・心・病気の悩みなどの医療相談を、街のお医者さんに出演いただいた先生がお答えします。
二の宮越智クリニックの越智五平先生に聞きました!
小児・小児外科
予防接種は個人の感染予防と集団の感染対策を目的に行われます。2013年から新たなワクチンが定期接種化され、接種する種類と回数が増えました。複数の予防接種の同時接種も行われるようになり、医療機関に行く回数が減りました。加えて接種間隔も変更があり、早期に免疫が獲得できるようになりました。
ヘモフィルスインフルエンザ菌b型と肺炎球菌の感染による肺炎の減少、ロタウィルス感染による胃腸炎は激減して、合併していた脳炎、脳症も減っています。水痘ワクチンと麻疹風疹ワクチンの2回接種により水痘もかなり減少したことや、麻疹蔓延国ではなくなったなどその効果も明らかです。
接種回数を減らすために混合ワクチンがあります。麻疹風疹ワクチンと4種混合(ジフテリア、破傷風、百日咳、ポリオ)ワクチンがあります。この4月からはヒブワクチンを加えた5種混合ワクチンが定期接種になります。
予防接種の際には母子手帳が必須です。接種した予防接種の種類、回数、接種部位などを記入しますが、接種歴の確認には不可欠です。独自のマニュアルを元に、接種ミスを避けるように努めています。
寒い季節はやけど(熱傷)のリスクが増えます。子どもでは熱湯やスープなどの熱性液体によるものが多く、受傷範囲が体表面積に対して広くなリます。乳幼児のやけどは、皮膚が薄いため傷の深さ(Ⅰ度:表皮まで、Ⅱ度:真皮まで、Ⅲ度:皮下組織に至る)の判断が難しいこと、部位によっては感染を来しやすいこと、手指は瘢痕(傷跡)ができて機能障害を起こす危険があることなどが挙げられます。
初期治療は消毒や軟膏を塗るのではなく、まず受傷部位を水で冷やします。時間をかけて十分に冷やすことにより、痛みが軽減するばかりでなく、深度や受傷面積が減少します。氷や保冷剤などで冷やしすぎると血行障害を起こしてしまいます。衣服の上からやけどした場合には、表皮を傷つけないために着たまま冷やします。
医療機関を受診する目安は、受傷面積が広かったり熱傷の程度が深い場合です。顔面、外陰部、肛門部は程度が軽そうでも受診した方が良いと思います。適切な治療により早期に痛みも軽減しますし、感染や傷跡のリスクも軽減できます。
臍の緒(臍帯)は血流がなくなると乾燥して赤ちゃんの腹壁に近いところで脱落します。瘢痕(傷跡)になり、収縮して皮膚に覆われておへそが完成します。瘢痕形成が十分に行われないと腹直筋に隙間ができてしまい臍ヘルニアになります。
成長して腹筋が発達してくると、ヘルニア門(ヘルニアの出口)が次第に閉じて、1歳ぐらいまでに90%が自然治癒するといわれています。しかし中には自然閉鎖しない例もあることから、綿球やスポンジで臍ヘルニアを圧迫する方法(圧迫療法)が積極的に行われています。最近ではへそにガーゼ球を詰め込む方法やウレタン製の圧迫材でヘルニアを押し込む方法が考案され治癒率は向上しています。圧迫方法は臍ヘルニアの状態によって決めます。
生後1~2か月から治療を開始すると早ければ2か月ぐらいで治癒することもあります。 圧迫は継続することが最も大切で、臍の状態を見て圧迫方法を変更していきます。圧迫材では先端が当たる臍の部位が重要です。 テープかぶれや皮膚の炎症が生じて潰瘍ができることがありますから適切な指導の下に行ってください。
血管腫(赤あざ)は血管が増殖した腫瘤で、小児の軟部組織腫瘍の中では最も多いものです。なかでも苺状血管腫は生後6か月ぐらいまで急速に増大します。発生部位、特に眼瞼などでは早期の治療が必要です。血管腫は自然に退縮するといわれていますが、時間がかかってしまうと瘢痕(傷跡)が残ることがあります。
積極的な治療には血管腫の種類や部位にもよりますがレーザー治療があります。痛みを伴いますし、熱傷を生じて瘢痕が残ることがあります。最近では心臓病に用いられるβ遮断薬を投与することもありますが、血管腫の種類、発生部位などに制限があります。また副作用予防のため初期には入院が必要です。
ところで以前から行われている方法に持続圧迫療法があります。もちろん血管腫の発生部位にもよりますが、生後早期から行えば多くは2、3年以内に消失します。圧迫はテープや包帯などで行いますので苦痛を与えることはありません。この方法をレーザー治療や薬物治療に併用すると治療期間を短縮できる可能性があります。血管腫は自然消退するとはいえ目についてしまいます。多少の工夫は必要ですが持続圧迫方法をまず試みるべきだと思います。
今年の夏、新型コロナウィルス感染症とともにA型インフルエンザが大流行しました。9月にはむしろインフルエンザの方が流行していす。インフルエンザが夏季に流行するのはこの30年間で初めてです。今までもわずかですが夏季にインフルエンザの発生はありました。また南半球から帰国した方の感染もありました。
インフルエンザが今夏流行した理由はこの数年インフルエンザの流行がなく、免疫を獲得していない人が多いためといわれています。しかし、2022年~23年の冬季にインフルエンザは流行しました。この時期にA型インフルエンザに感染したにもかかわらず、この夏に再び感染した人も少なくありません。
新型コロナウィルスと同様、インフルエンザも短期間に再感染することがあるのです。幸いインフルエンザには効果的な抗ウィルス薬があります。感染を広げないために感染に対する予防投与も考慮すべきかと思います。
10月には通常のインフルエンザワクチン接種が始まリます。ワクチンにはA型、B型それぞれ2種類の株が含まれています。今年流行する可能性を考慮して株が決められていますので、新たな流行が抑えられることを期待しています。
溶連菌感染症は90%がA群溶血性連鎖球菌の感染で起きます。普通のかぜと考えて不十分な治療をすると急性腎炎、リウマチ熱、心臓弁膜症などの合併症を来す疾患です。これらの合併症は3歳以上に起こりやすいといわれています。したがって早期に的確な診断と十分な治療を行い、さらに経過観察が必要です。
症状はのどが赤く腫れて痛む、高熱が続く、頸部のリンパ節が腫れる、頭痛、腹痛などが見られます。舌がイチゴの表面のようになることがあります(いちご舌)。また、小斑点状の皮疹が発症後3日以内に全身に広がり、痒みを伴うこともあります。
診断は咽頭ぬぐい液による迅速検査で、10分程度で結果が得られます。この迅速検査は症状が似ている川崎病、咽頭結膜熱、伝染性単核球症などとの鑑別にも有用です。
治療で最も大切なことは適切な抗生物質を原則10日間服用することです。発熱や皮疹がある場合には家庭で安静にします。抗生物質服用開始後24時間以上経って症状が消失し、食欲や元気がある場合は感染の可能性は低いといわれていますので登園、登校は可能です。合併症の有無は2週間以上経ってから確認します。
夏は、暑さ対策、水の事故、不慮の事故などいろいろ気を遣う季節です。なかでも乳幼児は熱中症、脱水に注意が必要です。皮膚では汗疹(あせも)が増えます。かゆみのため肌を引っ掻いてしまうと傷口からばい菌が入り、とびひになることもしばしばです。汗をかいたらまずシャワーで洗い流しましょう。さらに発汗を促したりかゆみを抑えるぬり薬を使うことも必要です。
夏かぜが流行るのもこの時期です。エンテロウィルスによるヘルパンギーナや手足口病では口の中が痛くなり経口摂取が困難になることもあります。夏かぜのウィルスは中枢神経系(脳、脊髄)の中に入り込みやすく無菌性髄膜炎を起こすことがあります。咽頭炎症状が強く出るアデノウィルス感染症や溶連菌感染症も流行し続けます。夏休み後半は感染症が減少していましたが、コロナ禍になってその傾向がなくなりました。
この季節は水の事故も増加します。小さいお子さんから目を離さないようにして下さい。外傷は時間帯を問わず発生する傾向があります。化膿しやすい時期ですから、小さなけがでも清潔を心がけ、適切な初期治療をしましょう。
暑い季節になりました。熱性障害(以下、熱中症)の発生に注意が必要です。小さなお子さんは体温調節機能が未熟なため熱中症に陥りやすいので特に注意が必要です。
高温多湿な環境では、大量の発汗の後、体温調節機能が機能しなくなると発汗が停止して,体温が高くなり(うつ熱)、脱水、電解質異常から血液などの循環障害を来し、ショック状態に陥ります。前駆症状として吐気や皮膚、口唇の乾燥がみられる他、興奮性の高まり、情緒不安定、攻撃性の亢進などがあります。
治療はまず体の冷却です。涼しいところで横にして頭部、頚部、脇の下、そけい部など太い血管が通っているところを冷やします。意識があれば冷たい水(スポーツ飲料など)を十分に飲ませますが、嘔吐があったり意識障害があれば点滴による水分補給が必要です。
予防が何より大切です。当然のことですが、炎天下を避けることと水分を十分とることです。特にスポーツでは休憩時間をこまめにとりましょう。さらに赤ちゃんや幼児は、車など、密閉されて暑くなるところには決して一人では残さないようにしてください。
ペットにかまれることはしばしばあります。大型の動物による咬傷は命に関わることもありますが、小型の犬や猫でも傷の部位、程度によっては治療を要します。
犬の咬傷は飼い犬によるものが多く、国内では狂犬病の心配はありません。海外では犬の他、コウモリなど野生動物による咬傷で年間3.5万~5万人が狂犬病により死亡しているといわれています。多発する地域に出かける場合は予防接種も考慮しましょう。
動物の口腔内には多数の細菌がいるため感染症発症のリスクが高いので、まず傷の十分な洗浄と消毒が必要です。その後に圧迫して止血します。なかなか止血しない場合や傷口が大きい時には一次的に縫合することもありますが、縫合せずに開放創としておくのが原則です。さらに適切な抗生物質も投与します。また傷の程度が軽くても、後日赤く腫れて膿が溜まることがあります。この場合は切開排膿します。感染が落ち着いてきたら絆創膏などによる固定法で傷跡が目立たなくなるようにしていきます。
咬傷の治療で最も重要なのは破傷風の予防です。ワクチン接種後、期間が経っている場合は直ちに破傷風トキソイドを接種します。
乳児の運動発達には個人差があります。生後4か月頃には首が据わり(定頸)、5か月頃から寝返りしてきます。まず前提となるのは筋力です。自分でよく動いている児は筋力が自然についてきますが、ほとんど仰向けに寝ている児は定頸や寝返りも遅れがちです。また、向き癖がついてしまうことが多く、頭の形が扁平になったり、股関節の異常も生じることがあります。
うつぶせ寝は危険といわれていますが、柔らかく顔が埋もれてしまうような寝具を用いないこと、うつ伏せにしたまま赤ちゃんから離れたりしなければ問題はないと思います。うつ伏せの姿勢はげっぷが出しやすく胃食道逆流症や腹部膨満の改善にも役立つことがあります。
運動発達を促す一つの方法ですが、生後3か月頃にうつ伏せで頭を持ち上げそうになったら、枕(ぬいぐるみなど)を抱えさせる形で上半身を上げてみると泣くこともなく姿勢が維持できます。そうすることにより筋力も自ずとついてきます。さらにうつ伏せが好きになると寝返りも容易にできるようになります。
発達などで心配なことがあれば予防接種や乳児健診の時に相談されると良いでしょう。
乳児期前半から何でも口で確かめる口唇期が始まります。発達に必要な行動ですが物をのどに詰まらせたり、気管に吸い込むと大変危険です。まずは口に入りそうなもの、危険なもの(薬も含め)はお子さんの手が届かないところに置きましょう。
異物を飲み込んで食道や胃、腸管に入ると消化管異物になります。直ちに生命を脅かすことは少ないですが、ボタン型電池や磁気治療の粒状の磁石は消化管に穴を開けてしまいます。ピアス、安全ピン、おもちゃなど先端がとがったものも同様です。異物の形や存在部位によっては、全身麻酔をして内視鏡や手術で異物を摘出する必要があります。
危険で急を要するのは喉頭、気管、気管支などの気道異物です。幼児でも直径が10mm以下のものは容易に吸い込みます。ピーナッツなどの乾燥した豆類も気道内で膨張して窒息を来します。口に物を入れている時は吸い込む危険性が極めて高いので、驚かせたり、泣かせたりしないようにしましょう。
窒息した場合は救急隊に連絡し、その間にも可能な限りの方法で異物の排出を試みます。喘鳴が続いて気管支異物が疑われる場合は全身麻酔をして気管支鏡検査をする必要があります。
新生児期、特に母乳栄養児では軟便が多く、1日に数回排便することもまれではありません。一方、肛門を刺激して排便を促す必要があることもあります。自然(自力)排便が3日以上ない場合に便秘症といわれています。
排便は肛門と直腸の構造や機能が問題なくても排便行動が正しく行われなければできません。また自然排便を期待して待ってしまうと便が出ないことに慣れてしまい、慢性的な便秘へと移行してしまいます。
肛門刺激で便が出なくなった場合は治療が必要です。まず溜まった便を浣腸で完全に排出します。その後便の性状が硬い場合は便を軟らかくする緩下剤を内服し、必要に応じて肛門刺激も併用します。十分でスムーズな排便が得られるように下剤の坐薬を併用することもあります。なお難治性の便秘のなかには器質的あるいは機能的な先天性、後天性の病気があることもあり注意が必要です。
便秘の治療は成人にも共通することですが排便習慣が確立するまで継続的に続けることが大切です。「便秘の治療」が癖になって自然排便ができなくなることはありません。
乳児はお母さんの免疫が母乳から移行するためにかぜはひきにくいとされてきました。しかし、新型コロナウィルス感染症やRSウィルス感染症ではこの移行免疫が少なく乳児期早期でも感染し、喘息様症状を来すことがしばしばあります。
ところでこの時期に重要なものに尿路感染症があります。尿路とは腎臓、尿管、膀胱、尿道のことです。幼児では排尿痛や頻尿などを訴えますが、乳児は発熱の他、不機嫌、哺乳しなくなるなどの症状のみです。血尿がみられることはあります。
尿路感染症の多くは尿道からの逆行性感染です。女児の場合は尿道が短いため細菌が侵入しやすいともいわれています。時には先天性の腎臓や膀胱、尿道に異常があることがあります。本来尿には白血球や細菌は存在しません。採尿パックで採取した尿にこれらが見つかると尿路感染症の可能性が大です。
治療はまず抗生物質の経口投与です。高熱で腎盂腎炎が疑われる場合、膀胱尿管逆流症や水腎症などが疑われる場合は、入院して精査、治療する必要があります。
新型コロナウィルス感染症の流行により感染症に関する関心、不安が増えました。保育園や幼稚園などで集団生活をするお子さんは感染症にかかることが多く、心配されることでしょう。
特に初めて集団生活するようになるとかぜ症候群などの感染症にかかります。これはウィルスに対する抗体がないので当然のことです。感染して抗体を獲得すれば感染症にかかることも少なくなります。この過程は成長の一環として必要です。幼児期を過ぎて小学校にあがると病気になることはずっと少なっていきます。新型コロナウィルスもやがて集団免疫が完成し、ウィルスが変異して通常のウィルスになればそれほど心配することはないと考えられます。
一般的な感染対策についてはこの3年間でよく理解されていると思います。集団生活で気をつけたいのは感染あるいは感染源となるのは必ずしも子ども達だけではなく、保育する方々も含まれます。感染対策としてまず感染症を恐れることが必要ですが、過剰になることはありません。ある程度の感染は免疫獲得のために必要です。予防接種を積極的に接種すること、感染した場合に大切なことは重症化しない、合併症を起こさないように適切に対応することです。
生後1か月は新生児期が過ぎて乳児期に移行します。生後2か月からは定期の予防接種が始まり、生後3か月には乳児健診があります。予防接種はどのように始めたらよいのか、乳児健診では何をするのかなどの疑問を持たれたり、さらにコロナ禍で外出を心配される方も多いと思います。
生後2か月から始めるワクチンは乳児期の危険な病気に備えるためです。ヒブワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種で乳児の細菌性髄膜炎は激減していますし、ロタウィルスワクチン接種で感染性胃腸炎とそれに関連する脳炎、脳症も減少しています。B型肝炎ワクチンはB型肝炎感染予防のためですがこれは終生免疫となります。ワクチンの同時接種もすっかり定着しておりまず心配ありません。
更にこの初回の予防接種時に診察することで赤ちゃんの異常を早期に発見、治療するメリットが生まれました。例えば臍(へそ)ヘルニアや股関節脱臼は治療を開始することができます。3か月から始まる乳児健診ではさらに詳細な身体検査(発達診断、超音波検査など)、育児相談、栄養相談を加えていきます。乳児期の定期的な健診は発育の評価と支援に役立ちます。
新型コロナ感染症の流行が続く中、初めての子育ては大変です。乳児期からみられる下痢、発熱、咳、湿疹などの治療には何らかの薬が必要です。また内服薬(粉末、水薬)、坐薬、軟膏、点眼薬など、形態によりそれぞれ投与に工夫を要します。
赤ちゃんの場合、投与は必ずしも授乳の後にすることはありません。空腹時に水薬はそのまま、粉薬は少量の水に溶いて(ペースト状にして)口の中に入れ、その後に授乳します。お子さんが好む味に混ぜて与える方法もありますが、かえって苦くなることもあります。うまく飲めたら褒めてあげてください。多くのお子さんはそのうちお薬を粉のままでも飲めるようになります。
坐薬はワセリンやベビーオイルで滑り易くし、肛門を確認してまっすぐにそっと押し込むようにします。抵抗なく進めば坐薬はスルッと入ります。点眼薬の差し方はお子さんを仰向けにして目をつぶらせて、目頭のくぼみに薬を滴下してから目を開けさせると良いでしょう。薬は眼の中に流れていきます。
今後さらに薬の開発は進むと思いますが、薬の投与にも保護者の方の愛情と努力は欠かせないものです。
生まれてから1か月を新生児期といいます。出生直後から赤ちゃんは自分で呼吸をし、哺乳、排尿排便をしなければなりません。呼吸の状態や心音、全身状態がまず確認されます。胎便(最初の便)の排泄があるかどうか、嘔吐や哺乳不良がないかなど消化器の異常も観察されます。黄疸は程度により血液検査で確認され、治療も行われます。また胆道閉鎖症については2か月間は便の色の観察が必要です。明らかな異常がなければ5日程度で退院です。
退院してから見つかる病気ですが、排便異常は肛門狭窄やヒルシュスプルング病、嘔吐を繰り返す胃食道逆流症、胃軸捻転、2,3週目から発症する肥厚性幽門狭窄症などが挙げられます。新生児期の発熱で時々あるのが尿路感染症です。膀胱から尿が腎臓に逆流して生じる水腎症が見つかることもあります。
1か月健診からは乳児期で、そけいヘルニア、停留精巣、臍ヘルニアなどが明らかになってきます。生後2か月から定期の予防接種が始まり、股関節脱臼や頭蓋骨変形症なども早期発見、治療が可能になりました。1か月毎にある予防接種や乳児健診は赤ちゃんの発育をみるとても良い機会です。
外科の中で「子どもは大人のミニチュアではない」というキャッチコピーが小児外科です。病気の種類だけではなく成長・発達という要素があるため、治療には小児医療全般にわたる知識と技術が必要と考えられました。国立小児病院(現、国立成育医療センター)ができて我が国の小児の総合医療が始まりました。1977年に筑波大学は全国の大学病院の中で最も早く小児内科と小児外科が一つの診療グループとなって診療を開始しました。
大学病院などの総合病院では新生児や乳児の手術、胆道閉鎖症、胆道拡張症、水腎症、急性虫垂炎や悪性腫瘍の治療、そけいヘルニア、停留精巣、臍ヘルニア、包茎などで手術が必要な場合に入院治療が行われています。
外来診療では臍ヘルニア、包茎、便秘症や血管腫、リンパ管腫などの外表の病気の治療を行います。もちろんけが(外傷)や熱傷の治療も行っています。子どもの将来を考え、すべての治療で侵襲が少なく傷跡が目立たない工夫がなされています。
小児外科も標榜する小児科は全国でも少ないですが、小児の総合医として連携して診療しています。
毎年3月、4月は慣れ親しんだ土地を離れたり、また新たに転居して来る方も多い時期です。診療させていただいたお子さん達との別れは寂しいですが、皆さんの成長した姿を見て安堵しています。
ところで転居されて来られた方は慣れない土地で不安も多いかと思います。1989年に誕生したつくば市はその20年余り前から筑波研究学園都市として開発が始まりました。筑波大学附属病院は1976年に開院し、その後関連する総合病院も作られ、他の地域と遜色ない医療体制ができています。小児科診療所も2000年代から増えて、医師会やつくば市との連携もあって小児医療も充実してきました。
現在も新型コロナウィルス感染症の流行に社会、医療の混乱は続いています。このなかでも通常の疾患や外傷は診療が必要です。また、小児に必要な予防接種や乳幼児の健診も行う必要があります。この2年余りの間に個々の医療機関はそれぞれに感染対策に工夫を凝らして診療体制を整えています。
お子さんのためにまずは保護者の方がこの地に慣れていただくことが大切です。心配なことがあればホームページ等の情報だけではなく、直接小児科にもご相談されるとよいでしょう。
赤ちゃんのうんちは体の状態を示す指標です。生後まもなく出る黒っぽい便を胎便といいます。排泄が24時間以上ない場合は直腸の神経に異常があるヒルシュスプルング病を疑います。通常産科入院中に疑われます。退院後は便の色に注意します。母子手帳に載っている便色カードと比較して便が白っぽい状態が続く場合は胆汁が肝臓から腸に排泄されない胆道閉鎖症を疑います。
ところで便の性状ですが新生児期の便は多くは水様ないし泥状です。特に母乳栄養児ではそうです。便汁によりおむつかぶれが生じますので、こまめにお尻を洗いましょう。1日に数回の排便が生後1か月を過ぎると回数が減ったり、時には便秘になることがあります。排便は肛門の排便機能によりますが、便が硬くなってくるとそれに対応できなくなります。毎日排便していれば便は通常軟らかく、腹圧がかかれば排便できます。乳児期には排便習慣がまだ確立していないので、便の性状によっては排便困難、便秘となってしまいます。この場合は綿棒などによる肛門刺激を続けることです。
したがって柔らかい便は排便にはむしろ適しています。中には乳糖不耐症などもありますが次第に有形便になっていきます。
赤ちゃんの臍(へそ)の緒は自然に落ちて傷跡(瘢痕)になり、間もなく皮膚に覆われておへそが完成します。ところが瘢痕が形成されず皮膚と腹膜だけになるとでべそ(臍ヘルニア)になります。生後2~3か月頃まで次第に大きくなることもあります。
成長に伴って腹筋が発達してくると徐々にヘルニア門(ヘルニアの出口)が閉じてきて、1歳ぐらいまでに90%が自然治癒するといわれてきました。一方、古くから臍ヘルニアを圧迫すると治癒が早くなることは知られていました。
この20年間、綿球やスポンジで臍ヘルニアを圧迫する方法(圧迫療法)が積極的に行われるようになりました。それにより手術を要する臍ヘルニアは減ってきました。最近ではへそにガーゼ球を詰め込む方法やウレタン製の圧迫材でヘルニアを押し込む方法が考案されさらに治癒率は向上しています。
臍ヘルニアの状態によって圧迫方法を決めます。生後1~2か月の早期から治療を開始すると早ければ1~2か月で治癒することもあります。 絆創膏や圧迫材による皮膚の炎症が起きる場合がありますが、圧迫は中断することなく継続することが重要で、臍部の状態を見て適切な圧迫法に変更したり処置を加えていきます。
小さいお子さんは転んで机の角や地面にぶっつけて顔面を傷つけることが多く、傷跡が残ってしまうと目立ちます。けが直後はまず啼泣しているお子さんをなだめることと止血することです。傷を軽く圧迫することでよほどでない限り10分以内に止血します。切創や裂創の場合は軟膏を付けたり創傷被覆材で覆わないで消毒するだけで構いません。異物が残ったまま覆ってしまうと感染が起こり、治癒が長引いて傷跡が目立ってしまいます。
傷が浅く小さい場合はテープ固定で済むことがあります。もちろん皮膚の層を合わせる必要があり、テープの種類、強さ、長さなど工夫が必要です。ところが小さいお子さんの場合、テープを剥がしてしまうことが多く固定に難渋することが多々あります。傷の縫合(縫うこと)はきれいに治すために行います。傷が深い場合はテープ固定では不十分です。皮膚の各組織がきちんとくっついたほうが傷跡は目立たなくなります。
さらに抜糸後にテープ固定を続けることが瘢痕形成の防止にもなります。このテープ固定は瘢痕治療にも有効で少し時間が経ってしまった傷跡も軽快する可能性があります。
母子健康手帳(母子手帳)は1947年に「母子手帳」として妊産婦と小児の健康の記録に用いられるようになりました。1960年に「母子健康手帳」となり妊娠を届け出ると交付されます。母子手帳に自由に成長の記録を記載できるようになったのは1981年からで、2012年に様式が変更されて現在に至っています。お母さんに書き加えられた成長の様子、病気の記録などは乳幼児健診や予防接種に際して極めて重要な情報になっています。
予防接種では母子手帳の予防接種欄で接種回数、接種間隔などを確認することとなっており、手帳を持参しなければ接種ができません。ところが様式が同一でないことがあり交付した自治体によっては確認に注意を要することがあります。予防接種の誤接種回避などのために予防接種欄は統一してほしいものです。
ところで私の長男の時には「就学時まで保存」、次男の時からは「中学入学まで保存」の赤いスタンプが表紙に押してありますが今は押されていません。母子手帳は生涯にわたり必要な記録です。今後デジタル化されると思いますが、紛失に備えてスマートフォンで定期的にページを撮影しておくと良いでしょう。
昨年はインフルエンザのワクチン接種が積極的に勧められましたが、予想に反してインフルエンザの発生は皆無に等しかったのです。なぜ今年は流行すると考えられているのでしょうか。その一つに昨シーズンは流行がなかったためインフルエンザの免疫(抗体)を持っている人が少ないと考えられているのです。
インフルエンザワクチン接種は例年5~6000万回程度は行われています。しかし感染防御はワクチンに含まれるウイルス株の当たり外れで大きく変化します。さらにウイルスの力も流行や終息に大きく関与しています。
ワクチン接種は感染対策ではとても重要です。ところが今年はワクチン供給が昨年の7割程度でしかも10月の供給量がより少なくなりました。2010年まで13才未満は1回接種量が0.1ml、0.2ml、0.3mlと細かく分けられていましたのでより多くの子ども達に接種でました。その後は3才以上の1回接種量は成人と同じ0.5mlです。
現在は日常的に十分な感染対策が行われています。したがってインフルエンザに感染した場合は適切な抗ウイルス薬で対応したり予防投与をすることになると思います。
今年5月から爆発的に流行したRSウィルス感染症も終息してきました。この感染症は1才までに50%、2才までにほぼ100%の乳幼児が感染し生涯何度も感染を繰り返します。初感染の乳幼児の7割は上気道炎症状で治癒しますが3割は細気管支炎や肺炎で入院が必要になるといわれています。感染の多くは保育所などの集団生活で残りは家庭内感染です。
1才までの乳児期には予防接種や乳児健診などで医療機関を受診する必要があります。生後2か月から始まる予防接種は乳児期から感染する危険な病気の備えです。同時に赤ちゃんの異常も早期に発見することができます。なかでも臍(へそ)ヘルニアや股関節脱臼などは予防や治療することで完治も可能です。通常生後3か月から乳児健診が始まります。成育状況や発達状況を確認して同時に2回目の予防接種を行います。その後の予防接種や乳幼児健診でもその都度身体計測や診察をして赤ちゃんの発育を確認し、適切なアドバイスをいたします。
医療機関では時間帯を分けることなどで感染対策をしています。心配なことがあれば簡潔にメモをして積極的に受診されることをお勧めします。
新生児のおちんちんのほぼ100%は包皮がかぶった状態です。包皮を押し広げても亀頭部が全く見えない状態を真性包茎といいます。何もしない場合、1~3才で20~30%、3~6才で5~10%、10才以降で2~3%に真性包茎があリますが、このように成長するにしたがって包茎は自然に治っていきます。
乳児期から包皮口を拡張する手技(かつては私も積極的に行っていました)もありますが、少しでも亀頭が見えるようであれば不要です。無理に広げると包皮が傷ついて萎縮し真性包茎になることがあります。時には亀頭全部が露出して戻せなくなる事故(嵌頓(かんとん)包茎)もあり危険です。
赤ちゃんの陰茎も勃起することで包皮口が拡がり多くの包茎は改善されていきます。また3才以降ではステロイド軟膏を毎日陰茎の先端に塗ることで包茎が治ることもあります。外傷性の包茎と小学校以降の真性包茎の一部が手術の対象になります。
おちんちんは毎日包皮の上から石けんでもみ洗いして清潔にしておくことで十分で亀頭包皮炎の発生も防げます。万一包皮炎が起こった場合は無理をせず早めの受診をお勧めします。
新型コロナウィルス変異株による第4波では感染者の急激な増加が危惧されます。この変異株の特徴は感染し易いこと、重症化し易いこと、さらに若い世代にも蔓延し易いことなどです。変異株とはウィルスの構造の一部が変わって性質が変化したものです。最終的には今までのコロナウィルスの「かぜ」を発症する程度の株に変異することが望まれます。この変異は何らかの原因で突然起こります。地域いわゆる環境による場合が多いと思われますが、今後はワクチンが原因で変異してしまうこともあります。そうなるとワクチンは効かなくなってしまいます。ワクチン接種は可能な限り早期に終了して、今流行している株に対する免疫を獲得してしまう必要があります。ワクチン接種が遅い中途半端な状態が続くと、新たな変異株が発生する可能性が高くなります。
ところで子ども達の感染対策でマスクには賛否あります。呼吸状態や精神発達に対する悪影響は否定はできません。マスクに完全な感染防御を求めることは不可能ですから嫌がるお子さんに無理に着用させることはなく、本人が好む材質やデザインのものを選ばれると良いと思います。
新型コロナウィルス感染症も第4波の流行を迎えました。一方、ワクチン接種も行われるようになり効果も期待されるところです。こんな時期ですので子育ての疑問のいくつかに私なりにお答えします。
赤ちゃんが生まれて間もなく口にする薬はビタミンKです。これは空腹時に与えた方が飲んでくれるので哺乳の前にあげるとスムーズです。その後、病気にかかった場合も同様です。乳幼児期の薬のほとんどは食事に関係なく飲みやすい形であげて構いません。
運動に関しては寝返りがあります。寝返りの仕方は得意な方向があるようです。同じ方向しか寝返りしないのも、本人はひっくり返ることが目的ですからできる方向しかしません。これははいはいも同様です。下半身を使わないで腕だけで前進することはよくあります。つかまり立ちができていれば大丈夫です。いずれの動作も立って歩けるようになってできるようになります。
食事は本人が好きなものをしっかり食べていれば、発育も良好で免疫力もつきます。また虫歯菌は目に見えませんから乳歯の虫歯にはそれほど心配しなくても良いでしょう。永久歯になってからの本人の自覚が大切です。
生後24時間以内に胎便の排出があれば排便機能は正常と考えられます。新生児期、特に母乳栄養児では軟便が多く、水様便が頻回にみられることもあります。また便が硬くなくても肛門を刺激して排便を促す必要がある赤ちゃんもいます。中には外科的疾患も検討すべき時もありますが頻度は高くはありません。
生後1か月を過ぎると排便回数は減ってきます。自然排便が3日以上ない場合を便秘症といいます。肛門、直腸の構造、機能が正常であっても排便行動がうまくできなければ便は出ません。自然排便を期待して待ってしまうと便が出ないことに慣れてしまいます。まずは綿棒などによる肛門刺激を行います。これは肛門に便が来ているという指示を与えるので極めて生理的な方法です。
治療ではまず溜まった便を完全に排出します。便の性状が硬い場合は便を軟らかくする緩下剤を投与し、必要に応じて肛門刺激も併用します。それでも十分な排便がない場合には下剤の坐薬を併用します。
いかなる年令でも便秘の治療は排便習慣が確立するまで継続的に続けることが大切です。「便秘の治療」が癖になって自然排便ができなくなることはありません。
幼児期前半から口で確かめる口唇期が始まります。発達に必要な行動ですが物をのどに詰まらせたり、気管に吸い込むと大変危険です。まずは口に入りそうなもの、危険なもの(薬も含め)はお子さんの手が届かないところに置きましょう。
飲み込んで食道や胃、腸管に入ると消化管異物になります。直ちに生命を脅かすことは少ないですが、ボタン型電池や磁気治療器の粒状の磁石は胃や腸管に穴を開けてしまいます。ピアス、安全ピン、おもちゃなど先端がとがったものも注意を要します。
さらに危険で急を要するのは喉頭、気管、気管支などの気道異物です。幼児でも直径が10mm以下のものは容易に吸い込みます。ピーナッツなどの乾燥した豆類は気道を閉塞し窒息を来します。また口に物を入れている時は吸い込む可能性がありますので驚かせたり、泣かせたりしないようにしましょう。窒息に対しては緊急の対応が必要です。まず救急隊に連絡し、その間にもできる限りの方法で異物の排出を試みます。
ところで異物誤飲が疑われたら、飲み込んだと思われる同じ物を医療機関に持参してください。
乳児の発達は個人差が大きく、生後5か月頃からずりばいをする児もいればできない児もいます。このお子さんはうつ伏せでぐるぐる回るということから筋力は十分にあると思われます。
生後4か月頃から首が据わり(頸定)、5か月頃には寝返りしてきます。まず前提となるのは筋力です。自分でよく動いている児は筋力が自然についてきますがほとんど仰向けに寝ている児は頸定や寝返りも遅れがちです。3か月頃からうつ伏せで頭を持ち上げそうになったら、うつ伏せの状態で上半身を上げてあげると泣くこともなく姿勢が維持できるので筋力も自ずとついてきます。うつ伏せが好きになると寝返りもできるようになります。ずりばいも何かに興味を持たせるとその方向に進む可能性が高くなります。
発達には個人差がありますから手足をあまり動かさないなどの状態がなければ心配することはありません。コロナの時代になって乳児期に他の赤ちゃんとの接触の機会が減ってしまいました。何か心配なことがあれば予防接種や乳児健診の時に相談されると良いでしょう。
新型コロナウィルス感染症の第3波が来て感染者は急増しました。新興感染症は誰もが経験したことがなく、その対策は感染防御と感染者の発見、隔離が行われてきました。10年ほど前に発生した新型インフルエンザは日本では急速に終息しました。この時は極めて早くワクチンが製造されましたがコロナウィルスであるSARSやMERSは確実なワクチンがありません。新型コロナはパンデミックであるとはいえ世界の発生状況や病状は様々です。その差異については明確ではありません。しかしウィルスは日々変異しておりやがては通常のかぜウィルスとなり感染は終息するはずです。
マスクの着用、手指消毒、3密対策はやはり重要です。インフルエンザでも感染対策をしてもある程度は流行してしまいます。新型コロナにも季節あるいはウィルスの変異による流行がありますから感染対策が無意味なわけではありません。
乳幼児は重症化することは少ないといわれています。感染機会も少なく発端者になることはまれですから、まずは保護者の感染対策や防御が重要です。
新型コロナウィルス感染症が流行し始めた今年3月、学校の一斉休校が始まりました。学校が休みになれば子ども達の外傷は少なくなると思っていましたが、運動不足を解消しようという皆さんの努力のためか、スケートボードやリップスティックによる外傷が目立ち、例年の同時期より増加傾向にありました。
けがをした時には出血や痛みのためにパニックに陥ってしまいます。まずすべきことは止血です。ティッシュペーパーでいいですから傷を拭かずに圧迫することです。よほどのけがでない限り10分ほどで止血します。
傷が切創や裂創の場合は軟膏を付けたり創傷被覆材で覆わないで、テープで傷を寄せてみるか医療機関で処置をすべきです。擦過傷などの皮膚欠損創は被覆材が有効な場合があります。しかし創部の汚染を除去しなければ感染が助長され、傷跡が目立つことになります。異物の除去に麻酔を要することもあり、心配な場合には医療機関を受診しましょう。処置が適切に行われ、さらに術後の経過にあった治療が行われれば傷跡は目立たなくなります。
インフルエンザの予防接種の時期が始まりました。今年は新型コロナウィルス感染症の流行により接種が例年以上に推奨されています。これはインフルエンザを重症化させないためと、インフルエンザか新型コロナかの鑑別機会を減らすためです。
インフルエンザワクチンは今年約3175万本製造され、0.5mlの接種量では約6300万回分になります。成人では6300万人分になりますが、13歳未満の小児は2回接種ですので接種できる人数はさらに減少します。ワクチンは毎年流行を予測して製造されています。その年の流行株に一致しないと効果は低くなります。また有効期間とされる5~6か月を過ぎても多くの場合抗体は残っています。それは抗体が維持・存続する人と、インフルエンザに感染することにより抗体がさらに増加(ブースタ効果)した人がいるためです。
手洗い、うがい、マスクの着用はすでに新型コロナ対策で定着しています。しかし、もしインフルエンザの感染が疑われた場合、その重症化を防ぐことと感染を広げないためには検査を待たず薬物治療を行うほうが良いと考えています。
「子どもは大人のミニチュアではない」というキャッチフレーズで始まったのが小児外科です。病気の種類が成人と異なることや成長、発達という要素があるため、治療にあたっては小児医療全般にわたる専門的知識が必要と考えられたのです。国立小児病院(現在の国立成育医療センター)ができて我が国の小児の総合医療が始まりました。1977年に筑波大学は全国の大学病院の中で最も早く小児内科と小児外科が一つのグループとなって診療をスタートしました。
先天性の病気を持った新生児や乳児の手術、胆道閉鎖症、胆道拡張症、水腎症、急性虫垂炎や悪性腫瘍の手術・治療など、そけいヘルニア、停留精巣、臍ヘルニア、包茎などで手術が必要な疾患も対象です。外来診療では臍ヘルニア、包茎などは手術を行わず治療したり、便秘症や血管腫・リンパ管腫などの外表の病気の治療も行っています。もちろん外傷や熱傷も含まれています。すべての治療で侵襲が少なく傷跡が目立たなくする工夫がなされています。
ところで全国の小児外科も標榜する開業医は、こどもの総合医として連携して診療しています。
新型コロナウィルス感染症のため育児に関する心配事が解決できない日々が続いていることと思います。赤ちゃんの食事に関してはミルクの飲みが少ない、あまり食べなくて離乳食が進まないなどと悩まれることが多いようです。
離乳食とは母乳、ミルク栄養から幼児食に移行するための食事です。赤ちゃんが好きなものは何か試したり、月齢が進むに従って種類や量を増やしていくものです。育児書の多くにはそれぞれの時期の離乳食の種類や量の記載があります。これらは時代に合わせて記載されてきましたが、実際はほとんど変わりません。離乳食(法)はかつては地域や家庭によって異なったものでした。
まず離乳食は赤ちゃんが好きなもののみあげて構いません。赤ちゃんはいろいろなものを口にするたびにいろいろな表情をします。それに答えて声掛けをしたり、一緒に楽しんで下さい。初めは母乳やミルクにはかなわないのですが、食べることの楽しみを覚えてくれると自ずと離乳食の摂取量は増えていきます。栄養のバランスは離乳食が十分摂れるようになってからで間に合いますし、離乳が完了する時にバランスがとれていれば良いのです。
新型コロナウィルス感染症が日本で発生して3か月になります。この期間は感染封じ込めとして、検疫と感染源の特定が中心となる対策が行われてきました。勿論、感染対策についても繰り返し報道されてきましたが、感染者数、感染地域などに注目され、感染を防ぐ具体的方法は手洗い、マスク、アルコール消毒に限られていました。これらを行っていれば大丈夫という認識のため行動制限が十分ではありませんでした。
「感染しない」からかつ「感染させない」という認識にかわる機会が緊急事態宣言です。次第に三密(密閉、密集、密接)を避ける意識が広がっていますので感染の機会は自ずと減っています。
ところで小さなお子様がいらっしゃるご家庭ではとても不安な日々をお過ごしのことでしょう。子育ては不休です。そこで最も大切なことはご両親の健康と感染回避です。親の様子を見ている彼らは今マスクを当たり前のように着け、アルコール消毒もしています。この時期でも乳幼児にとって大切なことは予防接種と健診です。現在行われている予防接種は感染症と戦った歴史的賜物です。小児科は十分な感染対策をしていますので遅滞することなく積極的に受けて下さい。
発熱はからだの防御反応で進入した病原菌と戦い病気を治す機能だといわれています。乳児期の特発性発疹症はウィルスによるもので、お子さんが比較的元気で、食欲もあり機嫌がいい場合には熱があっても様子を見て良いと思います。一般に発熱とは37.5℃以上のことをいいます。解熱剤が処方された場合、39℃の高熱でもお子さんが元気で食欲もあり、様子もいつもと変わらなければ解熱剤は使う必要はありません。一方、38℃以下でも機嫌が悪い、食欲がない場合に解熱剤を使うと状態が改善することがあります。大切なことはなにより水分補給です。
ところで新型コロナウィルス感染症では遺伝子増幅法(PCR)による検査が行われていますが、これはウィルスの存在を確認するものです。したがって感染して一定期間過ぎるとウィルスに対する抗体が産生されるため陰性となります。いわゆる免疫がつくわけです。乳児期に開始される予防接種はウィルスに対するものが多く、それぞれの免疫をワクチンによって獲得できます。新型肺炎に対する迅速検査法や抗ウィルス薬はまだありません。この20年間でインフルエンザの診断・治療ではかなり進歩しました。新型ウィルスに対するワクチン、検査法、治療法の早期の確立が望まれます。
赤ちゃんの臍(へそ)の緒は生後1週間までに自然に落ちて傷跡(瘢痕)になり、その後表面が皮膚に覆われていきます。傷跡がへこんでおへそが完成します。ところが瘢痕がなく皮膚と腹膜だけになるとでべそ(臍ヘルニア)になってしまいます。
生後2~3か月頃に臍ヘルニアは最も大きくなります。腹筋が発達してくると徐々にヘルニア門(ヘルニアの出口)が閉じてきて1歳ぐらいまでに90%が自然治癒するとされています。このため「何もしなくてもいいですよ」といわれてきました。
しかし古くから臍ヘルニアを圧迫すると治癒が早まることは知られていました。そこで綿球やスポンジで臍ヘルニアを圧迫する方法が行われてきました。それにより臍ヘルニアは減ってきましたが、中には治らないこともあります。最近ではガーゼを玉にしたものやウレタン製の圧迫材をヘルニア門の中まで押し込む方法が考案されさらに治癒率が向上しています。臍ヘルニアの状態によって圧迫方法を決めますが、生後1~2か月の早期から圧迫療法を開始すると早ければ1~2か月位で治癒することも増えてきました。
赤ちゃんは哺乳後にげっぷが出ると落ち着きます。哺乳時に空気も同時に飲み込んでしまいおなかが張っています。飲み込んだ空気を出すのがげっぷ(排気)です。
生まれながらにして上手にげっぷができる児もいますが、なかなかげっぷができなくて嘔吐してしまう児もいます。赤ちゃんの胃は大弯側(立位では下の方)が前上方に上がっている胃軸捻転状態で、飲み込んだ空気はそこに貯まります。胃が張ってしまうと呼吸は苦しくなり、さらに腸に流れた空気のため胃が押し上げられると十分にミルクが飲めず不機嫌になってしまいます。
げっぷの方法は向かい合わせに立て抱きし、赤ちゃんの上体を前傾させる姿勢(お母さんがソファの背もたれに寄りかかり、45度の傾斜ができる状態)を維持します。そうすることにより胃軸捻転状態が軽減し、空気が食道の方に移動するので排気し易くなります。背中を軽くたたいたり擦るのもいいですが、げっぷが出るまでゆっくり待ちましょう。
嘔吐の回数が多い、噴水のように吐く、あるいは吐物に血液が混じっている場合、胃食道逆流症や肥厚性幽門狭窄症が疑われます。いずれも適切な処置が必要ですので小児外科を受診しましょう。
新生児のおちんちんのほぼ100%は包皮がかぶっています。包皮を押し広げても亀頭部が全く見えない状態を真性包茎といい、何も処置をしない場合、1~3才で20~30%、3~6才で5~10%、10才以降では2~3%に真性包茎があるといわれています。つまり包茎は成長するにつれ自然に治っています。
3才以降に亀頭が全く露出できない場合、ステロイド軟膏を毎日陰茎の先端に塗ることで包茎が改善することもあります。外傷性の包茎と小学校以降の真性包茎の一部が手術の対象になります。赤ちゃんのおちんちんは毎日包皮の上から石けんをつけてもみ洗いすれば十分で、包茎の状態でも亀頭包皮炎の発生は防げます。
10月になりインフルエンザワクチンの接種が始まっています。ワクチンにはA型、B型それぞれ2種類の株が混合されていますが、毎年、流行を予測してワクチン株が選定され(4月)、メーカーで製造、国家検定(9月)が行われて接種開始は10月になります。
本年度の製造本数は1mlバイアルで2951万本、小児では2951万人分ということになりますが、成人も入りますので延べ人数ではさらに増えます。接種状況ですが2~15歳までの小児では45~70%、成人では10%程度の摂取率です(2018年度)。ちなみに1歳未満は5%、1歳は30%でした。製造量は使用量を想定して決められています。
各医療機関には10月第1週に3分の1、10月末までに3分の2、11月末までにほぼすべてが供給される予定です。インフルエンザワクチン接種が比較的早期に終了する主な理由は供給量の割り当てですが、定期の予防接種を優先的に行っていることも理由の一つです。接種されたワクチンの有効期間は5~6か月といわれていますが、2回接種が必要な小児は早めに行うことが感染予防のうえで重要です。早期にインフルエンザが流行した場合の感染予防は勿論ですが、抗体産生の上でも意義があります。
生後1か月で産科での健診が終わり、小児科で予防接種や乳児健診が始まります。特に初めてのお子さんの場合は予防接種は何をどのように始めたらよいのか、乳児健診では何をするのかなど不安に思われると思います。
生後2か月から始まるワクチンは乳児期の危険な病気に備えるためです。実際ヒブワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種が始まって乳児の細菌性髄膜炎は激減しています。また同時接種も我が国ではすっかり定着し、まず心配はありません。
この2か月時の診察で赤ちゃんの異常を早く見つけられるようになりました。なかでも臍(へそ)ヘルニアや股関節脱臼は早期から治療ができ保存的治療で完治も期待できます。3か月から乳児健診が始まりますが、同時に2回目の予防接種も受けることが可能です。この健診では身体計測、身体検査によって発育を確認するほか当院では超音波検査で内臓を確認したり、専門家による育児相談、栄養相談、発達相談を行っています。その後7~9か月健診では眼の検診なども加えて1歳までの成長を見守っています。
暑く湿気の多い夏が始まりました。特に成人に比べて体表面積が相対的に大きい乳幼児では熱中症、特に脱水に注意が必要です。この季節に増える汗疹(あせも)はかゆみのため肌を引っ掻いてとびひになることがあります。シャワーや行水で汗を洗い流すことが最も有効です。さらに発汗を促したりかゆみを抑えるようなぬり薬を使うことも役立ちます。
夏かぜが流行るのもこの時期です。エンテロウィルスによるヘルパンギーナや手足口病では口の中が痛くなり水分、食事が摂りにくくなります。夏かぜのウィルスは中枢神経系(脳、脊髄)の中に入り込みやすく無菌性髄膜炎を起こすこともあります。咽頭炎の症状が強く出るアデノウィルス感染症や溶連菌感染症も夏休みが始まるまで流行し続けます。前者は40度近い高熱が4、5日続いて時には結膜炎まで発症し咽頭結膜熱に発展することがあります。後者は腎炎やリウマチ熱などの合併症を予防するために適切な抗生物質を服用する必要があります。
夏はいろいろな事故も起こります。気をつけて楽しい夏を過ごしましょう。
昔から男の子は女の子よりけがが多く、女の子の8倍といわれてきました。しかし最近では女の子もしばしばけがをします。頭部、顔面の傷や四肢末端のけがは出血が多くても、傷口はそれほど大きくない場合が殆どです。出血してるところを軽く圧迫しているとしばらくすると止血します。
切り傷や裂傷で縫合(縫うこと)したら傷跡になるのではと心配をされる方がいらっしゃいます。しかし傷はテープのみでは十分な固定ができず、後になって傷跡が広がったり、盛り上がったりしてしまうことがあります。もちろん適切な縫合が必要です。また受傷直後から創傷被覆材(ハイドロコロイドドレッシング)を用いる方がいらっしゃいます。切り傷では浸出液で傷口が広がるので好ましくありません。
また傷口の洗浄はお子さんがとても痛がるので多くの場合は不十分です。そのため感染を起こして治癒が遅れる場合があります。洗浄にこだわることもありません。傷は治癒が早いほど傷跡を残す確率が低くなりますので適切な処置をしましょう。
乳児の下痢では発症が急であったり、不機嫌や腹痛を伴う場合には感染性の下痢を考えるべきです。また、嘔吐や、ミルクを飲まない、食事をとらないなどの症状がある場合には脱水も生じます。多くはロタウィルスなどウィルス性胃腸炎です。ロタウィルス感染はワクチン接種により減少し、重症化することも激減しました。風邪に伴う下痢症はまだまだ流行しますが、整腸剤などにより数日間で改善します。しかし、中には病原性大腸菌など抗生物質投与が必要な場合もありますし、ノロウィルスによる胃腸炎など重症化するものもあり注意が必要です。
乳児期の長く続く下痢のほとんどは感染性のものではありません。このような場合は赤ちゃんは機嫌もよく、食欲もあります。普段の便の状態と違って水様である場合には下痢ですが、離乳食やミルクの変更により、腸内細菌が変化することにより長引くことがあります。便の性状が完全に元に戻らなくても整腸剤などによって少しでも改善するようであれば、腸の状態がよくなるのを待ちましょう。また下痢便の場合、おむつかぶれが生じたり、悪化することがありますので気をつけましょう。
排便が3日以上ない場合に便秘症といわれます。自然排便を期待して待っていると、便が出ないことに慣れてしまいます。新生児期に正常な排便があった赤ちゃんには外科的疾患はまずありません。ところでこの時期に一日数回あった排便が、生後1か月過ぎてから回数が減ることもよくあります。一日の排便回数が少なくなっても、便が硬くなく赤ちゃんも苦しまずに排便するようであれば問題はありません。
このような排便回数の減少は赤ちゃんの食生活(離乳食の開始、変更など)が関係すると考えられています。排便回数が減ると便が硬くなり太い便が出るようになるため肛門が切れて切れ痔(裂肛)を来すことがあります。こうなると排便したくなくなりますので便秘はますます悪化してしまいます。
便秘症になった場合、最も大切なことは正常な排便習慣が得られるまで治療を継続することです。乳幼児では肛門刺激や薬物による治療が中心となります。適切に行われれば「便秘の治療」が癖になることはありません。
風疹と麻疹(はしか)はウィルスによる感染症で、飛沫感染、接触感染および後者は空気感染します。麻疹の感染力は非常に強いものです。風疹はまれに脳炎や血小板減少性紫斑病を来すことがありますが、最も問題となるのは妊婦に感染すると赤ちゃんの心臓、眼、耳に障害を生じる「先天性風疹症候群」を起こすことです。麻疹は感染すると肺炎、中耳炎、脳炎を発症したり、1000人に1例の死亡例もあります。特に1歳前後の乳幼児に重症化が見られます。
平成19年と20年に10歳代以上を中心に麻疹が流行したため麻疹風疹(MR)ワクチンの2回接種(1歳および小学校入学前)が行われています。平成22年以降の麻疹ウィルスは海外由来型ですが、ワクチン接種が1回のみの成人や接種していない乳児に感染が広がります。風疹は40歳以上の男性では予防接種は行われていませんので免疫がある方は少ないと考えられます。
麻疹風疹(MR)ワクチンは1歳の誕生日を迎えたら直ちに接種をしてください(定期接種)。MRワクチンはどの年齢(0歳~)でも接種可能です(任意接種)。乳幼児を守るために免疫がない成人がワクチンを接種して麻疹や風疹の感染拡大に備えましょう。
幼児の健診で検尿が行われる目的は、先天性の腎臓や膀胱の異常、腎炎、尿路感染症の発見です。乳幼児では小児用の採尿パックを用いることにより検査に必要な尿を採取することができます。こうして採尿した尿にしばしば見られるのが白血球尿と血尿です。
白血球尿の場合はまず膀胱炎をはじめとする尿路感染症です。外性器の構造から男児でほぼ尿路感染症が疑われますが、女児では周囲の汚染による白血球が認められることがあります。しかしこの汚染に加え女児では尿道が短いため尿路感染症が多いのも事実です。
一方、血尿(尿潜血)を認めた場合、尿路感染症のほか尿路系の異常として水腎症や膀胱尿管逆流症、腫瘍などが疑われます。水腎症は胎児期に発見されることもありますが、乳幼児健診でもしばしば超音波検査で見つかります。膀胱尿管逆流症は文字通り膀胱から尿が逆流して腎盂炎を起こすほか水腎症の原因となります。また腫瘍は乳児期から発生しますが、腎臓にできるウィルムス腫瘍と副腎にできる神経芽細胞腫が挙げられます。
検尿でこれら以外にも発見される疾患があります。機会があれば受けていただきたい検査の一つです。
インフルエンザワクチンはその有効性や6か月程度とされている有効期間も明確ではありません。特に後者はワクチンによる抗体がそれ以降でも残っています。ワクチンにはA型、B型それぞれ2種類の株が混合されています。毎年、流行を予測して製造されていますが、その年の流行株に一致していない場合には効果は低くなります。株の選定や製造工程、国家検定のため接種開始は10月以降となります。ちなみに接種は12月までに終了することが勧められています。幼児に多い脳症、脳炎には直接的な効果はありませんが、原因であるインフルエンザに罹らないためにワクチンは有効です。
予防では「手洗い、うがい」といわれています。日頃から一般的な衛生の心得として習慣づけしておくと良いでしょう。インフルエンザ流行期になると集団生活の中では感染を避けることは困難です。ワクチンによる感染・重症化予防を過信してはいけません。インフルエンザに特異的な症状がありませんから迅速検査が行われていますが、検査が陰性でも感染が疑われたら重症化予防のためにも早期に適切な治療を受けましょう。
母乳栄養により乳児期には感染に対する抵抗力(免疫)がある程度ありますが、お母さんにすべての免疫がある訳ではありませんから6か月までの乳児でも感染症にかかります。この感染に対する免疫は予防接種や病原菌の感染により作られていきます。
保育園や幼稚園に通うようになると、同世代のお子さんや保育士さんたちに接するようになり、感染の機会が一気に増えます。もちろん乳児期でも兄弟がいたり集団の中にいる機会が多い場合も感染症に罹り易いです。
流行っている感染症にもよりますが、発熱しても元気で食欲もあるようでしたら直ちに受診することはありません。不機嫌が続く、ぐったりしてきたなどの症状があれば受診が必要です。
したがって38℃以下の発熱で食欲もあり機嫌もいい場合には、短時間の入浴も構いません。発熱や下痢では水分補給が最も重要ですがまずはお子さんが飲めるものを与えていただければ十分です。
感染症の予防には予防接種が何より大切です。インフルエンザも生後6か月から接種可能で他の予防接種と同時接種もしています。
小児外科はドラマでは難しい病気が取り上げられるので特殊なものと思われがちです。もちろん病気の種類が成人と異なることや成長、発達という要素があるため、治療にあたっては小児医療全般にわたる専門的知識が必要です。国立小児病院(現在の国立成育医療センター)ができて我が国の小児の総合医療が始まりました。日本小児外科学会が設立されたのは、1964年、東京オリンピックの年でした。1977年に筑波大学は大学病院の中でも最も早く小児内科と小児外科が一つのグループとなって診療をスタートしました。
先天性の病気を持った新生児や乳児の手術、胆道閉鎖症、胆道拡張症や悪性腫瘍の手術・治療などは大きな施設で行われます。またそけいヘルニア、停留精巣、臍ヘルニア、包茎などで手術が必要な疾患も対象です。外来診療では臍ヘルニア、包茎などは手術を行わず治療したり、便秘症や血管腫・リンパ管腫などの治療も行っています。もちろん外傷(けが)も含まれます。治療では侵襲が少なく傷跡が目立たなくする工夫は当然と考えています。
小児医療はこどもの出生(時には胎児期)から成人に至るまでを援助するものです。小児外科は手術だけではなく集学的な治療においてもその一翼を担っています。
1796年、ジェンナーが天然痘(致死率40%)予防のためワクチン(牛痘)を接種して近代的な予防接種の歴史が始まりました。日本でもその後約50年経って種痘所が設置され、1909年には種痘法が施行されました。1958年の世界保健機関(WHO)の「世界天然痘根絶計画」により種痘が積極的に行われ、1977年に最後の自然感染患者が出た後、1980年に「根絶宣言」されました。
2013年からいくつかの予防接種が定期接種化され赤ちゃんに接種する種類、回数が増加し、同時接種も行われるようになりました。その結果ヒブと肺炎球菌では前者の患者数は10分の1に、後者は2分の1になっています。水痘ワクチンの2回接種により水痘患児は激減しています。すでに定期化されていたポリオ(現在は四種混合に含まれる)や日本脳炎などはほとんど発生していません。一方、B型肝炎ワクチンは感染による肝硬変、肝臓がんを予防するもので、定期接種に限らず全年齢での接種が望まれます。
予防接種の究極の目的は目標とする感染症の根絶です。重大な副反応、副作用は予測できないものですが、予防接種は個人の健康、集団の感染予防に不可欠です。
乳児期から幼児期前半は口で確かめる口唇期といわれています。発達においは必要な行動ですが、ものをのどに詰まらせたり、気管に吸い込むと大変です。まず大事なことは危険なものはお子さんの手が届かないところに置く習慣をつけることです。
飲み込んで食道や胃、腸管に入ると消化管異物となります。直ちに生命を脅かすことは少ないと思いますが、ボタン型電池や磁気治療器の粒状の磁石は胃や腸管に穴を開けてしまいます。食道にひっかかるものとして、ピアス、安全ピン、おもちゃなどがあります。つまり口の中に入るものは何でも異物となります。ところで危険なのは喉頭、気管、気管支などの気道異物です。幼児では直径が10mm以下のものは容易に吸い込みます。ピーナッツなどの乾燥した豆類は小さなものでも気管に留まると、水分を吸って膨張して気道を閉塞し窒息を来します。ぶどうなど軟らかいものも吸い込むと気管に詰まって窒息してしまいます。お子さんが何かを口に入れてるときには驚かせたり、泣かせたりしないようにしましょう。
気道異物の場合には窒息に対する緊急の対応が必要です。まずは救急隊へ連絡し、その間にもできる限りの方法で異物の排出を試みて下さい。
赤ちゃんはしばしばミルクを吐きます。時には大量に吐くこともありますが、顔つきや機嫌が良い場合はまず心配いりません。哺乳時には空気も同時に飲み込んでおり、飲み込んだ空気を出すのがげっぷ(排気)です。
赤ちゃんの胃は大弯側が前上方に上がっている胃軸捻転状態であるため、飲み込んだ空気はそこに貯まります。胃が張ってしまうと呼吸は苦しくなりますし、腸に流れた空気で胃が押し上げられると、空腹になっても十分にミルクが飲めず不機嫌になってしまいます。嘔吐し易い赤ちゃんは立て抱きにして上体を前傾させる姿勢で抱っこしていると、胃軸捻転状態が軽減して排気し易くなります。
嘔吐の回数が多い、噴水のように吐く、あるいは吐物に血液が混じっている場合、中には新生児期から注意すべき疾患があります。代表的なものに胃食道逆流症と肥厚性幽門狭窄症が挙げられます。前者は胃の入り口の閉まり具合が悪く胃内容が逆流する疾患で、後者は胃の出口(幽門)の筋層が肥厚して狭くなり胃内容が流出しにくくなる疾患です。いずれも適切な処置が必要ですので小児外科受診をお勧めします。
歩き始めのお子さんだけでなく、子どもたちはいろいろな場面でけがをします。頭や顔、四肢末端のけがは出血量が多いのですが、傷口はそれほど大きくない場合が殆どです。まずお子さんが痛みや恐怖を軽減できるように勇気づけ、出血してるところを軽く圧迫してください。しばらくすると止血します。
顔面の傷は縫合(傷を縫うこと)した方が良い場合が少なくありません。縫合したら傷跡になるのではと心配をされる方もいらっしゃいます。しかし傷はテープ固定のみでは傷の奥にスペースができて血液が貯まってしまうため、後になって傷跡が次第に広がったり、へこんでしまうことがあります。内出血して腫れた傷が後で陥没してしまうのも同様の機序です。勿論、縫合もそれぞれの傷にあった正しい方法が行われることが大前提です。
ところで切り傷や擦り傷に受傷直後から創傷被覆材を用いると、傷が浸出液でふやけてしまい、かえって治癒が遅れることがあります。やけども同じですが傷の治癒に時間がかかってしまうと傷跡や瘢痕を形成してしまいます。
乳幼児が鼻水が出るのを放置してはいけません。このお子さんのように鼻づまりで夜間十分睡眠できないのはとても危険です。生後2か月以降の乳児ではしばしば急性中耳炎を発症します。子どもの中耳炎の75%を乳幼児が占めているといわれています。
乳児期の中耳炎の症状は耳をよく触ったり、不機嫌や夜泣きが止まらなかったり、繰り返す発熱などが挙げられます。診察では耳鏡を用いて鼓膜の状態をみますが、しばしば耳垢がたまっていて十分に観察できません。鼓膜に音を当てて貯留液の有無を確認する簡便な検査器具(アコースティックオトスコープ)を用いると、中耳炎の有無、程度が容易に判断できます。痛みや発熱には鎮痛解熱剤を用いますが、細菌感染がある場合には抗生物質が必要です。さらに中耳炎の程度によっては鼓膜切開が行われることがあります。
乳幼児では鼻汁の排泄を促す薬や炎症を抑える薬の内服を続けることもあります。しかし何といってもご家庭で頻回に鼻汁吸引することが大切です。したがってその手技の説明を含め、実際に鼻汁吸引することも小児科の重要な役目だと思います。
3歳から中学生くらいまで起きる腹痛で月に1回以上、3か月以上続くものを反復性腹痛(臍疝痛(さいせんつう))といいます。原因がはっきりしないものが多いのですが、便秘、消化性潰瘍、胆道拡張症、卵巣嚢腫などの器質的疾患や過敏性腸症候群、ストレスなどの非器質的疾患があります。胆道拡張症や卵巣嚢腫は超音波検査で診断できることもあり、疑われる場合には行うべき検査です。
非器質的疾患の多くは年齢や環境が変わることにより軽快するものが少なくありません。幼児期に多いのは便秘やストレスによるものです。
腹痛の中でも突然の発症、発熱、嘔吐や下痢などを伴うものには特に注意が必要です。間欠的な腹痛を訴える場合は腸重積症などのイレウスや卵巣嚢腫茎捻転を、そけい部のふくらみを伴う場合はそけいヘルニア嵌頓(かんとん)を疑います。右下腹部を中心に痛みを訴え、発熱や嘔吐などがみられる場合は急性虫垂炎が考えられます。いずれも腸管に血液が流れなくなったり、炎症が起きるため腹痛は次第に強くなります。また発熱や咳、咽頭痛などを伴う場合、小児では溶連菌感染症や肺炎であることもまれではありません。
赤ちゃんの臍(へそ)の緒は生後1週間までには自然に落ちて、その後は傷跡(瘢痕)になって収縮し表面が皮膚に覆われていきます。そうしてへこんだおへそが完成します。ところがこの傷跡のような部分が完成されない場合、皮膚と腹膜だけになると突出してでべそ(臍ヘルニア)になってしまいます。
生後2~3か月の頃に臍ヘルニアは最も大きくなります。しかし腹壁が発達してくると徐々に臍ヘルニアは縮小して1歳ぐらいまでに90%以上が自然治癒します。このため「何もしなくてもいいです」といわれてきました。
ところが最近では突出した臍部をいろいろな方法で圧迫すると治癒が早まるといわれています。実際、生後2~3か月ぐらいまでに圧迫療法を開始すると平均2か月位で治癒していきます。
圧迫療法の効果が十分期待できないものに白線ヘルニアがあります。通常より臍の突出が頭側にあります。この場合でも圧迫療法で突出した部分を小さくできますので、その後の手術が容易になる利点があります。
腎臓から膀胱、尿道にかけての感染症を尿路感染症といいます。年長児や小学生以上のお子さんでは排尿痛、背部痛などの痛みを訴えたりできますが乳幼児ではそのようなことができません。
乳幼児の尿が真っ赤な色をしていたら血尿の可能性がありますし、症状がもっと進行すると膿尿(尿に膿が混じる状態)となります。しかし尿路感染症の多くはこのような尿所見がでる前に発熱や顔色が悪い、不機嫌になるなどの症状がでます。かぜや中耳炎などの症状がない場合には尿検査を行って判断します。女の子は外陰部が汚染されやすいこと、尿道の長さが短いことなどで尿路感染を起こしやすいといわれています。また尿路感染症を繰り返す場合は膀胱から尿が腎臓に逆流してしまう膀胱尿管逆流症が疑われます。診断のためには超音波検査や尿路造影検査などが必要です。
尿路感染症が軽症の場合には抗生物質の内服で治療しますが、特に乳児では入院治療が必要なことがあります。感染予防のため女児に限らず男児でもオムツの中の清潔には心掛けて下さい。
我が国ではイヌやネコなどによる動物咬傷で病院を受診した例は年間4,000件に達するといわれています。なかには不幸にも生命に関わるほどの事態に至る場合もありますので特に小さいお子さんでは注意が必要です。
国内ではイヌによる咬傷は飼い犬によるものが多く狂犬病の心配はまずありません。しかし、海外ではイヌの他、コウモリなど野生動物による咬傷で年間3.5万~5万人の狂犬病による死亡例が報告されています。
動物の口腔内には多数の細菌がいるため感染のリスクが高く、特に最初の処置においては十分な洗浄と消毒が必要です。イヌによる咬傷は傷も深く出血も多いのですが、まず洗浄したら圧迫して止血することが大切です。なかなか止血しない場合や傷口が大きい場合には一次的に縫合することもありますが、一般には感染を見越して直ちには縫合せずに開放創としておくのが原則です。感染が落ち着いたら特に顔面などでは必要に応じて二次的に縫合する場合があります。処置に加えて重要なのは適切な抗生物質の投与と破傷風の予防です。
小児外科は最近テレビドラマなどで取り上げられることもあり比較的身近になりました。しかし、ドラマでは難しそうな病気が取り上げられることが多いため特殊なものと思われがちです。勿論、小児外科では病気の種類が成人と異なることや成長、発達という要素があるため、治療にあたっては小児の専門的知識が必要です。
国立小児病院(現在の国立成育医療センター)ができて我が国の小児の総合医療が始まりました。筑波大学は大学病院の中でも最も早く小児科と小児外科がグループ化されてスタートしました。
先天性の病気を持った新生児や乳児の手術、胆道閉鎖症、胆道拡張症や悪性腫瘍の手術・治療などは大きな施設で行われます。また一般的なそけいヘルニア、停留精巣、臍ヘルニア、包茎などで手術が必要な疾患も対象です。臍ヘルニア、包茎などでは手術を行わず治療したり、便秘症や血管腫などの保存的治療も行っています。勿論、外傷(けが)も含まれます。
小児医療は子どもの出生(時には胎児期)から成人に至るまでを援助するものです。手術のみならず集学的な治療においても小児外科はその一翼を担っています。
新生児期に毎日排便がない場合にはヒルシュスプルング病や肛門狭窄など外科手術が必要な疾患も考えられます。このような場合赤ちゃんは腹部が膨満し、息んで苦しそうです。
排便が3日以上ない場合には便秘症といわれます。一方、新生児期に一日数回あった排便が、生後1か月過ぎてから排便の回数が減ることはよくあります。排便回数が少なくても便が硬くなく、赤ちゃんも苦しまずに排便するようであれば問題はありません。
排便回数の減少には赤ちゃんの食生活(離乳食の開始、変更など)が関係することも考えられますが、たまたま排便がなくリズムが狂ってしまうこともあります。新生児期に正常な排便があった赤ちゃんは先に述べたような外科的疾患ではなくいわゆる便秘症です。排便回数が減ると便が硬くなったり、太い便が出るようになるため肛門が切れて切れ痔(裂肛)を来すことがあります。こうなると排便したくなくなりますので便秘はますます悪化してしまいます。
便秘症といわれた場合、最も大切なことは正常な排便習慣が得られるまで治療を継続することです。治療は肛門刺激や薬物による治療が中心となりますが、適切に行われればこれらが癖(習慣)になることはありません。
マイコプラズマは細胞膜のないきわめて小さい細菌です。この菌が肺に感染して発熱や乾いた咳を起こします。かつてはオリンピックの年に大きな流行があるといわれていました。幼児から成人まで発症し、特に学童期、青年期に多い傾向があります。
2~3週間の潜伏期間の後、咳と高熱、全身倦怠感が出現します。気管支炎も合併し、喘息症状が出現することもあります。粘度の高い痰により無気肺を起こすこともあります。また、中耳炎や副鼻腔炎を発症することや、発疹が出ることもあります。
血液検査では白血球の増加が少なく、CRP(炎症反応)も発熱等の割には低値です。血清抗体価が高値の場合は診断が確定します。咽頭ぬぐい液による迅速検査は陽性と出ないことも少なくありません。LAMP法というマイコプラズマのDNAを直接検出する方法もありますがまだ一般的ではありません。
このため症状から治療を開始することが多く、まずマクロライド系の抗生物質を用います。有効でない場合はテトラサイクリン系抗生物質やニューキノロン系抗菌薬を用います。
集団生活への復帰は解熱して咳が落ち着いてきたら可能です。
新生児ではほぼ100%の赤ちゃんは包茎です。1才児でも70%の男の子は亀頭部を完全に露出できません。一方、亀頭部が全く露出できない真性包茎は1~3才で20~30%、3~6才で5~10%、10才以降では2~3%といわれています。つまり成長に伴って真性包茎でも包皮口が広がり自然に治っていることになります。
乳児期から包皮口を拡張する処置も行われていますが、少しでも亀頭部が包皮口から見えるような状態の場合にはこの処置は不要です。むしろ繰り返し包皮口を傷つけることにより、包皮口が狭くなって外傷性の真性包茎になる場合もあります。また、処置により容易に亀頭部が出てくる場合には亀頭全部が露出して戻せなくなる事故もあり、私は積極的には勧めていません。陰茎の自然な勃起が包皮口を拡張して自然に真性包茎が減少していると思われます。
3才以降に亀頭が全く露出できない場合、ステロイド軟膏を毎日陰茎の先端に塗ることで包皮の狭い部分が広がり、包茎が改善することもあります。外傷性に包皮口が狭くなった包茎と小学校以降の真性包茎が手術の対象になりますが、まずはステロイド軟膏による治療を試みます。しかし何よりも大切なのは毎日包皮の上から石けんでよく洗って清潔にしておくことです。
RSウィルスはかぜの原因ウィルスの一種で1歳までに50%、2~3歳までにほぼ100%の乳幼児が感染してしまいます。また、一生の間に何度も感染を繰り返します。
感染すると4~5日の潜伏期を経て鼻水、咳、発熱などの症状が数日続きますが多くは軽症で済みます。なかには咳がひどくなり、ゼーゼー、ヒューヒューといった喘鳴が出現し、さらには呼吸困難を起こし細気管支炎、肺炎へと進展する場合があります。中耳炎を合併することもあります。初感染の乳幼児の3割は悪化し入院による治療が必要です。特に低出生体重児や基礎疾患(心疾患など)があるお子さんは重症化しやすいといわれています。
診断は鼻汁をとって迅速検査すれば確定します。RSウィルスに効く特別な治療法はなく、呼吸状態の改善、水分補給、解熱剤の投与などの対症療法を行います。感染が長引いたり繰り返しますと喘息を発症するリスクが高まります。
飛沫感染や接触感染により感染し、発症後1~3週間はその可能性があります。しかし保育園などで集団生活をされている場合、お子さんの咳が落ち着いて食欲も十分であれば通常の保育に戻って良いと思います。
検尿が行われる目的は、先天性の腎臓や膀胱の異常、腎炎、尿路感染症の発見のためです。尿に潜血を認めた場合、腎臓、尿管、膀胱の尿路系の異常として水腎症や膀胱尿管逆流症などが疑われます。そこで診断で最も有用な検査は超音波検査です。
超音波検査はご存じのように妊娠中の子宮や胎児の検査に用いられています。この検査は乳幼児でもほぼ全身の疾患に用いられています。また乳児では激しく泣いたりすると腹部の触診は困難ですが、超音波検査はこのような場合でも診断可能です。
腹部の病気で頻度が高いものには腎尿路奇形が挙げられ、乳児期にもかなりの水腎症が発見されます。このため今年度から3歳児健診で尿の異常が認められた場合には尿の再検査、血液検査に加えて超音波検査も行われるようになりました。
そのほか乳児期に超音波検査で診断すべき主な病気としては先天性股関節脱臼や悪性腫瘍がありますが、いずれも早期発見により障害の予防や治癒の可能性が高くなります。したがって3歳児健診の前に機会があれば超音波検査を受けることをお勧めします。
定期の予防接種は母子健康手帳(以下、母子手帳)の予防接種欄でワクチンの接種回数、接種間隔などを確認することとなっており、持参しなければ接種できません。現在、日本脳炎ワクチンは19歳まで接種できますがこの場合にも母子手帳が必要です。
母子手帳にはいろいろな成長の記録、予防接種歴が記載されています。お母さんが書き加えられた成長の様子、かかった病気の記録などが任意のワクチン接種に際しても有用な場合があります。私は中学生までは持ってきていただきたいと思っています。
母子手帳は日本で独自に発展したものです。1947年に「母子手帳」として妊産婦のみならず小児の健康管理に用いられるようになりました。1960年の母子保健法により「母子健康手帳」となり、妊娠の届けにより交付されるようになりました。お母さんが手帳に成長記録を自由に記載できるようになったのは1981年からで、2012年の様式変更でさらに充実して現在に至っています。ちなみに私の長男の時には「就学時まで保存」、次男の時からは「中学入学まで保存」のスタンプが表紙に押してあります。母子手帳は親子(お父さんの記入もいいですね)の生涯の記録になりますので大切に保管しておきましょう。
薬の与え方は内服薬、点眼薬、坐薬(ざやく)など薬の形態にもよりますし、またお子さんの年齢によっても異なります。
まず年齢による違いですが、赤ちゃんの場合、投与は必ずしも授乳の後にすることはありません。むしろ空腹時に水薬はそのまま、粉薬はごく少量の水に溶いて授乳の前に口の中に入れてあげると良いと思います。年齢とともに好まない味のものは飲まなくなります。お子さんが好きなものに混ぜて与えることもいいですが、混ぜ合わせでかえって苦くなったり、好きなものが嫌いになってしまうこともあります。とにかく上手に飲めたら褒めてあげてください。
点眼薬はお子さんを仰向けにして目をつぶらせて、目頭のくぼみに薬を滴下してから目を開けさせると良いでしょう。薬は眼の中に流れていきます。坐薬はベビーオイル等で滑り易くし、肛門を十分確認してそっと挿入してください。無理に入れようとすると痛いですし、一度でも痛みを感じるとその後、挿入が困難になります。
「良薬は口に苦し」というのは古き時代の言葉です。おいしい薬は当然ですが、体に貼るタイプの薬など痛みを伴わない薬がこれからもどんどん開発されるものと思います。
乳幼児健診の目的は先天的あるいは発育状態を含めた後天的異常の早期発見と子育て全般の育児指導や栄養指導を併せて行うことです。生後1か月の健診は出生した施設で行なわれるのが殆どです。定期健診は3か月から始まりますので2か月間隔が空きます。そこで生後2か月から始まる予防接種の際に、通常の接種前の診察に加えて2か月健診に相当する診察も行って、黄疸や臍(へそ)ヘルニアなど早期に治療すべき疾患を確認しています。
定期に行われる3~4か月健診では体重増加など発育状態や首のすわり具合、先天性股関節脱臼の有無などの確認を行います。6~7か月健診では運動発達や栄養状態なども確認していき、9~10か月健診では更に貧血の有無も確認しています。それぞれの健診において、超音波検査で肝臓、腎臓など内臓の検査も行っています。1才健診からは言語や歩行の状態など発育、発達の確認が最も重要になります。1才6か月健診、3才健診は自治体の集団健診で行われていますが、大勢の同年齢のお子さんの様子も知ることができます。
乳幼児健診は医師のみならず、保健師、栄養士など専門家の助言を受ける機会だと考えて積極的に受けていただきたいと思います。
B型肝炎はウィルス肝炎の一つで、成人になって肝硬変を起こしたり、肝臓がんを発症することがあります。主に血液を介して感染するといわれていましたが、最近ではその他の体液でも感染することがわかっています。したがってウィルスを体内に持った人(キャリア)から知らないうちに感染することがあります。特に乳幼児期に感染した場合にはウィルスを体の中に持続感染してしまうキャリアになる頻度が高く、さらに感染を拡大させてしまうことになります。実際保育園などでの集団感染の報告もあります(水平感染)。
垂直感染である母子感染に対しては今までも出生直後にグロブリン注射とB型肝炎ワクチン接種が公的(母子感染防止事業)に行われていました。この10月からはこのワクチンも定期接種化される予定ですが、対象となるのは平成28年4月以降に生まれた乳児とのことです。接種は原則として生後2か月、3か月と7~8か月の3回接種が標準で1才までに終了する必要があるとされています。ワクチン接種年齢が若いほど免疫応答が高く免疫が持続することも理由です。定期接種化に伴う接種時期も気になりますが、定期接種の対象となっていないお子さんも含めて優先して接種すべきワクチンです。
溶連菌感染症は主にA群溶血性連鎖球菌の感染で起きます。かぜと思ってそのままにしたり、不十分な治療では急性腎炎、リウマチ熱、心臓弁膜症などの合併症を来す疾患ですから、早期に的確な診断と十分な治療、経過観察が必要です。また、これらの合併症は3歳以上に起こりやすく注意が必要です。
症状はのどが赤く腫れて痛む、高熱が続く、首のリンパ節が腫れる、頭痛、腹痛、悪寒などが見られます。舌がイチゴの表面のようになることがあります(いちご舌)。また、小斑点状の皮疹が発症後3日以内に全身に広がり、痒みを伴うこともあります。
診断は咽頭粘膜ぬぐい液による迅速検査が一般的で、10分程度で結果が得られます。迅速検査は似たような症状を呈する川崎病、プール熱、伝染性単核球症などの鑑別にも有用です。
治療で最も大切なことは適切な抗生物質を10日間服用することです。発熱があったり皮疹がある場合には家庭で安静にします。抗生物質服用開始後24時間以上経ってこれらの症状が消失し、食欲や元気がある場合には感染の可能性は低いといわれていますので抗生物質を服用しながら登園、登校は可能です。
生後2か月以降の乳児でこのような症状がみられた場合、気をつけたいのは急性中耳炎の発症です。急性中耳炎は子どもに多く、特に乳幼児は75%を占めるといわれています。幼児期以降は痛みを訴えることができますが、乳児期では耳をよく触ったり、不機嫌や夜泣きが止まらないという症状や、発熱のみということもあります。中耳炎のほとんどがかぜをきっかけに発症していますが、特に鼻汁や鼻づまりが続いた場合は注意が必要です。
診察では耳鏡を用いて鼓膜をみますが、しばしば耳垢がたまっていて十分に観察できません。そこで鼓膜に音を当てて貯留液の有無を確認する簡便な検査器具(アコ-スティックオトスコープ)を用いると、中耳炎の有無、程度が容易に判断できます。
痛みや発熱がある場合には鎮痛解熱剤を用いますが、細菌感染が疑われる場合には抗生物質の内服が必要です。さらに中耳炎の程度によっては耳鼻科で鼓膜切開が行われることもあります。
成長に伴って中耳炎は減ってきます。それまで乳幼児では鼻汁の排泄を促す薬の内服や鼻水を積極的に吸引してあげることが中耳炎の予防、治療に有効です。
頭や顔、四肢末端のけがは出血量が多いのですが、傷口はそれほど大きくない場合が殆どです。まずお子さんが痛みや恐怖を軽減できるように勇気づけ、出血してるところを直接圧迫してください。強く圧迫することはありません。しばらくすると出血量も減ってきますし、やがて止血します。指先などで傷より手前を縛ると血行障害を起こしますので危険です。また傷口に軟膏は必要ありません。
顔面の傷など目立つところの傷は縫合した方が良い場合が少なくありません。傷の大小にかかわらず医療機関を受診されることをお勧めします。縫合したら傷跡になるのではと心配をされる方もいらっしゃいます。しかし傷は表面だけをテープ固定すると傷の深いところにスペースができ、後になって傷跡が次第に広がってしまいます。また切り傷に対して創傷被覆材を用いると、傷からの浸出液でふやけてしまい、なかなか治らないということもあります。やけどでも同様ですが傷の治癒に時間がかかってしまうと瘢痕やケロイドを形成してしまいます。
傷が完成するまで数ヶ月間テープで固定しますが、特に成長期の子どもでは傷跡を目立たなくする最良の方法です。
感染は飛沫や接触によるもので、2 ~ 3 週の潜伏期間を経て発症します。臨床症状や流行状況で診断されることが殆どですが、確定診断は血液検査で行われています。治療法は痛みや腫脹、発熱に対する対症療法が基本です。
ムンプス感染で重要なのは合併症です。約10%に無菌性髄膜炎がみられます。思春期以降の男性の20 ~ 30%に精巣炎が、女性の7%に卵巣炎を合併するといわれています。また、難治性の難聴も比較的高頻度で発生し、後遺症として残ってしまいます。
そこで大切なのは予防です。ムンプスワクチンには1000~ 2000 人に1人の割合で無菌性髄膜炎がみられますが殆どは後遺症もなく治癒します。ワクチン接種の効果は90%以上であり、様々な合併症を来すことから1歳を過ぎたら接種すべきワクチンです。
赤ちゃんの臍(へそ)の緒は生後1週間までには自然に落ちて、その後は傷跡(瘢痕)になって縮小し表面が次第に皮膚に覆われていきます。そうしてへこんだおへそが完成します。ところがこの傷跡のような部分が弱くておなかの壁を完全にふさげないと皮膚のみで覆われることになり、突出してでべそ(臍ヘルニア)になってしまいます。
生後2~3か月の頃に臍ヘルニアは最も大きくなります。しかし腹壁が発達してくると徐々に臍ヘルニアは縮小していき、1歳ぐらいまでに90%以上は自然治癒します。このため「何もしなくてもいいですよ」といわれることが多いと思います。
近年の報告では早ければ早いほどいいのですが、1歳ぐらいまでに臍部をいろいろな方法で圧迫すると治癒が早まるといわれています。生後3か月ぐらいまでに圧迫療法を開始すると約2か月で治癒していくことが多いのでまず試みています。
ところで自然治癒しない臍ヘルニアの中には白線ヘルニアといって通常より突出部位の位置がやや上方にあるものがあります。しかし、この場合でも圧迫療法によりヘルニアの大きさを小さくできる場合が多いと思います。
保育園などで集団生活をするお子さんは発熱を伴う感染症にかかることが多く、そのため保育園を休ませる必要が生じます。発熱自体は心配することは少ないと思いますが、保育園や幼稚園などでは熱の基準が設けられており、休園することになってしまいます。
初めて保育園や幼稚園に通うようになったら、かぜ症候群などの感染症にかかってしまいます。ウィルスに対する抗体がないのでこれは当然のことです。いわゆる抵抗力がつけば感染症にかかることもなくなりますので、成長の一環として待っていただきたいと思います。実際に小学校、中学校にあがるにつれ病気になることはずっと少なくなっていきます。
集団生活で気をつけたいのは、感染したりあるいは感染源となるのは必ずしも園児だけではなく、園児を保育する方々にもその可能性があります。また、中には免疫力が特に低いお子さんもいらっしゃいます。したがって発熱し特に元気がない場合にはお子さん自身も不安だと思いますので、特定の疾患でなくても自宅で2、3日ゆっくりさせていただくのが良いでしょう。
暑くて湿気の多い夏は、暑さ対策、水分補給、肌のトラブルなどに気を使う毎日でしょう。成人に比べて体表面積が相対的に大きい乳幼児では熱中症、特に脱水には注意が必要です。この季節に増える汗疹では汗管が詰まることにより丘疹が多発します。かゆみのため肌を引っ掻くと傷口からばい菌が入ってとびひになることもしばしばです。汗をかいたら着替えたり、シャワーや行水で洗い流すことが有効です。さらに発汗を促したりかゆみを抑えるようなぬり薬を使うことも役立ちます。
新生児期には一日数回あった排便が、生後1か月過ぎてから排便の回数が減って、数日に1回になることも少なくありません。排便回数が少なくても便が硬くなく、赤ちゃんも苦しまずに排便するようであれば問題はありません。本来排便は痛みを伴わず快適に出ることが望ましいのですが、便が硬くなって肛門を痛がるようになったら治療が必要です。
まず毎日排便があれば便は固くなく、肛門が切れたりしません。肛門が切れた状態を裂肛(切れ痔)といいますが、乳幼児にもしばしば見られます。排便が週に1回程度しかない明らかな便秘症では多くが裂肛を伴っています。裂肛があると排便時に当然肛門痛が強く、このためますます排便をいやがるようになるという悪循環が生じます。
ところで毎日排便があっても、便がコロコロの小石のように固まっていることがあります。このような便は排便回数が減ってくると一つの大きな塊になってしまいます。従って毎日軟らかい便が続くまで継続的に便秘の治療を行うことが大切です。また便秘の治療を始める前にコロコロに固まった便を浣腸や摘便で取り除いてあげる必要もあります。
乳児期から幼児期前半にかけては口唇期といわれている期間で、子どもは何でも口で確かめます。成長とともにほとんどおさまってしまう指しゃぶりならいいのですが、問題は異物を飲み込んだり吸い込んだりすることです。危険なものはお子さんの手が届かないところに置いておくなど、予防が最も大切です。
異物としてまず挙げるべきものはタバコとボタン型電池です。またピーナッツなどの豆類も危険なものとなり得ます。タバコやボタン型電池は飲み込んでしまうと消化管異物となります。前者は急性中毒を起こすと致命的ですし、後者は胃などの消化管に穴を開けてしまう場合があります。消化管穿孔といえば磁性治療器の磁石も起こすことがあります。ピーナッツなどの豆類は吸い込んだ時に気管、気管支などの気道異物になります。特に乾燥した豆類は気道内に留まると水分が加わって膨張して気道閉塞、窒息を来します。お子さんが異物を口にした時に大声で注意すると、驚いて吸い込んでしまいますので声かけは優しくしてください。
危険な異物の誤飲があった場合、あるいは急な咳発作などで気道異物が疑われる場合には緊急の対応が必要ですからまずは救急隊へ連絡してください。
B型肝炎はウィルス肝炎の一つで、感染すると文字通り肝炎になったり、肝硬変を起こしたり、ひいては肝臓がんを発症することがあります。以前は主に血液を介して感染するものといわれていましたが、最近ではその他の体液でも感染するといわれています。また、特に乳幼児期に感染した場合にはウィルスを体の中に持続感染してしまうキャリアになる頻度が高く、そのためさらに感染を拡大させてしまうことになります。
垂直感染である母子感染に対しては今までも出生直後にグロブリン注射とB型肝炎ワクチンの接種が公的(母子感染防止事業)に行われていました。しかし母子以外の水平感染によるB型肝炎ウィルス感染とキャリア化も問題であることから、肝炎対策にはワクチン接種の重要性が提言されており、近い将来、諸外国と同様に勧奨接種(定期接種)になるといわれています。
このウィルスは乳幼児期に感染するとキャリアになりやすいことと、ワクチン接種は接種年齢が若いほど免疫応答が高く免疫も持続するともいわれています。従って乳児期の間に接種し終えることが望ましく、勧奨接種化を待たず優先して接種することをお勧めします。
ミルクを飲むたびに吐いてしまう原因はいろいろあります。また、新生児、生後1か月以降と月齢により注意すべき疾患もあります。乳児が吐いても顔つきや機嫌が良い場合はまず心配いりません。
新生児期で重要なのは肥厚性幽門狭窄症という病気です。胃の出口(幽門)が筋肉層の肥厚で狭くなり、ミルクが十二指腸に流れていかないために口から噴水状に吐いてしまいます。この病気は原則的に乳児期早期に手術が必要です。
新生児期は哺乳の仕方、排気(げっぷ)の仕方がまだ上手でないため吐きやすいものです。また構造的に新生児、乳児は食道と胃の逆流防止機能が未熟です。胃がねじれてしまっていて逆流しやすい児もいます。前者を成人と同様に胃食道逆流症といい、後者を胃軸捻症といいます。いずれも乳児期早期の治療法はほぼ同じで、ミルクの与え方や、哺乳後の姿勢に工夫するなど保存的(手術でない)治療法を行うことによって生後3か月でほぼ軽快します。
しかしそれ以上続くようであれば胃食道逆流症の様々な検査をして薬物治療も併用したり、さらに年長児などでは逆流防止手術が行われることもあります。
薬の与え方は内服薬、点眼薬、坐薬など薬の形態にもよりますし、またお子さんの年齢によっても異なります。
まず年齢の違いですが、赤ちゃんの場合、投与は必ずしも授乳の後にすることはありません。むしろ空腹時に水薬はそのまま、粉薬は少量の水に溶いて授乳の前に口の中に入れてあげると良いと思います。年齢が上がるにつれ薬の味に敏感になっていき、本人が好まないものは口にしなくなります。お子さんが好む味に混ぜて与え(混ぜ合わせでかえって苦くなることもありますので要注意)、うまく飲めたら褒めてあげてください。多くのお子さんはそのうちお薬をそのままでも飲めるようになります。点眼薬の差し方で簡単な方法はお子さんを仰向けにして目をつぶらせて、目頭のくぼみに薬を滴下してから目を開けさせると良いでしょう。薬は眼の中に流れていきます。坐薬はオリーブオイル等で滑り易くし、肛門を十分確認してそっと挿入してください。無理に入れようとすると痛いですし、一度でも痛みを感じるとその後が困難になります。
「良薬は口に苦し」というのは古き時代の言葉です。おいしい薬、体に貼るタイプの薬など痛くない薬はこれからもどんどん開発されると思います。
血管腫(赤あざ)は血管が増殖した腫瘤で、小児の軟部組織腫瘍の中では最も多くほとんど良性です。血管腫の中には成長するにつれ自然に消えてしまうものとそうでないものとあります。出生後から次第に大きくなるものに苺状血管腫があります。生後6か月ぐらいまで急速に増大し、7才頃までに自然に消えてしまうといわれています。この血管腫の場合は経過観察でも良いのですが、発生した部位や出血を伴う場合には早期の治療が必要です。
血管腫の種類にもよりますが最近ではレーザー治療が広く行われています。単純性血管腫では第一選択の治療とされています。しかし、痛みを伴いますし、発生部位によっては全身麻酔が必要です。
1960年頃から報告されている方法に持続圧迫療法があります。特に苺状血管腫では早期から行えば2、3年以内に消失することも多いです。なお圧迫方法はテープや包帯を用いますので、特にお子さんに痛みなどの苦痛を与えることはありません。また、持続圧迫療法を併用することによりレーザー治療を短期間で終了することも可能です。
赤ちゃんのオムツにオレンジ色、スイカの果汁のような尿がみられることがあります。ほとんどは濃縮された尿の成分の結晶で問題はありません。
乳幼児の尿で真っ赤な色をしていたらもちろん血尿の可能性もあります。いずれにしても採尿して検査をしなければわかりません。血尿の原因としては外陰部からの出血のこともありますが、忘れてはならないのは膀胱炎、腎盂炎などの尿路感染症です。しかし尿路感染症の多くは尿に明らかな異常が見られる前に発熱や顔色が悪い、不機嫌になるなどの症状ですから、明らかにかぜや中耳炎などの所見がない場合には尿検査を行って判断します。軽症の場合には抗生物質の内服で治療しますが、入院治療が必要なこともあります。
尿路感染症を繰り返す場合には膀胱尿管逆流症、腎盂尿管移行部狭窄などの腎臓から膀胱に至る尿路に異常があることもあります。このような場合、超音波検査や尿路系の造影検査が必要です。
乳幼児健診の目的は先天的な異常や発育状態の異常の早期発見です。また、栄養指導や子育て全般の育児指導も併せて行います。
生後1か月に行われる健診は主に出生した施設で行われています。最近では生後2か月からヒブワクチンなどの予防接種が始められています。その際に問診票の確認だけではなく診察もしていますので気になることがあったら申し出られて良いと思います。
乳児期の健診は通常3回行っています。3~4ヶ月健診では発育状態に加えて首のすわり具合、先天性股関節脱臼の有無などの確認を行います。6~7ヶ月健診では運動発達や栄養状態を確認しており、9~10ヶ月健診では更に貧血の有無もチェックします。1才健診からは幼児期の発育、発達の確認が最も重要になり、言語や歩行の状態の診察に加え、歯科検診も始まります。1才6ヶ月健診、3才健診は集団健診で行われますが、同じ年齢のお子さんが集まりますので情報交換の場にもなります。
乳幼児健診は医師のみならず、保健師、栄養士などそれぞれの専門家の助言を受ける機会だと考えて積極的に受けていただきたいと思います。
この10月からは水痘ワクチンが定期接種化され、1歳から2歳までのお子さんは原則無料で2回接種できます。また、平成27年3月までは3、4歳のお子さんも特例で1回のみ接種できます。これは1回の接種のみでも重症の水痘はほほ100%予防できると考えられているからです。
10月になったら1歳をこえた方は1回目の接種を早めにすることをお勧めします。2回目の接種は1回目の接種から3か月以上あけて行います(6か月~12か月に行うのが標準的とも)。ところで1歳以降に1回のみ任意で接種された方の2回目の定期接種も、10月以降に3歳未満であればできます。
なお、すでに水痘にかかった方は接種対象外です。
暑い季節になりましたが、高温多湿による障害が発生する危険性が高くなっています。この障害を熱性障害(以下、熱中症)といいますが、ご存じのように時には命に関わる大問題になります。小さなお子さんは成人に比べて体温調節機能が未熟なため熱中症に陥りやすいので特に注意が必要です。
高温多湿な環境下に置かれた場合、大量の発汗の後、体温調節機能が機能しなくなると発汗が停止して体温が高くなり、脱水、電解質異常から血液などの循環障害を来し、ショック状態に陥ります。皮膚が乾燥し、興奮性が高まり、情緒不安定、攻撃性の亢進など中枢神経症状も出現します。
そのような場合、治療はまず体の冷却です。涼しいところに寝かせて頭部、頚部、脇の下、そけい部など太い血管が通っているところを冷やします。意識があれば冷たい水を十分に飲ませますが、嘔吐があったり意識障害があれば点滴による水分補給が必要です。
予防が何より大切です。炎天下を避けること、水分を十分とることです。スポーツでは休憩をこまめに入れましょう。赤ちゃんや幼児は特に車など、密閉されて暑くなるところには決して一人では残さないようにしてください。
水いぼ(伝染性軟属腫)はウィルス性の伝染病です。皮膚の軟らかいところに小さなイボが多発することが多いです。そのイボが破れてウィルスが含まれる体液に接触することにより感染します。
治療法としてはピンセットで切除する方法が主に行われてきましたが、液体窒素で凍結したり硝酸銀で焼灼する方法、漢方薬(生薬)を飲む方法、局所を消毒する方法なども行われています。切除する方法は麻酔テープを使えば痛みは軽減しますが、出血を伴いお子さんに恐怖を与える可能性は高いでしょう。また、多発している場合に全てを一度に切除できるものでもありません。
水いぼは放置していても半年から1、2年で免疫ができて自然治癒するものがほとんどです。従って免疫ができるまでは切除しても再発することが多いものです。特に集団生活を送っている場合、水いぼは皮膚同士の接触や遊具などの共用などから感染することが多いといわれています。プールの時期になると水いぼ切除の希望が増えますが、切除しても感染しないということではありません。なお学校保健法では水いぼがあったとしてもプールは禁止されていません。
麻疹(はしか)は麻疹ウィルスによる主に小児期の感染症です。飛沫感染、接触感染および空気感染しますので感染力は非常に強いものです。感染すると肺炎、中耳炎を来したり脳炎を発症することもあり、1000人に1例くらいの死亡例もあります。手洗いやマスクだけでは予防できず、麻疹ワクチンの接種が唯一有効な手段です。
平成19年と20年に10歳代以上を中心に麻疹が流行したため中学生と高校生に麻疹ワクチンの2回目の接種が行われ感染数は激減しました。平成22年以降では麻疹ウィルスは海外由来型のみです。
現在までに昨年1年間の麻疹患者数(232例)を超えて流行しています。4月9日現在253例の届出があります。その中で乳児が30例、予防接種歴のない1歳児が23例と麻疹ワクチン接種ができない、あるいは接種が遅れた乳幼児が多く含まれています。1歳の誕生日を迎えたら直ちに麻疹・風疹ワクチンの接種をしてください(定期接種)。なお、麻疹ワクチンはどの年齢でも接種可能です(任意接種)。最も大切なことは麻疹ワクチンを接種できない乳幼児を守るために麻疹の免疫を獲得できていない成人がワクチン接種をして麻疹に感染しないことです。
溶連菌感染症は溶血性連鎖球菌(以下、溶連菌)の感染で起きる病気です。大部分はA群溶連菌で、不十分な治療では急性腎炎、リウマチ熱、心臓弁膜症などの合併症を来す疾患ですから、早期診断と十分な治療、経過観察が必要です。
3才未満では感冒(かぜ)と見分けるのは困難です。3才から15才では、のどが赤く腫れる、高熱が続く、首のリンパ節が腫れる、頭痛、腹痛、悪寒などが見られます。また、舌の表面がイチゴの表皮のようになったり(いちご舌)、小斑点状の皮疹が発症後3日以内に全身に広がり、痒みを伴うこともあります。
診断では咽頭粘膜ぬぐい液による迅速抗原検出テストが一般的で、10分程度で結果が得られます。似たような症状を呈するものに川崎病がありますので迅速検査はその鑑別にも有用です。
治療で最も大切なことは抗生物質(ペニシリン系、セファロスポリン系など)を10日間以上服用することです。発熱があったり皮疹がある場合には感染の危険性もあり家庭で安静にします。抗生物質服用開始24時間以上経って、これらの症状が消失し食欲や元気がある場合には感染の可能性は低いといわれていますので、抗生物質を服用しながら登園、登校は可能です。
ひきつけは手足をつっぱったり、がくがく震えたり、眼球が上を向いて歯をくいしばって意識がなくなった状態で、しばしば呼吸ができないため皮膚の色がチアノーゼを呈します。38℃以上の発熱を伴う熱性けいれんがほとんどで、生後6か月から6歳頃までにみられますが、1~3歳が好発年齢です。熱性けいれんは通常数分以内におさまりますので、お子さんの呼吸が楽になるような姿勢で、嘔吐する場合に備えて顔を横に向けてあげましょう。舌をかんでいなければ口の中に指を入れたり、大声で呼びかけたり揺り動かすなど、刺激を与えることは避けましょう。
慌ててしまうものですが、ひきつけを起こした時間、可能であれば体温を測定し、発作の長さや状態、左右差がないかなどを観察しておいて下さい。緊急に受診が必要な状況はけいれんが10分間以上続く、短時間にけいれんを繰り返す、意識障害が続く場合などが挙げられていますが、これらを判断することは困難だと思います。お子さんがひきつけを起こして重篤感があれば救急車を要請してもいいと思います。特に1歳未満で初回発作の場合には慣れないことですから躊躇することはありません。また、けいれんが消失しても医療機関を受診するようにして下さい。
赤ちゃんのおへそは生まれたばかりの時にはお母さんとつながっていた臍帯(臍の緒)が残っています。生後1週間ぐらい経つと自然に臍帯が落ちて、その後は傷跡のようになって縮小し、表面は次第に皮膚に覆われていきます。そうして、へこんだヘソが形成されます。この傷跡のような部分が弱くておなかの壁を完全にふさがない場合に、皮膚だけになった部分が突出するようになっていわゆるでべそ(臍ヘルニア)になってしまいます。
自然経過を見ると生後2~3か月の頃に臍ヘルニアは最も大きくなります。しかし赤ちゃんが大きくなって腹壁が発達してくると徐々に縮小して、1歳くらいまでに90%以上は自然治癒します。このため「何もしなくてもいいですよ」といわれることが多いと思います。ところで自然治癒しない臍ヘルニアの中には白線ヘルニアといって通常の臍ヘルニアより位置がやや上方のものがありますし、非常に大きな臍ヘルニアも含まれます。
早ければ早いほどいいのですが、1歳ぐらいまでに臍部をいろいろな方法で圧迫すると治癒が早まるといわれています。生後3か月ぐらいまでに圧迫療法を開始すると約2か月くらいで治癒していくことが多いのでまず試みています。
感染すると4~5日の潜伏期を経て鼻水、咳、発熱などの症状が数日続きますが多くは軽症で済みます。しかし重症になってくると咳がひどくなる、ゼーゼー、ヒューヒューといった喘鳴[ぜんめい]が出現する、ひいては呼吸困難を起こし細気管支炎、肺炎へと進展してしまいます。中耳炎を合併することもあります。初感染の乳幼児の7割は上気道炎症状のみで数日で軽快しますが、3割は悪化し入院による治療が必要です。特に低出生体重児や基礎疾患のあるお子さんは重症化しやすいといわれています。RSウィルスに効く特別な治療法はなく対症療法を行います。また、感染を繰り返したりすると肺機能に影響を及ぼし、喘息などを発症するリスクが高まります。
飛沫感染と接触感染により感染します。流行期には人が集まるところは避けるようにしましょう。再感染以降では風邪程度の症状ですので、年長児や成人では感染に気づかないことがあります。マスク、手洗いを励行して赤ちゃんに接するようにして下さい。
発熱はからだの防御反応で侵入した病原菌と戦い病気を早く治す手段といわれています。発熱の原因にはいろいろなものがありますが、お子さんが比較的元気で、食欲もあり、機嫌がいい場合には様子を見て良い場合が多いと思います。
一般に発熱とは38℃以上のことをいいます。解熱剤が処方される場合、処方箋の多くには38.5℃以上で使うことと書いてあると思います。これはあくまでも目安と考えて下さい。39℃、40℃の高熱でもお子さんが食欲があり、様子もいつもと変わらなければ解熱剤は使う必要はありません。一方、38℃前後でも機嫌が悪い、食欲がない場合に解熱剤を使うと状態が改善することがあります。熱が少し下がったり、頭痛などがとれ元気になった場合に大切なことは水分補給です。機嫌が良くなり遊ぶようになったら積極的に水分をとらせて下さい。
解熱剤を使うことはタイミングや量などある意味非常に難しいことです。発熱させたままの方が病気が治りやすいということもありますが、発熱により体力が消耗することも事実です。お子さんの状態をみてまず少量から使っても良いと思います。
インフルエンザワクチン接種の季節が来ました。効果のほどはともかく、いつ接種するかは気になるところです。接種した後、どのくらいの期間効果が続くかは明確ではありません。6か月ぐらいともいわれますが、それ以上経っても予防接種による抗体が十分にあるともいわれています。一方、十分に抗体価が上がってくるのには2週間は必要といわれていますので、インフルエンザの流行が始まってからでは手遅れです。インフルエンザの流行は1月から2月がピークですが、一般にインフルエンザは11月頃から出てきます。従って11月頃までには接種を済ませておくことが大切です。インフルエンザワクチンにはA型、B型のインフルエンザウィルスワクチンが混合されています。毎年、流行株を予測して製造されていますが、その年の流行株に一致しない場合には効果が低くなります。予防接種をしたのに3月頃からインフルエンザにかかってしまう方は抗体価が下がっているかもしれませんが、ワクチン接種しても十分に抗体価が上がっていなかったことも考えられます。
このワクチンは、発症の予防というより重症化の予防にも有効といわれており、早めに接種されることをおすすめします。
1796年、天然痘という病気(致死率40%といわれる)に対してジェンナーが牛が感染する牛痘の膿を用いたワクチン(牛痘)を接種して、近代的な予防接種の歴史が始まっています。日本ではその後、約50年経って種痘所が設置されて普及し、1909年に種痘法が施行されました。1958年に世界保健機関(WHO)により「世界天然痘根絶計画」が可決されて種痘は積極的に行われ、1976年に予防接種は廃止、1977年に自然感染最後の患者が出たあと、1980年に根絶宣言が行われています。日本では種痘後脳炎の問題(種痘禍)があり、世界に先立って1972年夏には種痘接種は中止されています。
最近定期接種になったヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンの成果ですが、報道によると前者で患者数は10分の1に、後者で2分の1になっているとのことです。これまで定期の予防接種で行われているものでは、ポリオや日本脳炎などは患者がほとんど発生していません。
予防接種の究極の目的は、目標とする感染症の根絶です。天然痘は180年かかって根絶されました。副反応、副作用はこれからも解決すべき問題ですが、予防接種が個人の健康に貢献しているところは確かです。
夏にプールで集団的に感染することからプール熱といわれています。病原菌はアデノウィルスで(アデノウィルス感染症)、汚染されたプールの水を介して、のどや目から感染してしまいます。高熱の他、のど(咽頭)がはれて、結膜炎も来すことから、咽頭結膜熱ともいわれています。
唾液や目やに、あるいは便から感染しますのでプールの時期のみならず、特に子どもたちが集団生活をする環境では一年中局所的な流行が見られます。
プール熱の典型的な症状は高熱、のどの痛みや腫れ、それに結膜の充血です。また小さいお子さんでは下痢や嘔吐が主な症状です。アデノウィルスの種類によっては流行性角結膜炎を発症する場合があり、視力障害を来すこともあるので注意が必要です。
治療は特定のものはなく対症療法が主体です。3~7日の経過で症状は軽快していきます。きわめて感染力が強いので、集団生活への復帰は主要な症状が消えてから2日間経過するまで控えて下さい。
排便回数は個人差が大きく、一日に数回排便がある子もいれば、2、3日に1回しか排便しない子もいます。新生児期からおなかが張って、毎日排便がないような場合には小児外科的疾患をまず疑わなければいけません。新生児期には排便が一日1回以上あり、その後便秘気味になってしまった場合はその可能性は低いと思われます。母乳不足も便秘の原因となりますが、体重増加が順調であれば、母乳は足りていると考えられます。
赤ちゃんの便秘はしばしば生後1か月頃から見られます。そして離乳食が始まる頃には自然に治ることもあります。一方、離乳食が始まって便秘になってしまうこともあり、さまざまです。
直腸にある排便の中枢は「第2の脳」といわれており、非常に複雑な仕組みで排便をコントロールしています。その排便中枢を様々な方法で刺激して排便習慣をつけてあげることが重要です。具体的には綿棒で肛門を刺激したり、内服薬、浣腸などで排便を促します。これらが癖になるのではと心配されることが多いのですが、規則正しい排便習慣が確立されるまで継続することが大切です。
最初の感染がおたふくかぜではなかった可能性が高いと思います。おたふくかぜにかかってムンプスウィルスに対する抗体ができると、おたふくかぜに再びかかることはありません。耳下腺(じかせん)が腫れたという症状や臨床経過から診断され、血液の抗体価(こうたいか)が測定されなかった場合は診断は確定されません。
ところでおたふくかぜ(ムンプス)ワクチンを接種しても抗体が上昇しないことがあり、このような場合にはおたふくかぜにかかります。同様におたふくかぜにかかっても、一度上がった抗体価が再び減少してしまう場合もあり、再び感染する可能性がでてきます。
おたふくかぜは耳下腺部の腫れや痛みという症状があるだけでなく、合併症として髄膜炎や睾丸炎(男性不妊の原因)などを起こすことが知られています。また大切なことは重篤な難治性の難聴(ムンプス難聴)がかなりの頻度で起こり、多くは片側性ですが後遺症として残ってしまいます。おたふくかぜの3分の1は不顕性(ふけんせい)感染といって症状がありませんが、このような場合も難聴の原因になるといわれています。したがって1才を過ぎたらムンプスワクチンを接種することが必要です。
急性中耳炎は子どもに多く(70~80%)、特に乳幼児の占める割合はそのうち75%です。幼児期以降は痛みを訴えたり、耳だれが出てわかりますが、乳児期では耳をよく触ったり、不機嫌や夜泣きが止まらないという症状の他、発熱のみということもあります。中耳炎のほとんどがかぜをきっかけに発病しています。鼻水や鼻づまりを伴う場合には、中耳炎の合併も疑います。また、中耳に液体が貯まっても鼓膜に発赤や痛みを伴わない場合には滲出性中耳炎といわれます。
診察では耳鏡を用いて鼓膜をみますが、しばしば耳垢がたまっていて十分に観察できません。また中耳炎がある場合、耳介を引っ張ると痛みを増強させます。そこで鼓膜に音を当てて貯留液を確認する簡便な検査器具で、中耳炎の有無、程度を判断しています。
急性中耳炎で痛みを伴う場合には、まず鎮痛剤を用います。有効な抗生物質を早期に用いることも有効です。また中耳に膿が貯まっている場合には耳鼻科で鼓膜切開が行われることもあります。
成長に伴い中耳炎は減りますが、それまでに乳幼児では鼻汁の排泄を促す薬の内服や鼻水を積極的に吸引してあげるのも有効です。
はじめに乳幼児の腸重積症はロタウィルスワクチンの副反応とは限りません。腸重積とは腸の一部が肛門側の腸の中にはまり込んでいく状態で、腸管は詰まり血流が悪くなります。このため腸管が壊死し、破れて腹膜炎という経過をたどります。したがって、いかに早く発見して治療するかが重要です。
一般に生後4か月から1才半の乳幼児に好発します。突然、顔面蒼白となり激しく泣き出し、これが約15分毎に繰り返されます。さらにイチゴゼリー状の粘血便やおう吐もみられます。診断は症状と、腹部に重積した腸管を腫瘤(しこり)として触れ、直腸診や浣腸で血便を認めたり、さらに超音波検査で確定します。腹部レントゲン撮影をして、穿孔や腹膜炎がない場合にはバリウムや空気で肛門から造影を行い、重積した腸管を口側に押し出すことにより治療されます。発症から時間がたってしまい腸管の壊死や腹膜炎が疑われる場合には緊急手術が必要です。
腸重積症の原因の多くは不明です。感冒や下痢が先行することや、むしろ健康的な乳幼児に多いともいわれています。まず、症状から腸重積症ではないかと疑うことが大切です。
寒い季節になるとストーブやヒーターを使う機会が多く、やけど(熱傷)のリスクも増えます。しかしやけどは1年中みられる事故で、子どもでは電気ポットの熱湯やスープなどの熱性液体によるものが多いようです。乳幼児のやけどの特異性は、皮膚が薄いため傷の深さ(深達度)の判断が難しいこと、手指など部位によっては瘢痕拘縮(傷のひきつれ)による機能障害が起こること、感染を来しやすいことなどが挙げられます。初期治療は消毒や軟膏を塗るのではなく、まず受傷部位を水で冷やすことです。十分に冷やすことにより痛みが軽減するばかりでなく、深達度や受傷面積が減少します。氷や保冷剤などで過度に冷やすことは、むしろ血行障害を来す恐れがあります。衣服の上から受傷した場合には、表皮を傷つけないように着たまま冷やします。
病院に行く目安は、受傷面積が広かったり深達度が深い場合です。顔面、外陰部、肛門部は程度が軽くても受診した方が良いと思います。また、手指の場合にも瘢痕拘縮の危険がありますので受診してください。やけどは何よりも予防が大切です。今一度家の中の安全を確認してください。
転倒や転落により、頭を強く打ってしまうことがあります。小さなお子さんの場合は特に心配です。頭を打った時の主な注意点は、まず意識障害があったかどうかです。受傷後すぐに泣いた場合、顔色も悪くなく、嘔吐などがない場合にはまず心配はありません。幼児期以降で意識障害に加えて注意すべき症状としては、受傷の前後の記憶がなくなる健忘があるかどうかです。意識障害や健忘、痙攣は頭蓋内の損傷を示唆することがあります。受傷直後は元気でも、時間がたつにつれ意識がなくなったり、頭痛、嘔吐が見られる場合にも同様に頭蓋内損傷が疑われます。このような場合にはCT検査が必要だと思います。陥没骨折が疑われる場合も必要です。
しかし、頭を打つことはしばしばあり、その都度CT検査を受けるのは問題があります。軽微な打撲でも頭蓋骨骨折や脳の損傷が起こることもありますが、例えこのような場合でも脳外科手術を要することなく経過を見ることが多いものです。CT検査による放射線被曝のことを考えると、ほとんどの場合は受傷後24時間ぐらい様子を見て良いかと思います。
咳発作でゼーゼーする時に、医療機関では気管支拡張剤と生理食塩水による吸入療法を行うことによって咳を軽くしています。咳のため眠れない時、ゼーゼーして十分な呼吸ができない時にご家庭では湯気で加湿することで同様の効果が得られます。湯気を吸入するためには、湿度100パーセントがいいのですが、それにはお風呂場が良いでしょう。お湯の入ったお風呂のふたをとり、湯気がモウモウとたっている中にお子さんと一緒にいる(お湯の中に入るのではありません)と効果があることがあります。ぜんそく発作や喘鳴を伴う喘息性気管支炎に特に有効です。
もちろん朝から咳があり、徐々に悪化するようであれば、早めに受診することをお勧めいたします。十分な水分補給ができない時は喀痰の排出ができません。高熱で苦しそうな場合、呼吸困難を来している場合、ぐったりしているような時には夜間でも病院を受診してください。気管支炎や肺炎あるいは心臓に問題があることがあります。
お子さんがハイハイしたり歩くようになると、ぶつけたり、転んだりしてけがが増えます。けがをしないようにいろいろ用心していても事故は起こってしまいます。そこでけがの対処法として、まず次のようなことに心がけていただければ良いでしょう。けがの多くは擦り傷や切り傷です。頭や顔、四肢末端のけがは出血量が多いのですが、よく見ると傷口はそれほど大きくない場合がほとんどです。まず、皆さんは動揺しないで、お子さんが痛みや恐怖を軽減できるように勇気づけ、出血してるところを直接圧迫してください。強くしてはいけません。しばらくすると出血も減ってきますし、止まります。傷口に軟膏は必要ありません。傷口についた異物を水で洗い落としてください。止血してお子さんがあまり痛みを訴えないようであれば、傷を覆ってお家で経過を見られて良いでしょう。止血しない、傷口が大きい、深い、痛みが強い場合には医療機関を受診してください。顔面の傷など目立つところの傷に関しては縫合した方が良い場合が少なくないので、傷の大小にかかわらず受診されることをお勧めします。
9月から不活化ポリオワクチンの接種が始まりました。これはポリオ単独ワクチンで、今まで全くポリオワクチンを接種していないお子さん、生ポリオワクチンを1回しか接種していないお子さん、それに任意に不活化ポリオワクチン接種を開始されていて接種回数が4回に達していないお子さんが対象になります。現在まで全く接種されていない方は9月から1回目の接種を始めて合計4回の接種を受けます。生ポリオワクチンを受けた方はその接種から4週以上あけて残りの3回を受けます。任意に不活化ポリオワクチンを受けた方は残りの回数を受けて合計4回になるようにします。
接種間隔は1回目から3回目までは20日以上あけて(当分の間、8週以上の間隔をおいても接種可能です)、4回目は3回目から6か月以上あけて接種することになっています。なお現在4回目の追加接種は定期接種対象外ですので、案内があるまでしばらくお待ちください。ポリオワクチン接種該当者に対するワクチン供給は滞りなく行われるとのことです。焦ることなくお子さんの健康状態が良好な時に接種されるとよいと思います。
11月からは現在の三種混合(DPT)ワクチンにポリオワクチンを加えた4種混合ワクチン(DPT-IPV)も接種が始まる予定です。
-外気浴や日光浴はしていますか- 私の子どもの母子手帳にある3~4か月頃の記載です。日焼けを避けるようにいわれ始めたのは1980年代からです。紫外線による皮膚障害が注目されるようになり、母子手帳の日光浴をすすめるような記載は1998年になくなりました。実際には赤ちゃんが直射日光で日焼けをすることは昔から避けられていました。一方、外気浴はとても大切です。直射日光を避けながら外を散歩することは適度な紫外線を浴びることになり、骨の形成を促したり、皮膚の殺菌のためにも良いと考えられます。子どもたちがプールやサッカーなどで真っ黒になって遊ぶことは自然なことです。そのためには徐々に日焼けしておくことも皮膚の保護になります。日焼け止めですが、確かに幼稚園や学校では塗りにくいですね。熱中症のこともありますので、帽子をかぶったり、長袖にしたり、暑い日中を避けることなど、それぞれの施設でも配慮されています。しかしどうしても強い紫外線を浴びそうな場合には、日焼け止めを使うことも考慮して下さい。
赤ちゃんを「高い高い」する様子はとても微笑ましいものです。しかし、急激に上下すること、頭を強く揺すぶるようなことは決してしないでください。
乳幼児は頭が大きく首もまだしっかりしていません。頭の中が未熟でクモ膜下腔が大きく、そのため脳が移動しやすく脳表面から硬膜につながる血管が切れて頭蓋内出血や眼底出血をおこすといわれています。このように乳幼児の頭部を強く揺すぶることによって引き起こされる病気は、文字通り「ゆさぶられっ子症候群(Shaken baby syndrome)」といわれています。特に6か月までの乳児ではおきやすく、脳に障害を残して脳性麻痺や精神運動発達遅延を来したり、視力障害をおこしたり、最悪は死に至ることもあります。
日常的な生活の中でもおこることがあり、乳児では「高い高い」はしない方が良いでしょう。またチャイルドシートの不適切な使用により頭が揺さぶられて発生した例もありますので注意してください。
かぜやインフルエンザ、胃腸炎などの感染症はお子さんに限らず、家族内で感染してしまいます。こんな時、しばしば大人もみてもらえますかと聞かれます。
ちなみに小児科は何歳までを診るものなのでしょう。保険医療では6才を過ぎてしまうと成人とほぼ同じ扱いです。小児医療とは年令でいえば15才というのが一般的でしたが、学会では20才までを対象にしようという考えがあります。なかには成人してからも小児科や小児外科でフォローした方が良い病気もあります。中学生から20才くらいまでは子どもに多い病気もありますが、甲状腺疾患や高脂血症など成人にみられる疾患も出てきます。年令による区別が非常に曖昧な時期です。子どもの思春期、青年期の成長過程もみている訳ですから、大人の診療は小児科でも可能です。小児科という名称で「もう子どもじゃない」と敬遠される中学生、高校生もいらっしゃいますが、その場合には小児科も標榜されている内科を受診されても良いと思います。