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街のお医者さん相談室

体・心・病気の悩みなどの医療相談を、街のお医者さんに出演いただいた先生がお答えします。

杉谷メディカルクリニックの杉谷武彦先生に聞きました!

つくば市研究学園4-4-11
TEL: 029-879-9310

内科・消化器内科

神経性過食症は食事量をコントロールできず、一気にたくさん食べてしまう過食行動(むちゃ食い、やけ食い)を繰り返し、過食に苦痛や罪悪感を伴います。体型や体重へのこだわりやボディーイメージの歪みを伴い、肥満恐怖のため過食後の自己誘発性嘔吐、下剤の乱用など、体重を増やさないための代償・排出行動が見られます。代償行動を伴わない場合は過食性障害と言われ、肥満を伴うこともしばしばです。
ストレスは副腎皮質からストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を促します(ストレス応答)。コルチゾールが過剰放出されると、食欲を亢進させ、甘いもの・辛いもの・揚げものなどへの欲求を高めます。特に糖質の摂取は脳内神経伝達物質で精神安定させるセロトニンや意欲や期待感を高めるドーパミンなどの幸せホルモンを増やします。食物の感情的摂食は実際にストレスを和らげる効果があるのです。しかし感情的摂食が常習化してしまうと過食症の引き金となります。1日3食決まった時間で、間食、早食いを避け、運動も心掛け、早起きして太陽の光を浴びましょう。認知行動療法などの心理療法や抗うつ薬による薬物療法などの治療法もあります。

血内視鏡検査では主に白色光観察が用いられ肉眼と同様の自然な色調で描出されます。近年ボタンを押すことで照射する光の波長を変え、病変の特徴を強調する技術が開発されました。光デジタル法と言われ、NBI(狭帯域光観察)やBLI(Blue LASER Imaging)などは青色と緑色の短い波長の光だけを照射し、粘膜表面の血管や凹凸を強調します。また白色光で得られた画像をコンピュータ処理して従来の画像に似せつつ構造と色調を強調するデジタル法では、TXI(構造色彩強調機能)や、赤い部分をより赤く、白い部分をより白く強調するLCI(Linked Color Imaging)などがあり、これらを画像強調内視鏡と総称します。
名古屋大学では、大腸内視鏡における大腸ポリープ(腺腫)検出率がLCI 69.6%、白色光 63.2%と有意な差はないものの、非熟練内視鏡医において LCI が有用であるという結果が得られました。東京医科歯科大学では腫瘍病変の見落とし率が白色光41.3%に比してLCIでは7.4%と優位に低く、小さな病変や平坦な病変などの見逃しを減らすことが報告されました。さらには拡大内視鏡にNBIやBLIを併用して粘膜模様や微細血管を拡大観察して、病変の良悪の診断、早期がんの範囲や病変の深さの診断も可能になってきています。

口は1本の消化器官として胃腸とつながっているため、口の端が切れる口角炎は関西では「胃の花が咲く」といい、胃腸からのSOSと考えます。アフタ性口内炎もストレスや疲れによる免疫低下で引き起こされます。多くは数日から10日ほどで治癒し、ステロイド軟膏が有効です。しっかり休養、睡眠をとり、ビタミンB2、B6、Cや鉄分、亜鉛の摂取も大切です。ガムなどで唾液の分泌を促進し、口腔ケアを心掛けましょう。
ただ口内炎が長引くとき、範囲が広いとき、何度も繰り返すときは歯科や耳鼻科必要ならば内科も受診しましょう。義歯や矯正器具などの刺激によるカタル性口内炎やヘルペス性、カンジダ性口内炎、食物アレルギーや薬による口内炎などもあります。口内炎を伴う疾患にはクローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、ベーチェット病やシェーグレン症候群などの自己免疫性疾患があります。ベーチェット病はアフタ性口内炎、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状を主症状とする全身性の炎症性疾患で、口内炎は初発症状として最も頻度の高い症状です。また口内炎と紛らわしい疾患では扁平苔癬、類天疱瘡、白板症、まれに口腔がんなどもあります。

貧血は赤血球指数の中の赤血球1個の大きさを表す平均赤血球容積(MCV)により小球性貧血(≦80)、正球性貧血(81~100)、大球性貧血(101≦)に分類されます。
小球性貧血の多くは鉄欠乏性貧血で、貧血の7~8割を占め多くが女性です。血清鉄や貯蔵鉄を表すフェリチンの低下で診断されます。若い女性は極端なダイエットや月経などで、中には子宮筋腫や子宮内内膜症に伴う月経過多、中年以降は子宮がんなどにも注意が必要です。潰瘍やがんなど消化管出血を疑い、胃や大腸内視鏡を行うこともあります。また関節リウマチなどの慢性炎症も原因となります。正球性貧血は急性出血や溶血性貧血、慢性腎不全に伴う貧血があります。大球性貧血は赤血球が膨らんで壊れ易い巨赤芽球性貧血で、胃切除後や自己免疫性胃炎によるビタミンB12や葉酸の欠乏が原因となります。白血球や血小板の減少を伴う場合は再生不良性貧血、髄異形成性症候群、白血病などの血液疾患を疑い、骨髄穿刺を行うこともあります。鉄欠乏性貧血などはゆっくり進むため貧血に体が慣れてしまい日常生活では症状に乏しく、かなり進行してから症状が出現することもあるので早めの受診をお勧めします。

慢性便秘症診療ガイドラインでは「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」を便秘と定義しています。その診断基準には「自発的な排便回数が週に3回未満である」「排便をするときに4回に1回は強くいきむ必要がある、硬便である、残便感や排便困難感がある」などの項目があります。つまり3日に1回でもスムーズに排便できれば便秘ではなく、逆に毎日出ていても、残便感があれば便秘となります。
便秘症は器質性、症候性、薬剤性、機能性に分類され、機能性はさらに弛緩性、痙攣性、直腸性に分類されていました。現在ガイドラインではまず症状により「排便回数減少型」と「排便困難型」に分類、さらに専門的検査を行い、「大腸通過正常型」、「大腸通過遅延型」、「機能性便排出障害」と分類します。その原因はさまざまで病状に合った指導や治療を行っていく必要があります。中でも注意すべきは大腸がんなどの器質性便秘です。大腸がんは症状に乏しいため、最近急に便秘になった、便に血が混じっている、便が細く、少量になった、おなかにしこりがある、急に体重が減ったなど症状を伴うときは病院を受診してください。

ピロリ菌の感染経路は口―口,糞―口感染と考えられ、実際感染者の歯垢や唾液や糞便からピロリ菌が検出されています。日本では高齢者の半数以上にピロリ菌感染を認めます。昔は上下水道が整備されておらず、糞便による井戸水の汚染が要因の一つと推測されています。井戸水を飲用している地域、特に深井戸よりも浅井戸の地域に感染者が多いという疫学調査や、最近では実際に井戸水からピロリ菌遺伝子が検出されたとの報告もあります。衛生環境が整った現在では小児の感染率は5〜15%に低下しています。
現在の感染経路としてあげられるのが家庭内感染、特に70~80%が母子感染と言われています。虫歯菌のこともあり少なくなりましたが、離乳食時の親子間の口移しによる感染などです。胃内の酸性が弱く、免疫が未発達な5歳以下の乳幼児期のうちに感染が成立してしまいます。逆に免疫力の高い成人では感染しても自然に排除され、一過性の胃炎で終わると言われています。除菌後であっても夫婦間のキスなどを含め通常の日常生活での感染リスクはありませんが、井戸水や海外のピロリ菌汚染地域で生水を飲んだりすることは極力さけるべきと考えます。

診察室血圧では収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上(家庭血圧では5mmHgずつ低い135/85mmHg以上)を高血圧と診断します。正常血圧は120/80mmHg未満(家庭血圧は115/75mmHg未満)です。白衣高血圧がある一方で、病院では正常でも早朝や夜間に血圧高値となる仮面高血圧、特に早朝に急激に血圧が上昇するモーニングサージは脳卒中などのリスクが健常者の2.47倍と言われており、家庭血圧の測定が大切となります。朝は起床後1時間以内、排尿後、服薬前、夜は就寝前(飲酒後や入浴直後は避ける)に、座った姿勢で1〜2分間安静にした後で2回測定し平均をとります。
家庭血圧での降圧目標は若年、中年、前期高齢者(75歳未満)では125/75mmHg未満です。糖尿病、蛋白尿陽性慢性腎臓病(CKD)の患者さんの降圧目標も125/75mmHg未満とされています。一方75歳以上の後期高齢者では、血圧低下が加齢とともに機能が低下した臓器に悪影響を及ぼすリスクもあるため、また動脈の狭窄や閉塞を伴う脳血管障害患者や蛋白尿陰性CKDの患者さんも同様の理由で、やや高めの135/85mmHg未満を目安としています。

腹腔鏡下胆嚢摘出術では術後3日程で退院可能で、胆石症、胆嚢炎、胆嚢ポリープ、胆嚢腺筋腫症のほか一部の早期胆嚢癌にも適応されます。肝切除以外に胃切除時においても胆石症合併のリスクが高まるため予防的に摘出するようです。
脂肪の消化吸収を助ける胆汁は肝臓で作られ、総胆管を通って十二指腸に流れていきます。胆嚢はその総胆管の途中にあり、胆汁を一時的に貯めておく袋です。胆汁自体は肝臓で作られるため胆嚢がなくても問題ありません。時折脂肪分がうまく腸から吸収されず下痢や腹痛を起こす人もいますが、多くは時間とともに軽快します。術後しばらくは脂肪分が多い肉類や天ぷらなど揚げ物は控えた方が良いでしょう。胆嚢摘出後は総胆管に結石が出来やすくなるため、胆汁の流れが良くなる「苦み」のある食材、ルッコラ、ゴーヤ、ホウレン草など葉菜類やカカオ、コーヒー等の摂取が効果的です。またモズクなど海藻類、キノコ類、もち麦、コンニャクなどの水溶性食物繊維は腸内の不要な胆汁酸の排泄を促進します。ビタミンC・Eも胆汁酸の排泄を促します。さらに胆汁酸の分泌を促すウルソデオキシコール酸を内服する薬物療法もあります。

睡眠には脳内神経伝達物質オレキシンが深く関わっています。空腹で血糖値が低下するとオレキシンが活発に働き覚醒し、満腹で血糖値が高くなると活動が低下して眠くなってしまうようです。糖尿病で食後高血糖が続くとオレキシンが長く抑制されるため、眠気をより強く感じ易いということになります。
逆に食後に血糖値が急激に上昇することで、インスリンが大量に分泌され、反動で血糖値が急降下する、いわゆる血糖値スパイクでは低血糖状態により、食後に強い眠気や倦怠感を感じたり、イライラし易くなったりします。血糖値スパイクは隠れ糖尿病ともいわれ、健診での空腹時血糖やHbA1c等では見逃されることがあります。そのため糖尿病を疑う場合は経口ブドウ糖負荷試験を行うことがあります。まず空腹で採血し、その後75gブドウ糖入り炭酸水を飲み、30分、1時間、2時間後に採血します。負荷前後の血糖値、インスリン値により糖尿病型・正常型・境界型を判定します。ただ日中の強い眠気は、糖尿病だけでなく、睡眠中の無呼吸で睡眠の質が低下する睡眠時無呼吸症候群や突然強い眠気に襲われてしまうナルコレプシーといった病気もあるので注意が必要です。

健診では空腹時血糖値(FBS)、HbA1cを測定します。FBS 126mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上の数値が2回以上確認されると糖尿病と診断されます。FBS110~125mg/dL、HbA1c 6.0~6.4%が糖尿病予備群に相当します。予備群がすぐに糖尿病の三大合併症(網膜症、腎症、神経障害)を起こすわけではありませんが、糖尿病同様に動脈硬化を招き易く、正常の人に比べ心筋梗塞や脳梗塞などの発症リスクは2.2倍です。特に食後血糖が急上昇しその後急降下する血糖値スパイクを繰り返す人は要注意です。
肥満はあらゆる生活習慣病が要因です。腹八分目、間食を控えましょう。早食いも血糖値が急上昇します、よく噛んで、ゆっくり食べると食べ過ぎ防止にもなります。食べる順番も重要です。まずは野菜や海藻を先に食べる“ベジタブルファースト”を意識することです。雑穀や玄米のご飯、全粒粉のパンも食物繊維が多く、こちらも糖の吸収が穏やかとなり血糖値の急な上昇を抑えてくれます。禁煙・節酒を心掛け、7時間以上の十分な睡眠をとり、ストレス解消、気分転換も兼ねて体を動かしましょう。普段から歩くことがオススメです。毎日30分ほど、食事の1~2時間後が効果的です。健診も受けてくださいね。

アニサキス幼虫が寄生したオキアミをサバ、サンマ、カツオ、サケ、スルメイカなど魚介類が捕食、それをクジラなどが食べ、その胃の中で成虫になります。その魚介類を人が生で食べ、アニサキスが胃壁に刺入すると数時間で強い腹痛、嘔気が出現します。この強い痛みはアニサキスに対するアレルギー反応によると言われ、以前サバアレルギーと思われていた蕁麻疹もアニサキスが原因と考えられています。アニサキスは人の胃の中では成虫になれず1週間程で死滅しますが、一番の治療は内視鏡での虫体除去です。
アニサキスは主に内臓表面に寄生していますが、鮮度の低下で筋肉内へ移動することが知られています。対処法は内臓の生食は避け、新鮮な魚を選びすぐに内臓を除き、筋肉への寄生もしっかり目視して腹壁側もしっかり捌きます。またワサビやお酢では死滅しません(しめ鯖も要注意)。確実な死滅の方法は60度以上で1分以上の加熱、マイナス20度以下での24時間以上の冷凍です(鮭のルイベは先人の知恵)。アニサキスは虫体が傷つくとすぐに死んでしまいます。よく噛むには限界がありますが、アジのたたきやイカソーメン、飾り包丁も先人の知恵ですね。

抗ピロリ菌作用を有する食品には乳酸菌Lactobacillus Gasseri(ラクトバチルスガッセリー)(いわゆるLG21)を含むヨーグルト、ココアのオレイン酸やリノール酸などの遊離脂肪酸、ブロッコリースプラウト、梅肉エキス、ハチミツ(マヌカハニー)、海藻類のフコイダン、シナモン、緑茶のカテキンなどがあります。コーヒーの抗菌作用も注目されており、東海大学の研究では試験管内でのピロリ菌増殖が抑制されたという報告もあります。
またコーヒーに含まれるクロロゲン酸などのポリフェノールは体に有害な活性酸素の働きを抑える抗酸化作用を有し、老化の防止、糖尿病の予防や免疫力を高めてがんを予防する効果(特に肝臓がん)があるとされています。さらにコーヒーに含まれるピロカテコールが認知症予防に役立つことが示唆されています。一方でカフェインは胃酸の分泌を増やすため、胃を荒らす原因になります。一日あたり400mg、コーヒーカップ1杯(150ml)で約3~4杯分までは、健康リスクが増加しないと言われています。食品ではピロリ菌は消えず、やはり除菌治療が第一選択です。制酸剤で胃酸を抑制して抗菌薬の効果を高める除菌治療中は控えた方がいいかもしれませんね。

健診でも用いられる腹部エコー検査は膵管拡張、膵嚢胞、胆管拡張などを調べることができます。腸管ガスや皮下脂肪で観察不良となることがあり、健診での膵がん発見率は2cm以下で50~60%、1㎝以下では30%程度です。CA19-9などの腫瘍マーカーも早期膵がんでの陽性率は5割ほどです。血中マイクロRNAが早期膵がん発見に有用と注目されていますが現在は保険適応外です。
症状のある方、腹部エコー検査や腫瘍マーカーで異常を認めた場合は造影CT検査、MRCP(MR胆管膵管撮影)、さらにはEUS(超音波内視鏡検査)、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)が行われ、必要により膵液や膵臓の組織を採取してがん細胞の有無を調べることもあります。早期発見にはEUSが有用ですが偶発症のリスクもあり、熟練した技術が必要になるため、検査可能な医療機関は限定されます。PET-CT検査は膵がん他全身のがんを1回の検査で調べることができます。がんの転移や治療効果の判定、再発の診断に対して保険適応ですが、健診目的でのPET検査は保険適用外となり、費用10万円前後は全額自己負担です。最近では膵がん、肝がん、胆のう胆管がんに特化した膵臓MRIドックを行う施設もあるようです。

ピロリ菌胃炎の内視鏡所見は、びまん性発赤、粘膜腫脹、ひだ腫大、白濁粘液などです。胃炎が長く続くと、胃粘膜が薄く痩せてしまう萎縮性胃炎に進行し、さらには胃粘膜が腸の粘膜の性質を持つ腸上皮化生が起きてきます。除菌によりびまん性発赤、ひだ腫大などの炎症はすぐ改善しますが、胃粘膜萎縮と腸上皮化生は完全に元に戻ることはなく、見た目の改善には少なくとも10年以上かかります。そのため除菌後の胃がんリスクは1/3程度に低下するものの、年0.5%程度の頻度で胃がんが発症すると言われています。
除菌後胃がんは男性、胃粘膜萎縮・腸上皮化生、胃がんの既往、高齢の方でリスクが高く、特徴として発赤調・平坦陥凹型・10mm前後の小さいものが多いとされています。除菌後はびまん性発赤が軽快するため、胃がんが発見され易くなることが期待されましたが、実際は地図状発赤や斑状発赤といった不揃いの粘膜の発赤が出現するため、胃がん発見が逆に困難なことがあります。回復した胃粘膜の下に胃がんが隠れてしまうこともあります。近年除菌後10年以上してから胃がんが見つかるケースも増えており、除菌後も注意深いフォローアップが必要です。

プリン体は運動や臓器が働くためのエネルギー源で、主に肝臓で分解され尿酸となり、尿に排泄されます。生成と排泄のバランスが崩れて高尿酸血症(尿酸値7.0mg/dL以上)になると、過剰な尿酸が関節内で結晶化し、運動などで一部が関節液中に剥がれ落ちて炎症が引き起こされる病気が痛風です。体重がかかる足の親指付け根に激痛が起きるのは有名です。高尿酸血症には高血圧、糖尿病や高脂血症などが合併することも多く、高尿酸血症自体でも酸化ストレスにより動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクを高めます。また痛風腎から腎不全に落ちうることもあります。
痛風の予防には尿酸産生抑制薬、尿酸排泄促進薬などを内服し、尿酸値を6.0mg/dL以下にコントロールしますが、生活習慣の改善は有効です。過食を避け、プリン体の多いレバー類、赤身魚、干物、肉類、エビ類などは控えましょう。アルコール(特にビール)も極力避けましょう。キノコや海藻類など野菜中心の食事を心掛け、1日2ℓ以上の水分をとりましょう。適度な有酸素運動で肥満を防止しましょう。ただ遺伝的な要因も関与すると考えられており、内服で軽快しても自己判断で休薬してはいけません。

鉄欠乏性貧血に対する鉄剤の経口投与では胃腸への刺激が強いため、吐き気、便秘、下痢などの消化器症状が10~20%の患者さんに出現します。通常1~2週間ほどで改善することが多いのですが、内服のタイミングとして空腹時を避けて食事中に摂取したり、就寝前に内服頂くこともあります。また胃から腸にかけてゆっくりと鉄を放出して、少しずつ吸収される徐放性製剤に変更したりします。ただこの製剤は胃酸がないと効果がないため、胃の切除を受けた人や胃酸分泌が低下している高齢者には向かないことがあります。さらに減量によっても内服が困難な時は注射での投与を行いますが、副作用もあるため、貧血の状態や体格など考慮し必要な投与量を計算して、過剰投与を避ける必要があります。
鉄剤内服で便が黒緑色となりますが、吸収されなかった分の鉄が排泄されたためで心配ありません。また歯が黒っぽく変色することがありますので、歯磨きを心掛けましょう。緑茶、コーヒー、紅茶に含まれるタンニンが鉄の吸収を阻害するため、食中や食直後、鉄剤内服時はほうじ茶や麦茶がお勧めと言われていましたが、よほど濃いお茶で内服しなければ問題ありません。

新型コロナからの回復後にさまざまな体調不良に悩む人が増えています。WHOは「新型コロナの発症から通常3か月間以内に出て、少なくとも2か月以上続く、他の病気の症状としては説明がつかない症状」をコロナ後遺症と定義しています。不明な点も多く、重症者だけでなく無症状、軽症者にも、また若年者でも発症のリスクはあります。
海外の報告では、発症後2カ月あるいは回復後1カ月を経過した患者の72.5%が何らかの症状を訴えており、最も多いのは倦怠感40%で、息切れ36%、嗅覚障害24%、不安22%、咳17%、味覚障害16%、抑うつ15%でした。いずれの症状も経時的に頻度は低下しますが、厚生労働省研究班の報告では診断 12 カ月後でも罹患者全体の33%に1つ以上の症状を認めており、各症状の頻度は、疲労感・倦怠感13%、呼吸困難9%、筋力低下、集中力低下8%、睡眠障害、記憶障害7%、関節痛、筋肉痛6%、咳、痰、脱毛、頭痛、味覚障害、嗅覚障害5%でした。ちなみに消化器系の罹患後症状は下痢、腹痛と言われています。症状が気になる方は、茨城県でも罹患後症状外来実施医療機関が設置されましたので県のホームページでご確認ください。

肝炎ウイルスや飲酒、脂肪肝などで肝臓に炎症が起きると、肝細胞が壊れ肝酵素のAST、ALTが血液中に出てきます。6ヶ月以上AST、ALT高値が持続すると慢性肝炎と診断されます。慢性肝炎が長く続くと肝細胞の壊れた跡に線維が沈着し、肝臓が硬くなります。これを肝線維化と言い、進行すると肝硬変になります。慢性肝炎や肝硬変初期では自覚症状はありませんが、肝臓の働きが十分に保てなくなった非代償性肝硬変では、蛋白質アルブミン値の低下で浮腫、腹水が、ビリルビン値の増加で黄疸が、アンモニア値の上昇で肝性脳症などの症状が現れます。食道静脈瘤などの合併で、吐血を生じる場合もあります。また肝線維化の進行は肝がんのリスクを高めます。
血小板数10万以下では肝硬変を強く疑います。血小板数、AST、ALT、年齢を用いるFib4-indexなどの計算式や、Ⅳ型コラーゲン7S、M2BPGi等の線維化マーカーも有用です。また腹部エコー検査では肝萎縮や肝表面の凹凸がわかります。最近ではフィブロスキャンのように肝硬度測定も可能になりました。さらに肝臓に細い針を刺して組織採取する肝生検も行うことがありますが、大切なのは肝硬変になる前に治療を開始することです。

胃X線検査で胃が骨盤内にまで垂れ下がった状態が胃下垂です、日常生活では食後に下腹部がぽっこり膨らむようであれば胃下垂を疑います。やせ型で長身の人は、腸管の脂肪不足、胃を支える筋力の低下や腹圧の低下などで胃下垂になりやすく、また前かがみで胃が下方に圧迫されやすい猫背の人、長時間のスマホも要注意です。
症状がなければ治療は必要ありませんが、胃壁が引き延ばされ、胃の筋緊張が低下した状態を胃腸虚弱、胃アトニーといいます。少量の食事ですぐお腹がいっぱいになる、食後の胃もたれや嘔気、ゲップが多い、下痢や便秘、めまいや動悸など症状は多彩です。最近では機能性ディスペプシアと言われ、必ずしも胃下垂が原因ではなく、自律神経失調などの関与も示唆されています。
猫背にならないように肩甲骨を広げ、腹筋を鍛えるような体幹トレーニングを心掛けましょう。暴飲暴食を避け、よく噛んでゆっくり食べる、小分けに少量ずつ食べることも有効です。ストレスを避け、十分な睡眠をとりましょう。薬物療法では制酸剤や胃運動機能改善薬、自律神経調整薬などが処方されます。ちなみに逆立ちでは治らないようです。

ポリペクトミーはスネア(輪っか状のワイヤー)でポリープの根元を引き絞り高周波電流で焼き切ります。平らなポリープはポリープの下(粘膜下層)に生理食塩水を注入してポリープを浮き上がらせた状態で切除します(内視鏡的粘膜切除術:EMR)。小型のポリープではコールドポリペクトミーというスネアにてそのまま切除する方法があります。いずれの方法も大腸の粘膜には知覚神経がないため痛みは感じません。しかし粘膜下の筋層を巻き込むと痛みが出現します。筋層を傷つけた可能性があり、穿孔などのリスクが高くなります。特に高周波電流で焼き切るときは後出血(0.6%)や後穿孔(0.04%)に注意が必要です。
切除後の食事は、当日は流動食やお粥など、数日は消化の良いものを摂取しましょう。1週間はアルコールを控えてください。デスクワークや軽作業の家事、短時間の散歩などは翌日から可能ですが、腹圧がかかる力仕事や激しい運動(ゴルフなども)は1~2週間は控えましょう。当日はシャワー、数日間はシャワーもしくは温めのお湯で短時間の入浴で済ませましょう。長時間の車の運転や、飛行機などでの旅行も1週間は控えてください。

ペプシノゲン(PG)は消化酵素ペプシンの前駆体で、免疫学的にPG IとPG IIに大別されます。PGⅠは主に胃底腺から、PGⅡは胃底腺のほか幽門腺など胃粘膜全域から分泌されます。胃炎が強い時は特にPGⅡが増加するためPGⅠ/Ⅱ比は低下します。ピロリ菌感染などで胃炎が持続すると胃粘膜の萎縮(老化)が進行します。胃底腺領域まで萎縮が進行するとPGⅠがより低下するため、PGⅠ/Ⅱ比はさらに低下します。PG法は萎縮に伴いPGⅠとPGⅠ/Ⅱ比が低下することを原理として、陰性、陽性(PGⅠ≦70かつPGⅠ/Ⅱ≦3.0)~強陽性(PGⅠ≦30かつPGⅠ/Ⅱ≦2.0)の4段階で胃粘膜の萎縮度を判定します。
胃がんリスク層別化検診(ABC検診)は、血中ピロリ抗体によるピロリ菌感染の有無とPG法による胃粘膜萎縮の程度で将来の胃がんリスクを予測します。C群(ピロリ陽性/PG法陽性)の発がん率は年率0.3%でPG強陽性ではさらに高くなります。B群(ピロリ陽性/PG法陰性)では年率0.14%ですが、PG I ≦ 30あるいはPG I/Ⅱ≦ 2.0 あればC群同等の年率0.3%の発がんリスク、また炎症の指標であるPGⅡが 30以上の高値の場合、未分化型胃がんのリスクが高くなると言われています。

食道はのどと胃をつなぐ45cm程度の管状の臓器で、食道がんの90%以上は管腔の内側の粘膜から発生する扁平上皮がんです。男女比約6:1と男性に多く、60~70歳代に好発します。
リスク因子は喫煙、飲酒、熱い飲食物です。野菜・果物(βカロテンやビタミンCなど)の摂取は予防効果があると言われています。アルコールでほろ酔いはいい気分ですが、アルコール脱水素酵素(ADH1B)によりアセトアルデヒドに代謝されると、顔面紅潮(フラッシング)や悪酔いの原因になります。最後はアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)により分解されますが、このアセトアルデヒドが体内に蓄積すると食道がんのリスクが高くなります。そのためALDH2の働きが悪い人(日本人の4割)、コップ1杯のビールで顔が赤くなる人(フラッシャー)、また飲酒を始めた最初の1-2年にあった人は要注意です。これらの人に飲酒、喫煙の習慣があると、まったくそれらの要素がない人に比べ、189倍も食道がんのリスクが高いと言われ、口腔、咽頭がんの合併にも注意が必要です。欧米では半数以上を占め日本では数%と言われる食道腺がんも、逆流性食道炎などに合併するバレット食道を背景に増加傾向にあります。

胃と食道をつなぐ食道胃接合部は下部食道括約筋(LES)により、胃酸の逆流を防いでいます。胃食道逆流症(GERD)の原因は、LESの一過性弛緩と腹圧の上昇、低LES圧と考えられています。
肥満、便秘、加齢により背中が曲がる円背は腹圧の上昇の原因になります。ベルトや下着での腹部の締め付け、庭仕事など長時間の前屈み姿勢、重いものを持ち上げる力仕事も要注意です。腹圧上昇は食道裂孔ヘルニアの原因にもなります。食事ではチョコレート、柑橘類、カフェイン、香辛料などを控えると胃酸分泌が抑えられます。高脂肪食は十二指腸からのコレシストキニンの分泌を増加させることで、また食べ過ぎや飲み過ぎによる胃の伸展刺激も一過性LES弛緩を引き起こします。アルコールや喫煙もLES弛緩させます。
LES弛緩が起きやすい食後はすぐ横にならず、就寝前3時間以内の食事も避けましょう。就寝時には右側臥位を避け、頭位挙上(20㎝程度)すると酸逆流を防げます。治療はプロトンポンプ阻害薬やP-CABなど酸分泌抑制剤が有効です。逆にカルシウム拮抗薬、亜硝酸塩、抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、三環系抗うつ薬などの薬剤はLES圧を低下させるため注意が必要です。

年齢とともに喉の筋肉が衰えて嚥下機能は低下します。誤嚥性肺炎は死因第7位で年間4万人近くが亡くなっています。予防のための訓練法を紹介します。
嚥下体操:ゆっくり深呼吸(鼻から吸って口から吐く)→⾸を前後左右にゆっくり動かす→肩を上げ下げし回す→手を上にあげて背伸びをして⼝を⼤きく開閉したら⾆を出し上下左右に動かす→最後にゆっくり深呼吸。
パタカラ体操(発声練習)まず「パ、パ、パ(口唇をとじる)、タ、タ、タ(口蓋に舌先をつける)、カ、カ、カ(口蓋の奥に舌の付け根付近をつける)、ラ、ラ、ラ(巻き舌にて口蓋に押し当てる)」を5回、次に「パタカラ、パタカラ、パタカラ」と5回大きな声で繰り返す。これを毎日3回食前に行うと、食べるためのよい準備になります。「パ」「タ」は口唇と舌の筋力を鍛え、「カ」でのどの奥を動かし、「ラ」で食べ物をのどに送るスムーズな舌の動きを鍛えます。
他にブローイング訓練、ハッフィング、ペットボトル体操、シャキア・トレーニング、喉上げ体操などもあります。積極的に⼈と話したり、歌うことも(高音、裏声が効果的)、⼝や喉の筋⾁が鍛えられ誤嚥予防になります。

膵癌の危険因子には、家族歴あり(親兄弟に1人いると4.5倍、2人いると6.4倍)、IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)・膵嚢胞を認めた場合の膵癌発生リスクは5年で3.3%、10年で6.6%、15年で15%と言われています。糖尿病でのリスクは1.94倍で、特に50歳以降の発症で診断後2年以内は膵癌の発症が多く注意が必要です。そのほか肥満:20歳代にBMI 30以上では3.5倍、喫煙:1.68倍、飲酒:1日3ドリンク(ビール750ml、日本酒1.5合相当)で1.22倍などがあります。
慢性膵炎でのリスクは13.3倍、慢性膵炎の診断2年以内の膵癌症例を除いた場合でも5.8倍です。慢性膵炎の原因は男性では飲酒が最も多く、女性では原因不明の特発性が多くみられます。代償期には反復する上腹部痛、背部痛とともにアミラーゼなどの膵酵素が上昇します。移行期になると腹痛は軽減し、脂肪便など膵外分泌障害が出現します。非代償期には膵機能は著しく低下し、糖尿病や低栄養をきたします。超音波、CT、MRI検査では、膵臓の萎縮と膵内の石灰化、膵管の不均等な狭窄と拡張が特徴的とされます。 急性膵炎自体は膵癌リスクにはなりませんが繰り返す場合は慢性膵炎への移行に注意が必要です。

天井が回っているようなめまいは回転性めまい、ふわふわ浮いている、ゆらゆら揺れている気がするのは浮遊性、動揺性めまいです。回転性めまいの多くは内耳の平衡感覚を司る機能に異常が生じる内耳性めまいです。内耳の前庭にある耳石が剥がれて、三半規管に入り込むことで生じるめまいは良性発作性頭位めまい症(BPPV)と言われ、起き上がった瞬間や特定の方向を向くと激しいめまいと吐き気を生じます。数時間以上続き、耳鳴りや難聴を伴う場合はメニエール病、突発性難聴、聴神経鞘腫などの鑑別が必要になります。
動揺性めまいは脳そのものに異常がある場合も多く、激しい頭痛、物が二重に見える、呂律が回らない、手足の麻痺を伴う場合は脳腫瘍や脳梗塞などの脳血管障害を疑います。MRIの検査など緊急を要する場合もあります。平衡感覚を司る小脳の障害や動脈硬化などで脳の血流が低下する椎骨脳底動脈循環不全(VBI)などは回転性めまいの場合もあります。そのほか頸椎椎間板ヘルニアなどによる肩こりや頭重感を伴う頸性めまいやストレスによる心因性めまい、貧血、起立性低血圧、更年期障害などの前失神性めまい、薬物性のめまいなどもあります。

脂肪には胃や腸などの内臓周囲につく内臓脂肪と皮膚のすぐ下につく皮下脂肪があります。女性は女性ホルモン(エストロゲン)の作用で皮下脂肪がつきやすく、妊娠、出産に備えて子宮などを守り、妊娠継続のエネルギーとして利用されます。一方内臓脂肪は男性につきやすく、古くは狩猟などの活動エネルギーとして利用されたためでしょうか。よく内臓脂肪は普通預金で、皮下脂肪は定期預金に例えられるのはそのためです。女性も更年期以降は女性ホルモンが減少して内臓脂肪がつきやすくなります。内臓脂肪がたまって腹部がせり出すリンゴ型肥満、皮下脂肪は下腹部から太腿にたまるため洋ナシ型肥満と言われます。臍レベルの腹囲測定で男性85㎝以上、女性90㎝以上の場合は内臓脂肪型肥満を疑います。
ダイエットによる減量で内臓脂肪は減ります。さらに皮下脂肪も減らすにはジョギング、ウォーキング、水泳などの有酸素運動が有効です。脂肪の燃焼にかかる時間は運動開始後から20分以降です。腹筋やスクワットなどの筋トレ(無酸素運動)で筋肉量を増やし、基礎代謝を上げることも有効です。15分筋トレ+30分有酸素運動を週3回から始めましょう。

大腸憩室は、慢性の便秘などで腸管内圧が上昇し、大腸壁の一部が外側に袋状に突出した状態をいいます。頻度は40歳以下では10%以下ですが、50歳代では30%、70歳以上では50%と年齢とともに増加します。憩室内で細菌が繁殖すると憩室炎を発症します。男性に多く、肥満や喫煙がリスクとなります。腹痛や発熱、嘔気などが主な症状です。憩室が上行結腸の場合は右側腹部、S状結腸の場合は左下腹部が痛みます。40-60歳では70%が右側結腸ですが、高齢になるにつれて左側結腸の頻度が増加します。左側型憩室炎は再発例や重症例が多いと言われています。
憩室炎の多くは入院での安静、禁食、点滴と抗菌薬の投与で改善します。軽症では外来での抗菌薬内服で治療することも可能です。憩室炎時の食事は、初期にはスポーツドリンク・スープ・ゼリーなど、回復期には食物繊維や脂質が少ない、うどん・お粥・ヨーグルト・豆腐・魚・卵・よく加熱した野菜・缶詰の果物などです。また3割ほどが1年以内に再発するとも言われ、その予防には肉類(特に赤身肉)、脂質を控えめに、食物繊維の多い食事や水分摂取を心掛け、適度な運動で便秘にならないように注意しましょう。

以前は肝硬変では安静が推奨されましたが、最近では骨格筋量の減少(サルコペニア)を防ぎ、脂肪肝など肥満にならないために運動療法は有用と考えられています。ただしAST、ALT200以上の肝炎増悪時や、腹水、黄疸、肝性脳症など非代償性肝硬変の場合は安静が必要です。
健常人でも加齢に伴い、40歳以降では年1%程度筋肉量が減少します。また終日ベッドで寝たきりの状態では、筋肉量が1日約0.5%減少、筋力も1日0.3~4.2%減少します。一方肝硬変での筋肉量減少は年2.2%と倍以上です。筋肉は第2の肝臓と言われ、肝機能が低下し肝臓のエネルギー貯蔵量が低下すると、筋肉から分岐鎖アミノ酸(BCAA)などの蛋白質がエネルギー源として供給されます。またアンモニアなどの有害物質を処理する働きが低下すると、筋肉で有害物質を処理しますがその際もBCAAを多く消費します。肝硬変ではこの蛋白エネルギー低栄養によりサルコペニアが進行します。
サルコペニアの予防には適度な運動が必要です。食後2~3時間してから、会話が普通にできる、軽く汗をかく程度の歩行などの有酸素運動を、毎日30分くらいを目安に継続しましょう。歩行直後は30分ほど休養も必要です。

腎臓の働きは血液中の老廃物を糸球体でろ過して尿として排泄することです。1個の腎臓には約100万個の糸球体があり、1日100 L以上の血液をろ過します。健診でみかけるクレアチニン(Cre)や尿素窒素は老廃物の一種で、腎臓の働きが悪くなると血液中の数値が高くなります。またeGFR(推定糸球体濾過量)は糸球体の濾過能力を表すもので、Cre値と性別、年齢から計算されます。
健診ではさらに蛋白尿や尿潜血などの検尿を行います。蛋白質などの大きな物質や赤血球などは糸球体のふるいの目を通過しないため、基本的に尿には出てきません。しかしそのふるいの目が壊れると蛋白質などが尿中に認められるようになります。原因は糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、高血圧に伴う腎硬化症など様々です。病状の進行もまちまちですが、高度蛋白尿の人では15年で15%程度の人が透析を必要とする腎不全に至り、脳卒中や心疾患のリスクも2倍から8倍になります。
eGFRが60未満に低下し、蛋白尿が2+以上もしくは1+以上が3回以上続くときは慢性腎臓病の可能性があるため、早めに腎臓内科を受診することをお勧めします。尿潜血やむくみなどを伴う際はさらに要注意です。

ストレスなどで胃が刺激されると、その刺激は内臓痛として内臓求心性神経(交感神経)を介して脊髄後角という部分に入ります。そこから脊髄を上行して脳に伝わります。一方脊髄前角からは筋肉を動かす運動神経が出ます。刺激の一部が後角から近くの前角に伝わると、運動神経が腹筋を収縮させるため、みぞおちが硬く感じるのです。これが内臓-体性反射といわれる現象です。
また皮膚や筋肉など体表の痛み、腸間膜や壁側腹膜の知覚神経の痛みは体性痛と呼ばれます。体性痛も内臓痛と同じ脊髄後角に入り、1本の神経にまとめられて同じ経路で脊髄を上行し脳に送られます。その際に内臓の痛みとして送られた刺激を脳が誤って体表と痛みと錯覚してしまうことを関連痛といいます。少し離れた別の場所に皮膚の痛みとして感じてしまう事があります。心筋梗塞では左肩の痛みや顎や歯の痛み、膵炎・膵臓がんの左の肩こり、胆石・胆嚢炎では右の肩こりなどです。特に虫垂炎初期の心窩部痛は有名で、時間とともに右下腹部に移動し、腹膜炎を併発するとその痛みが内臓-体性反射により腹筋が硬直させて、お腹が硬くなります。これを筋性防御と言います。

禁煙20分後には血圧と脈拍が下がり、8時間後には血中の一酸化炭素が正常化します。24時間で心臓発作のリスクが低下します。数日後には味覚、嗅覚が改善します。2週間~3か月後で心臓や血管など循環機能が改善し、肌もきれいになります。1~9か月後のうちには咳や痰などの呼吸器症状が改善し、かぜやインフルエンザなどの感染症にかかりにくくなります。さらに1年たつと軽度・中等度の閉塞性肺疾患のある人でも肺機能が改善します。禁煙2-4年後には狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患のリスクが35%減少します。脳梗塞のリスクも明らかに減少します。10年後肺がん死亡率が喫煙者の半分になり、口腔・喉頭・食道・膵臓・膀胱・子宮頸がんになるリスクも低下します。15年後虚血性心疾患のリスクが非喫煙者と同じレベルになります。
また、20歳までに喫煙を始めると男性で8年、女性は10年寿命が縮むと言われています。たばこ1本で14.4分寿命が縮む計算です。35歳までに禁煙すれば喫煙前の余命を取り戻すことができます。50歳で禁煙しても6年、60歳なら3年寿命を延ばすことが可能です。いくつになっても禁煙が遅すぎることはありません。

アルコール依存症の患者数は100万人以上といわれ、その予備軍も含めると約600万人になると推定されます。一方実際に治療を受けている人は5万人ほどで、本人が病気を認めたがらない傾向にあります。そのためセルフチェックシートが有効で、日本を含め世界ではWHOが作成したチェックシート(AUDIT)がよく使われます。診療の場でも飲酒時の記憶がなくなる(ブラックアウト)、休日は昼から飲酒、迎え酒(連続飲酒)するなどは要注意です。依存症が疑われた場合、早い段階で専門医療機関に相談することが大切です。必要ならば入院にて解毒治療(離脱症状の治療)、個人精神療法や集団精神療法などのリハビリ治療、自助グループへの参加、抗酒薬の投与を行います。
また飲酒量を表す単位を「ドリンク」といい、純アルコール換算10gが1ドリンクです。1日平均6ドリンク(ビール1500ml、日本酒なら3合程度)以上の多量飲酒を続けると、10~20年でアルコール依存症になるといわれています(女性はその半分程度の飲酒量で)。まず週2日は飲まない日をつくる、1日平均2ドリンク(女性なら1ドリンク)以下という習慣を心掛けましょう。お酒は楽しく飲みたいものですね。

横隔膜にある食道が通る穴が食道裂孔で、穴から胃の一部が胸腔側に飛び出してしまうことを食道裂孔ヘルニアと言います。健診内視鏡で約10~30%に認められ、食道胃接合部(噴門部)が上に出てくる滑脱型が9割を占めます。原因は腹圧が上がり、胃が押し上げられるためで、肥満や妊娠、喫煙や気管支喘息による慢性的な咳などで腹圧は上がります。高齢女性では背骨の屈曲(亀背)でも生じますし、加齢で横隔膜が緩むと穴そのものが拡がり易くなります。
多くは無症状ですが、胃酸が食道に逆流し胸やけなどの症状が現れることもあります。制酸剤で改善しますが、胃酸の出過ぎを抑え、肥満を解消するため低脂肪食を心掛けましょう。食後すぐに横にならない、長時間の前かがみの姿勢を避ける、ベルトやコルセットで腹部を締め付け過ぎないことも大切です。

胃がんリスク検診(ABC検診)では血中ピロリIgG抗体とペプシノゲン(PG)を測定します。PGは胃液中に分泌される消化酵素ペプシンの素で、PGⅠとPGⅡに分けられます。PGⅠは胃体部の胃底腺領域に限局し、PGⅡは胃粘膜全域と十二指腸腺の広範囲に分布します。胃粘膜に炎症(胃炎)が起きるとPGはともに増加しますが特にPGⅡが上昇します。ピロリ菌感染で胃炎が持続すると胃粘膜は痩せていきます(萎縮)。胃粘膜が萎縮するとPGの分泌は低下しますが、萎縮により胃底腺領域が縮小していくため特にPGⅠが低下、相対的にPGⅠ/Ⅱ比も低下します。ペプシノゲン法はこの原理を利用して萎縮性胃炎の程度や胃がんのリスクの良い指標となります。ピロリ除菌後、胃切除後、プロトンポンプ阻害薬の服用、慢性腎不全ではうまく評価が出来ないこともあります。
基準値はPGI 70 ng/ml以下かつ PGI/II比3以下を陽性(+)、以下、PGI50以下かつ PGI/II比3以下を中等度陽性(2+)、PGI 30以下かつ PGI/II比2以下を強陽性(3+)と判定します。胃がん随伴率は強陽性2%、陽性1%、陰性では0.01%です。あくまで胃がんのリスクであって胃がんの診断ではありません。必要ならば必ず胃内視鏡検査を受けましょう。

機能性ディスペプシア(FD:Functional Dyspepsia)は、「内視鏡などで器質的な異常がないにも関わらず、①食後の胃のもたれ、②早期満腹感、③みぞおちの痛み、④みぞおちの焼ける感じなどの症状のうち少なくとも1つ以上を認め、症状が6カ月以上前からあり、3カ月以上持続している」とされ、健診受診者の11~17%、胃の症状で病院を受診した人の45~53%にFDの人がいると言われています。
症状により食後愁訴症候群(①②)と心窩部痛症候群(③④)の2つのタイプに分けられます。胃の排出機能の低下、胃酸分泌過多、知覚過敏により引き起こされ、その原因はストレスやアルコール、喫煙、不眠など生活習慣の乱れです。治療は生活習慣の改善、薬物治療として消化管運動機能改善薬と酸分泌抑制薬が第一選択で、抗不安薬や抗うつ薬、漢方薬がその次に推奨されます。ピロリ菌がいる場合は除菌をお勧めします。治療後数ヵ月以内に5人に1人が再発すると言われています。また25~50%に胃食道逆流症、過敏性腸症候群、慢性便秘などが合併し、なかには胆嚢や膵臓の病気が隠れている場合もあります。内視鏡の他にピロリ菌検査、必要に応じ血液検査や超音波検査、腹部CT検査等を行います。

胃がんの原因の98%がピロリ菌感染と言われ、その胃がんの発生率は10年間で約3 %です。除菌によりそのリスクが3分の1に減少すると言われていますがゼロにはなりません。
除菌後胃がんに関する調査では48%が除菌後3年以内に発見された胃がんで、34%は除菌後5年以降に発見されています。 多くは早期で悪性度の低い分化型腺癌ですが、5年後以降に発見された胃がんは悪性度の高い未分化癌が2割を占めました。そのため除菌後は年1回の内視鏡検査を最低でも5年継続して行うことが推奨されています。その間に異変や症状がなければその後は2年に一度など間隔をあける方もいます。しかし胃がん既往例、除菌時高齢、男性、胃潰瘍既往例、広範囲で高度の萎縮性胃炎(炎症で胃粘膜が薄くなる)、腸上皮化生(萎縮がさらに進行し胃粘膜が腸の粘膜のようになる)を認める場合は発がんリスクが高いため引き続き年1回の検査をお勧めします。
また除菌成功後は胃炎の発赤が軽快するため胃がんが見つけ易くなると思われましたが、除菌により胃がん自身も組織学的な影響を受けて不明瞭となり、かえって発見が難しくなる場合が約4割もあることがわかってきています。

肝(海綿状)血管腫は毛細血管が無数に絡み合ってできた腫瘍状の塊で、ちょうどスポンジ(海綿)のような構造で血液を多く含んでいます。原因は不明で先天的なものと考えられています。ほとんどが無症状で、健診で見つかることも多く、頻度は成人の4%ほどでやや女性に多いです。エコー検査では境界明瞭で均一な高エコー(周囲より白い)結節として認められます。悪性腫瘍と違い短期間ではほとんど増大しないため、初めて指摘された際は3か月後の再検査で変化がないことを確認します。一方多発するものやモザイク状に不均一なもの、4㎝以上の大きいものは肝細胞癌や転移性腫瘍との鑑別のためCTやMRIなどで確定診断を行います。
良性の腫瘍であり治療は不要ですが、緩やかに増大するものもあるので年1回エコー検査などでの経過観察をお勧めします。5㎝を超えると症状が出やすくなり、腹痛を伴うもの、急速な増大傾向のあるもの、巨大な血管腫内で血栓症を引き起こして消費性血液凝固異常を来たす場合(カサバッハ・メリット症候群)などでは肝切除の対象となります。通常出血することは稀ですが10㎝を超えると腹腔内出血などの頻度が高くなります。

赤色便;鮮紅色の血便は肛門近くからの出血で多くは痔核、裂肛などですが、直腸がんの可能性もあります。粘血便は炎症を伴う出血性大腸炎や潰瘍性大腸炎を疑います。濃紫色の血便は大腸の比較的奥からの出血で、大腸がんのほか、虚血性大腸炎、大腸憩室からの出血などです。
黒色便;主に食道・胃・小腸からの出血で、1000mlを超える出血では強烈な血生臭いにおいで、光沢がありコールタールに似ているため、タール便ともいいます。血液中の鉄分が胃酸などで酸化されて黒色となります。主な病気は胃・十二指腸潰瘍、胃がん、食道がんなどです。鉄剤の内服や海苔の過剰摂取、イカスミ料理以外でも、便秘や肉類の摂りすぎは腸内の悪玉菌を増加させ、便の色が濃褐色となることがあります。脳梗塞や心筋梗塞の再発予防で低用量アスピリンを、疼痛で消炎鎮痛薬を投与された場合は胃・十二指腸潰瘍の発症に伴う黒色便に注意が必要です。
灰白色便;本来の便の色(黄土色~こげ茶色)は胆汁によるものです。胆汁の通り道である胆管が詰まったり(胆石や胆管がんなどによる閉塞性黄疸)、肝炎などで肝臓の働きが悪くなると白っぽい便になります。

内視鏡検査時に組織を採取して行う、鏡検法、培養法、迅速ウレアーゼ試験もありますが、人間ドックや胃がんリスク検診(ABC検診)では血中ピロリ抗体測定を行います。
またピロリ菌はウレアーゼという酵素で胃内の尿素を分解して、アンモニアと二酸化炭素(CO2)を生成します。尿素呼気試験では放射活性のない炭素元素13Cでしるしをつけた検査薬(13C-尿素)を服用し、胃内でウレアーゼにより分解された13CO2が呼気中に放出されることでピロリ菌を検出します。便中抗原法はピロリ菌由来抗原を検出する検査法で、ともに特異度が高いため除菌判定にも用いられます。
2017年4月より抗体検査の基準が変わりました。抗体価10以上が陽性とされていましたが、10未満特に3~10の陰性高値例に2割弱の感染者がいることがわかりました。そのため抗体価3未満を陰性、3以上が陽性となりました。陽性時はまず内視鏡検査を受けてください。萎縮性胃炎がない場合は偽陽性、萎縮があっても炎症所見がない場合は既感染(過去に感染があった、もしくは除菌後)の可能性があります。その際は別の検査法で再検します。また以前に抗体検査を受けた方は抗体価の確認をお勧めします。

10万に1人程度と稀な疾患ですが食道アカラシアがあります。下部食道括約筋(LES;レス)は普段は収縮して胃の内容物が食道に逆流するのを防ぎます。食道に食べ物が入ると蠕動運動で運ばれ、食道下縁に到達するとレスが弛緩して胃内に送られます。原因は不明ですが食道筋層内神経叢の神経細胞が変性・減少してしまい、食道の蠕動障害やレスの弛緩不全が起きて食道運動が障害されるのが食道アカラシアです。20~60歳に多く、症状は潜行性で数か月から数年で徐々に進行し、液体の通過も障害されます。
内視鏡検査では食道内の食物残渣貯留や食道拡張などの所見がありますが軽症例では診断が困難なことも多く、食道造影やCT検査なども併用します。確定診断には食道内圧検査を行います。治療はカルシウム拮抗薬などの薬物療法もありますが効果は限定的で、一般的には内視鏡的バルーン拡張術を行います。最近では経口内視鏡的筋層切開術(POEM(ポエム):Per-Oral Endoscopic Myotomy)が2016年4月から保険適応となり、有用性が高く評価されています。食道内圧検査やPOEMが可能な施設は限られています。まずは内視鏡検査を受けて食道がんや逆流性食道炎などを除外することが必要です。

肝嚢胞は肝臓内に袋状に液体が貯留した良性疾患です。中高年の女性に多く、人間ドックの腹部エコー検査で約10人に1人の頻度でみられます。多くは先天性で、胎生期に肝臓が作られる過程で取り残された胆管が拡張したものと考えられています。ほとんどは数cm以下のもので1~2年毎の経過観察となります。なかには10㎝以上となり周囲の臓器を圧迫して膨満感や鈍痛の原因となったり、嚢胞の内部にポリープや腫瘍が出現した際は治療の対象となります。腫瘍の場合は肝臓を含め病変を切除します。良性であれば経皮的に嚢胞に針を穿刺して内容液を排液し、さらに無水エタノールやミノサイクリン等の薬剤を注入して再発を予防します。大きな嚢胞に対しては腹腔鏡下肝嚢胞開窓術などが行われます。
肝嚢胞を複数個認めることは珍しくありませんが、20個以上多発する場合は多発性肝嚢胞を疑います。また多発性肝嚢胞の30~50%に多発性腎嚢胞を合併します。常染色体優性多発腎嚢胞は遺伝子の異常で起こる病気です。将来的に腎不全となったり、脳動脈瘤の合併率も高いと言われています。多発する肝嚢胞、腎嚢胞を認めた場合は一度専門医を受診しましょう。

感染者の口腔内や糞便中にピロリ菌のDNAが検出されます。その糞便で汚染された井戸水などの飲料水や食べ物からの糞口感染や、ハエ、ゴキブリが媒介するとの報告もあります。井戸水を飲用していた地域で感染率が高いことや、実際に井戸水にピロリ菌のDNAが検出されたなどの報告があります。一方河川や井戸水からピロリ菌の培養に成功しておらず、未だ自然界のどこにいるのかは不明です。胃内で元気に泳ぎ回るピロリ菌も胃外の悪条件下ではコッコイドフォーム(球状菌)へ変化するため見つけ出すことが難しくなるのです。
井戸水も煮沸することをお勧めしますが、上下水道などインフラが整備された現在、問題となるのは家族内での口から口への感染です。免疫が未熟な5歳までにピロリ菌感染が成立します。母子感染が70~80%と多く、母親が離乳食のときに移してしまうことが多いようです。最近自治体で中学生などを対象に尿中抗体検査によるスクリーニングが行われるようになりました。偽陽性もあるため確定には尿素呼気試験を行います。適応疾患を有する小児の除菌対象年齢は5歳以上ですが、無症状の小児には保険適応となる高校生以上でとの意見もあります。

善玉菌であるビフィズス菌、乳酸菌などを摂取するには植物性由来の乳酸菌(納豆、味噌、漬物、キムチなど)と動物性由来の乳酸菌(ヨーグルト、チーズなど)があります。
善玉菌を増やすのは水溶性食物繊維とオリゴ糖です。水溶性食物繊維は野菜類(らっきょう、ごぼう、にんじん、オクラ、ブロッコリー、ほうれん草、アボカド)、豆類(納豆)、いも類(さといも、こんにゃく)、海藻・きのこ類、果物、ドライフルーツ(プルーンなど)などです。不溶性食物繊維(玄米、さつまいもなど)も便の量を増やし腸の動きを活発にしてくれますからバランス良く摂取しましょう。オリゴ糖は野菜類(玉ねぎ、ごぼう、ねぎ、にんにく、アスパラガス、とうもろこし)、果物(バナナ)、大豆、はちみつに多く含まれています。
仰向けでおへその上から両手で「の」の字を書くようにゆっくりマッサージすると腸のぜん動運動を促します。また腸の背中側にある腸腰筋というインナーマッスルを動かすと、腸が刺激されてぜん動運動を促し、腹圧を高めて便を押し出しやすくします。腸腰筋を鍛えるにはできるだけ階段を使い、速歩で大股で歩くなどを心掛けてみてください。

食後2時間(多くは30分)以内の即時型食物アレルギーの症状は痒み、蕁麻疹の他、嘔気、腹痛、鼻汁、咳やアナフィラキシーなど多彩です。新生児では原因の7割が鶏卵、牛乳、小麦で、特に鶏卵は4割近くを占めます。そばは4歳頃から、7歳以降は甲殻類が多くなります。卵、牛乳、小麦、エビ、カニ、落花生、そばは特定原材料7品目として表示が義務づけられています。3歳頃までに約5割、小学校入学頃までに8〜9割が治りますが、成人では甲殻類、魚類、果物が多く、落花生やそば同様に治りにくいと言われています。
血中抗原特異的IgE抗体や皮膚プリックテストは補助的な検査です。食物が絞り込めれば1~2週間食物除去試験を行い症状の改善をみます。確定診断は実際に食物を摂取する食物経口負荷試験ですが、重篤化の危険もあり必ず十分な設備の整った病院で行います。
食物アレルギーの治療薬はないため対策の基本は原因食物の除去です。ただし食物除去は必要最小限とし、症状が出ない量まで食べ進めることで除去解除の時期を早めるという報告もあります。経口免疫法は少量ずつ摂取して体を慣れさせていく治療ですが必ず専門の医療機関で受けましょう。

急に尿意を催す尿意切迫感や尿漏れ(切迫性尿失禁)が週に1回以上、1日8回以上の頻尿、夜1回以上の夜間頻尿がある人は過活動膀胱の疑いがあります。40歳以上の8人に1人がこれらの症状を有しており、その患者数は800万人以上と推定されています。その半数に切迫性尿失禁を伴いますが、頻尿のみで尿意切迫感の症状がなければ過活動膀胱の可能性が低いと考えます。思い当たる人は泌尿器科を受診し、腹部エコー検査で他疾患の除外や尿残量を測定したり、尿流量測定(ウロフロメトリー)や膀胱内圧測定等の精密検査を受けてみてください。
治療は膀胱の過剰な収縮を抑えたり、尿道を拡げ易くする抗コリン薬、β3受容体作動薬等の薬物療法が主体です。尿意を我慢して少しずつ排尿の間隔をあける膀胱訓練や尿道を引き締める力を鍛える骨盤底筋体操、少し特殊ですが電気や磁気の刺激で骨盤底筋の収縮力を強化したり、膀胱や尿道の神経の働きを調整する磁気刺激療法や仙骨神経刺激療法もあります。また普段から運動を心掛け、下半身の冷えや便秘を改善しましょう。過度の水分摂取やアルコール、お茶やコーヒーなどのカフェイン類は控えましょう。

喫煙は肺、口腔・咽頭、喉頭、食道、胃、肝臓、膵臓、膀胱および子宮頸部のがんとの関連が明らかになっています。飲酒は口腔・咽頭、喉頭、食道、大腸、肝臓、乳房の発がんリスクを上げると報告されています。男性では時々飲む人と比べ1日平均アルコール
量69g以上飲む人は1.6倍とリスクが高くなります(アルコール量23gは日本酒1合、ビール大瓶1本、ワインでグラス2杯程度)。特に喫煙者が飲酒をすると食道がんやがん全体のリスクはさらに上がり、1日3合以上飲む人ではがん全体のリスクが2.3倍となります。口腔・咽頭がんのリスクも4.1倍と高く、食道がんに併発することもしばしばです。
アルコールは体内でアセトアルデヒドに代謝され、それにより顔が赤くなります。アセトアルデヒドは食道がんの原因と考えられています。アセトアルデヒドは2型アルデヒド脱水素酵素により分解されますが、この酵素の働きが弱い少量の飲酒で赤くなる人(日本人の4割)は要注意です。少量飲酒でも健常人と比して8.8倍の食道がんのリスクがあり、1日3合以上飲酒した場合114倍のリスクがあるとの報告もあります。まずは禁煙と1日アルコール量23g以内を心掛けましょう。

ウコンに含まれるクルクミンは肝機能の働きを助ける効果があり、インドではターメリックとして香辛料に、中国でも古くから漢方薬として用いられています。多くの人にはプラスに働くウコンですが、過剰摂取や長期連用で肝機能障害が出現する方がいます。サプリメントなどによる薬物性肝障害の4分の1がウコンによるものとも言われています。原因としてウコンに含まれる鉄分の過剰摂取が考えられており、慢性肝炎、肝硬変や脂肪肝など肝臓の働きが低下した人に起きやすいと言われています。またウコンそのものに対するアレルギーにより肝機能障害が起き、まれですが劇症肝炎で亡くなった方もいます。
副作用が少ないと思われがちな漢方薬ですが、お腹の脂肪燃焼をうたった防風通聖散(薬局で色々な名前で売られています)に含まれる黄芩(おうごん)も肝機能障害の原因となります。また多くの漢方薬に含まれている甘草も偽性アルドステロン症による低カリウム血症を引き起こし、脱力感や筋力低下の原因となります。一般の薬に限らず、サプリメントでも副作用は起こり得ます。体調に変化があった時は早めに病院に相談しましょう。

現在でも内視鏡の通称として胃カメラと呼ぶことがありますが本来は別のものです。胃カメラは1950年に日本で発明されました。管の先端に豆電球と6㎜幅の白黒フィルムを装填した小型カメラを胃の中に挿入して写真撮影し、後に現像して診断するものでした。その発想は画期的なものでしたが、管も太く、時間もかかるため患者さんの負担も大きい検査でした。
60年代に入り屈曲していても光が届く光ファイバーの性質を利用した内視鏡「ファイバースコープ」が開発されます。これにより胃の中をリアルタイムで観察することが可能になりましたが、観察できるのはファインダーを覗き込む医師一人だけでした。そして80年代内視鏡の先端にCCDを搭載した現在の内視鏡「ビデオスコープ」が登場します。モニターで複数の医師が同時に画像を見ることが可能となり、複雑な連携操作を要する内視鏡治療も発展しました。ハイビジョン化により診断精度も上がり、スコープもスリム化し経鼻内視鏡も登場しました。今も胃カメラの名称を用いるのも先人たちへの敬意の表れでしょうか。私自身も内視鏡の開発に尽力された﨑田隆夫先生に憧れて筑波大学に進学したことを思い出しました。

血液の80%は水分です。水分不足で血液がドロドロになると脳梗塞や心筋梗塞の原因になります。そのため食事の水分を除いて少なくとも1日1~1.5ℓの水分補給が必要です。過剰に摂取しても余分な水分は腎臓から尿として排泄されます。
また腎臓は体内の塩分(ナトリウム)濃度が一定になるよう調節しています。血液の塩分濃度が濃くなると、それを薄めるために水分が取り込まれ血液量が増えます。塩分の摂り過ぎ以外でも、動脈硬化などで腎臓の血流が悪くなると腎臓は血流を増やすため腎臓からレニンという酵素を放出し、血中のアンジオテンシンや副腎のアルドステロンを活性化して血管を収縮させ、ナトリウムの再吸収を促します。血管の収縮(血管抵抗の増大)、塩分や水分の増加(血液量の増加)により血圧が高くなるのです。高血圧患者の30%が腎障害を合併していると言われています。
高血圧の方の塩分摂取目標量は1日6g未満です。また血管を拡げるカルシウム拮抗薬、アンジオテンシンⅡを抑制するレニン・アンジオテンシン系阻害薬、尿の出を良くして塩分や水分を減らして血圧を下げる利尿薬などをうまく組み合わせて血圧をコントロールします。

脳梗塞、心筋梗塞後に抗血小板薬(バイアスピリン、プラビックスなど)や抗凝固薬(ワルファリン、プラザキサ、イグザレルトなど)が開始されます。内視鏡検査時はそれらを休薬して検査を行っていました。しかしアスピリンの休薬は心血管障害、脳梗塞の再発の危険性が約3倍に増加し、ワルファリンの休薬は100回につき1回の割合で血栓塞栓症を発症し、一度発症すると重篤なことが多く問題となりました。
そこで2012年日本消化器内視鏡学会からガイドラインが示されました。通常の内視鏡検査では出血の危険性が低いため休薬は不要となりました。組織検査においても抗血小板薬1剤のみ内服では生検による出血の危険性が高くならないとされ、ワルファリン内服中の場合も治療域にコントロールされていれば生検は可能とされました。多剤服用している場合や、ポリペクトミー、内視鏡的粘膜切除術を施行する場合は病変の大きさや、休薬による血栓塞栓症の高危険群(心源性脳梗塞の既往、弁膜症を伴う心房細動など)と言った患者さんの病状に応じ慎重に対処するようにとされました。休薬期間の調整やヘパリンなど他の抗凝固薬への置換などが考慮されます。

大腸ポリープの8割は腺種といわれる良性の腫瘍です。50代の3割以上に腺腫が認められており、5mm未満のものがほとんどですが、10mm以上の大きさになると約20%、20mm以上になると約50%の頻度でがん化のリスクがあると言われています。
大腸ポリープの内視鏡治療を受けた場合、欧米では治療された腫瘍の種類や数によって次の検査間隔が決まっています。例えば米国では、10㎜未満の腺腫が1~2個のみであれば5~10年後、10㎜以上の腺腫もしくは数が3~10個であれば3年後、といった具合です。一方日本ではそのように明確な基準はなく、日本消化器病学会のガイドラインでは、ポリープ(腺腫)の治療後は概ね3年以内の大腸内視鏡による経過観察が提案されています。現在Japan polyp studyという研究が進行中で、見つかった腺腫の大きさが5-6㎜以上ではその後の腺腫の発生率が高くなるようです。やはり5㎜以上の腺腫を治療した場合でも2-3年後で内視鏡検査をするのが望ましい気がします。また一般的には比較的大きなポリープや、一部がん化を伴うポリープが見つかり治療をした場合は、半年から1年程度経過してから再度内視鏡検査をすべきだとも考えられています。

一生のうち男性の11人に1人、女性は26人に1人が尿路結石を発症し、その再発も5年以内で40%と言われています。
結石の8割を占めるシュウ酸カルシウム結石は体脂肪の高い人に多いので、過度の脂肪摂取や就寝前の食事は控えましょう。シュウ酸を多く含む食べ物(ホウレンソウ、小松菜、チョコレート、ナッツなど)や、ビタミンCも体内で代謝されてシュウ酸を作るので摂り過ぎないようにしてください。十分な水分補給(2ℓ程度)も大切です。ただし煎茶、コーヒー、紅茶などはシュウ酸の含有量が多く、甘い清涼飲料水は尿中へのカルシウム排泄量を増やすため飲み過ぎは禁物です。塩分を控えて、野菜等でカリウムを摂取すると尿中カルシウム濃度が下がります。以前は牛乳等のカルシウム摂取を制限していましたが、実は摂取したカルシウムが腸管内でシュウ酸と結合して便として排泄されることで尿へのシュウ酸の排泄を減らすことがわかってきました。
また繰り返す尿路結石で高カルシウム血症を伴う場合は副甲状腺機能亢進症を疑います。女性に多く、50歳以上の女性の1000人に1人程度の頻度と言われており、副甲状腺ホルモンの測定が有用です。

潰瘍性大腸炎は大腸粘膜に炎症が持続することで下痢や血便を繰り返す疾患です。好発年齢は20代ですが、40代以降でも多くの人が発症します。原因は解明されておらず、治療も完治ではなく薬物療法などで症状がない状態(寛解)を目指します。病状の経過により初回発作のみの初回発作型(20%)、再燃を繰り返す再発寛解型(50~70%)、症状が持続する慢性持続型(15%)に分けられ、多くが再燃と寛解を繰り返します。一方で初回発作時に全大腸炎型(炎症が大腸全体に及ぶ)でないものや軽症・中等症例では経年的に活動性が著しく低下し、軽症例の約半数は5~6年後に活動性がなくなっているという報告があります。
ただし下痢や血便などの症状が治まっても、約半数の患者さんは大腸の粘膜に炎症が残っています。粘膜治癒(粘膜の炎症がない状態)に至っていない場合、粘膜治癒の人に比べて再燃しやすく、発癌リスクも高くなります。治療をきちんと続けて、粘膜治癒を目指すことが大切です。大腸癌の累積発生率も発症後10年で1.6%、20年で8.3%、30年で18.4%です。たとえ症状がなくてもやはり定期的な大腸内視鏡検査は必要です。

1994年にWHO(世界保健機関)は、ピロリ菌を「確実な発がん因子」と認定しました。胃がん患者の99%にピロリ菌感染を認めており、ピロリ菌に感染していると年間0.4%の確率で胃がんになると統計的に予測されています。一見少ないように思えますが、20年もすると1割近くに胃がんが発症することになります。ピロリ菌には「CagA」という遺伝子を持つ非常に毒性の強い種類があります。欧米人ではその割合が2割ほどなのに対し、日本人では9割以上、中でも胃がんを引き起こしやすい東アジア株が大半を占めています。そのため世界の胃がんの発症頻度は1位が日本、2位が韓国、3位が中国です。
しかし除菌治療をすることで発がんのリスクを3分の1程度まで減らすことが可能で、若い年齢での除菌ほどその効果が期待できます。現在10代のピロリ菌感染率は10%未満にまで低下していますが、その中の約5%にスキルス胃がんなどの若年性胃がん、未分化型胃がんの発生母地となる鳥肌胃炎がすでに認められたとの報告もあります。そのため中学生での尿中ピロリ抗体を用いたスクリーニングに取り組む自治体も増えています。将来の胃がん撲滅を目指してです。

1次除菌ではプロトンポンプ阻害薬、アモキシシリン(ペニシリン系抗生剤)、クラリスロマイシンの3剤を7日間内服します。その除菌率は当初90%以上でしたが、クラリスロマイシン耐性菌が増加したため現在70~80%にまで低下しています。除菌不成功の場合、クラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更して2次除菌を行います。2次除菌の除菌率は90%以上と良好です。
それでも除菌できなかった人には3次除菌を考慮します。3次除菌は未だ最適な薬剤の組み合わせが確定しておらず、多施設から様々な組み合わせが報告されています。ニューキノロン系抗生剤であるシタフロキサシンを用いた組み合わせが有効であるとの報告が多いようです。そのため1次2次除菌は保険診療ですが、3次除菌は現在のところ自費診療であり全額自己負担となります。また施行している医療機関も限られます。
日本ヘリコバクター学会HPでは同学会認定医・所属施設の検索が可能です。3次除菌を行っている施設もありますので参考にしてください。またペニシリンアレルギーのため除菌が出来ない場合もペニシリンなしでの自費除菌は可能ですので相談してみてください。

2016年における大腸がんの死亡数は50,099人と、男性では肺がん、胃がんに次いで3位、女性では1位、全体では肺がんに次いで2位です。2020年には男女ともに1位になると予想されています。生涯で大腸がんに罹患する確率は男性で11人に1人、女性では14人に1人となりそのうちの3割ほどが大腸がんで亡くなっているということです。
食事の欧米化に伴いとよく言われますが、大腸がんのスクリーニングにいち早く取り組んだ欧米では大腸がんの死亡率はすでに低下傾向にあります。ではなぜ日本は増加傾向にあるのでしょうか。大腸がんの5年生存率は71.1%と悪くありません。ステージ別でも他臓器に転移のあるステージⅣの場合19.6%と予後不良ですが、ステージⅠ、Ⅱでは98.9%、91.6%と早期に発見すれば十分に治癒可能です。
大腸がん検診において過去1年間に検診受診なしの人と比べ、検診受診ありの人では大腸がんによる死亡率が約70%低下したとの報告があります。しかしその受診率は4割程度に留まります。積極的に検診を活用しましょう。また大腸がんは40歳代から認められ60歳以降増加します。40歳を過ぎたら一度は大腸内視鏡検査を受けることもお勧めします。

体内に異物が侵入するとそれを排除しようとする働きが免疫反応です。それが過剰に反応することでアレルギー症状が出現します。その原因となる物質をアレルゲンと言います。そのアレルゲンに対して作られるのが特異的IgE抗体です。IgE抗体は皮膚や粘膜の下にいるマスト細胞の表面にくっつきます。アレルゲンが侵入しIgE抗体に結合するとマスト細胞からヒスタミンなどが放出されてアレルギー反応を引き起こします。
アレルゲンは花粉、食物、ダニ、カビ、ハウスダスト、動物の皮屑など様々です。花粉症も原因となる花粉は時期によって異なります。スギは2~4月ですが、ヒノキは3~5月頃まで、カモガヤは4~11月、ブタクサは7~11月頃まで続きます。どの花粉がアレルゲンなのかを知ることは大切です。
検査法としてはアレルゲンエキスを皮膚に滴下し、針で小さな傷をつけてその反応をみる皮膚テストなどもありますが、血液検査で特異的IgE抗体を測定することでアレルゲンを特定することが出来ます。現在200種類以上のアレルゲンを調べることが可能ですが、保険診療で調べられるのは1回13項目まで、マルチアレルゲンセットでは30項目以上となります。

尿検査は慢性腎臓病(CKD)を見つけ出すための検査です。CKDは慢性的に腎臓の働きが低下する病態で、実は1330万人の患者さんがいると考えられています。初期は症状がないため、尿蛋白が早期発見に有効です。腎臓にある糸球体で血液の老廃物をろ過し、尿中に排泄します。体に必要な蛋白質は通常尿中には出てこないのですが、糸球体などが障害されると尿中に出現します。慢性糸球体腎炎の他、高血圧症や肥満よる腎硬化症、糖尿病性腎症、膠原病などが原因となります。進行すると赤血球まで漏れ出し尿潜血まで陽性となります。尿潜血陽性を伴う、蛋白尿が2+以上、むくみやだるさなどの自覚症状がある、高血圧や糖尿病を伴う場合は腎臓内科など専門医を受診してください。
ただ蛋白尿がすべて問題ではありません。激しい運動や発熱により蛋白尿が出現する機能性蛋白尿や、長時間の立ち姿勢により起きる起立性蛋白尿などは生理的蛋白尿と言って病的なものではありません。起床後すぐの早朝尿で蛋白陰性になることで鑑別が可能です。少なくとも3回ほど繰り返し検査を行い蛋白尿が陽性ならば精密検査が必要です。

胃ポリープの多くは胃底腺ポリープもしくは過形成ポリープです。胃底腺ポリープは多発しても5mm未満のものが多く癌化することはありません。胃癌と関連するピロリ菌の感染がない正常粘膜にできることが多く、このポリープがある人は胃癌そのもののリスクが低いと言えます。過形成ポリープはピロリ菌感染を伴う萎縮性胃炎などを背景に出現します。赤みが強く大きいものは1~2cmになることもありますが担癌率は1%程度です。2cm以上のものや出血のあるものは内視鏡的に切除をします。ピロリ菌を除菌するとポリープが消失することもあります。他にも早期胃癌や前癌病変である腺腫などもあるので一度は内視鏡検査を受けましょう。
大腸ポリープは腺腫が多く、60歳以上では半数に認められます。5mm以下では担癌率0.46%ですが6~9mmで3.3%、10mm以上では28.2%と高くなるため、5mmを超えるものが切除の対象となります。直腸などにできる5mm未満の過形成ポリープは癌化のリスクは低いのですが、右側大腸(盲腸側)の過形成ポリープのなかには鋸歯状腺腫と鑑別が困難なポリープがあり10mm以上のものは腺腫と同様癌化のリスクが高いと考え切除の対象となります。

クローン病は潰瘍性大腸炎とともに炎症性腸疾患と呼ばれ、小腸や大腸などの消化管に炎症が起きてびらんや潰瘍などが生じる疾患です。遺伝的要因や腸管での異常な免疫反応が原因と考えられていますが十分に解明されていません。
クローン病は10~20歳代の若年者に好発し、男女比は2:1と男性に多い疾患です。症状は様々ですが下痢、腹痛が多く、特に好発部位である回盲部(小腸と大腸の境目付近)に一致した右下腹部痛です。また発熱、体重減少、貧血などの他、痔瘻や肛門周囲膿瘍などの肛門病変を伴うこともしばしばです。炎症が進行すると腸管の狭窄や腹腔内に膿が溜まることがあり、手術が必要となることもあります。手術率は10年で70.8%と高率でしたが最近では抗サイトカイン療法(抗TNF-α抗体)の早期導入により炎症が劇的に改善し寛解導入が容易となりました。しかし病気が完治するわけではなく、食事療法や薬物療法を継続し一生付き合っていかなければなりません。まずは内視鏡検査や病理診断などの検査を行い確定診断がされたならば、病気をよく理解し主治医とともに病気と向き合ってください。決して恐ろしい病気ではありません。

ベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌はO157の他O26、O111やO128などがありますが、O157が原因菌の7割を占めます。潜伏期は3~8日と一般食中毒に比べ長めで、無症状や軽い下痢の場合もありますが、半数以上に頻回の水様便、腹痛、嘔吐が生じ、典型的な出血性腸炎では激しい腹痛と血便が生じます。ベロ毒素は青酸カリの5000倍の毒性を持つと言われており、その毒素が大腸をただれさせ、血管壁を破壊するため血便や激しい腹痛を引き起こします。さらに赤血球や血小板を破壊しながら全身を巡り、腎臓の尿細管細胞を破壊することで、溶血性尿毒症症候群(HUS)や急性脳症などの重篤な合併症を引き起こし死に至る事もあります。
HUSは初発症状の数日から2週間以内(多くは5-7日後)に有症者の6-7%に合併し、溶血性貧血、血小板減少、急性腎不全を3主徴とします。 HUS発症者の致死率は1-5%と言われ、特に抵抗力が弱い乳幼児や高齢者は重症化しやすいので注意が必要です。感染力が強く100個程度の少ない菌量でも感染すると言われるO157も、熱には弱く75℃以上1分以上の加熱で死滅します。また調理器具の十分な洗浄消毒と日頃からの手洗い習慣も大切です。

食品の保存技術や流通システムが発達し、また衛生管理も厳しくなり食中毒のリスクは減っているはずです。半面鮮度がよくなったことで気軽に生食されるようになったユッケ、レバ刺などは腸管出血性大腸菌O-157の集団食中毒の原因となり現在では禁止になっています。鶏ささ身のたたきなども専門店で扱われていてもカンピロバクター腸炎のリスクは完全になくなりません。また流通が拡がると予想以上の広範囲での感染が引き起こされることもしばしばです。
医療機関も出血性腸炎や重症の胃腸炎の患者さんに対して積極的に細菌やウイルスの検査をするようになりました。ノロウイルスは迅速検査キットですぐ判定できます。ただし保険で検査が可能なのは3歳未満、65歳以上、癌の患者さんなど重症化しやすい人が対象となりますので誰にでもというわけではありません。
O-157では感染後治癒後数日で溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症し致命的となることや、カンピロバクター感染の数週間後まれではありますがギランバレー症候群を発症することもあり油断できません。是非ニュースから感染症を理解し、食中毒の適切な予防法を身に着けてください。これからノロウイルスの季節です。

寒い冬の時期だけでなく、夏場の冷房による冷えで腹痛、胃痛、下痢を起こす人も多いと思います。体が冷えると交感神経優位となり胃腸の働きは抑制されます。また熱を逃さないように血管が収縮し胃腸の血流も悪くなります。
薄着は避け、必要ならば腹巻やカイロでお腹を温めて下さい。38~40℃程の湯船でゆっくり入浴しましょう。水分摂取は冷たいものは控えて常温や白湯など温かくして摂取しましょう(コーヒー、緑茶は体を冷やすためほうじ茶、紅茶が望ましい)。
きゅうり、トマト等の夏野菜、スイカ、パイナップル、バナナ等の暖かい地方の果物は体を冷やします。一方玉ねぎ、にんじん、カボチャ、ニンニク、ショウガ等の根菜類、ごま、ナッツ等ビタミンEを含むもの、りんご、もも、ぶどう等の果物は体を温めます。内臓脂肪が増えると冷え易いため、鶏肉、羊肉等の肉類、納豆、豆腐等の大豆類でタンパク質を摂取し、適度な運動で筋力アップとストレス発散を。質の良い睡眠は副交感神経優位となり胃腸の血流も改善します。安中散や大建中湯など胃腸を温める漢方を使用することもありますが、あまり改善しない時は医療機関を受診して下さい。

遺伝性がんには遺伝性乳がん・卵巣がん症候群、遺伝性非ポリポージス大腸がん、家族性大腸腺腫症等があります。また発癌のリスクとなる感染症として胃がんにおけるヘリコバクター・ピロリ菌除菌、肝がんにおけるB型・C型肝炎ウイルスの経口抗ウイルス薬治療、子宮頸がんにおけるヒトパピローマウイルスワクチン接種などで発癌リスクを減らす取り組みが行われています。
環境要因として喫煙は肺がんだけでなく、食道がん、膵臓がん、胃がん、大腸がん、膀胱がん、乳がんのリスクに、飲酒は男性では食道がん、大腸がん、女性では乳がんのリスクとなります。また塩分の摂りすぎは胃がん、ソーセージ等加工肉の摂取は大腸がんのリスクを高めます。
一方活発な運動は男性では大腸がん、女性では胃がんのリスクを減らします。肥満は大腸がん、閉経後乳がん、子宮体部がん、腎臓がん、膵臓がんのリスクを高めます。国立がん研究センターの研究報告では禁煙、肥満予防(BMI値男性21~27、女性21~25を目安)の適度な運動やバランスのとれた食事、減塩、節酒といった健康習慣を実践することで、男性で43%、女性で37%発癌のリスクが低下すると言われています。

便秘と下痢が交互に繰り返される状態を交代性便通異常といい、過敏性腸症候群の一つに挙げられます。その他にも下痢型、便秘型、粘液分泌型、ガス産出型等があります。下痢型は男性に多く便秘型は女性に多いと言われています。下痢型には腸管のセロトニン受容体を遮断して腸管の動きを抑制するラモセトロン塩酸塩(イリボー®)が効果的です。便秘型では腸管のグアニル酸シクラーゼC受容体を刺激して腸管内への水分の分泌を促すことで便秘を改善させるリナクロチド(リンゼス®)が最近発売となりました。
交代性便通異常の便秘は腸管蠕動(ぜんどう)の過剰な緊張で腸管の圧力が高まって起きる痙攣性便秘で、腹痛を伴い、兎糞(とふん)状の便が特徴です。刺激性下剤はもちろん便を柔らかくする緩下剤でも腹痛が悪化することがあります。そのため消化管機能調整剤や漢方薬等を使用しますが、便秘による腹痛を軽減させる効果をもつリナクロチドも期待されています。また食生活の改善や腸内環境の整備、ストレスの軽減も大切です。大腸がん等で通過障害が起きると便秘と下痢が繰り返されることがあります。症状が改善しない時は早めに大腸の検査を受けましょう。

アルコールは肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)によりアセトアルデヒドに分解されます。このアセトアルデヒドが、顔が赤くなったり、二日酔いの原因となります。アセトアルデヒドは2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)により酢酸となり無害化されます。この酵素の代謝速度が速い人はお酒が強いというわけですが、日本人の4割弱は代謝速度が遅いお酒に弱い人たちで、5%以上が酵素の働かないお酒の飲めない人です。
ウコンにはポリフェノールの1種であるクルクミンが豊富に含まれています。クルクミンはゴマのセサミン、しじみのタウリンやオルニチン、果物の果糖などとともにアセトアルデヒドの分解を促進すると言われています。しかしアルコールを過剰に摂取しては意味がありません。一般に男性で1日20g(ビール500ml、日本酒1合など)女性では10gが目安と言われています。お酒の吸収を遅らせるタンパク質や脂肪を多く含んだ食事を合わせて摂りましょう。ナッツ類、チーズ、枝豆などは理にかなっているわけです。そしてお水(チェイサー)をお酒と1対1ぐらいの量でゆっくり摂取しましょう。一気飲みなどもってのほかですね。

ヘリコバクター属には30種類以上の亜種があり、ピロリ菌発見の3年後1987年にドイツ人医師ハイルマンによって発見されたのがヘリコバクター・ハイルマニイです。犬、猫などにも感染する人獣共通感染症です。胃癌の一種である胃MALTリンパ腫においてその発癌リスクがピロリ菌の7倍と高いことから注目されました。ただ感染を調べるにも従来のピロリ菌の検査法では検出できずPCR法などの遺伝子検査が必要で誰でも簡単に受けられるわけではありません。
犬におけるハイルマニイ菌の感染率は67~86%程度と高率です(海外)。人では信州大学の報告で内視鏡検査を受けた患者さんの0.37%に感染を認めました。それほど心配はしなくていいようですね。しかし除菌についてはピロリ菌と同様のやり方で可能と考えられていますが、ピロリ菌が消失してもハイルマニイ菌が残った場合もありまだ十分に確立されていません。いずれにせよ感染を回避することが大切です。感染者の7割が犬などとの接触があったようです。口移しで餌を与えたり、キスをしたり、口を舐められたりすることは絶対に避けましょう。排泄物の処理は手袋で、処理後もしっかり手洗いしましょう。

健診などで調べるのは肉眼では確認できない顕微鏡的血尿ですが、100mlの尿に0.1ml以上の血液が混じると肉眼的にも血尿となります。40才以上で血尿が出るのは30人に1人とされています。血尿がピンク色やワイン色の場合は膀胱から尿道までの出血を疑い、特に出始めの血尿は尿道から、終わりに出るのは膀胱からの出血を考えます。一方コーヒーやコーラ色の場合は腎からの出血を疑います。
血尿の原因として女性に多いのは膀胱炎ですが頻尿や残尿感などの症状を伴います。男性に多い尿管結石も強い痛みを伴います。逆に症状を伴わない無症候性血尿は要注意、特に高齢者の場合は膀胱がんなどの悪性腫瘍の可能性もあります。また慢性腎炎の一つであるIgA腎症も子供の無症候性血尿の主な原因と言われています。さらにマラソンなどで長時間腎臓に衝撃が加わって起きる運動性血尿などもあります。
ストレスや偏食が尿管結石の誘因になることや過労で免疫力が低下して膀胱炎を起こすことがあってもストレスが血尿の直接の原因にはなりません。血尿を一時的なストレスのせいと放置せずに、早めに泌尿器科や腎臓内科への受診をお勧めします。

胃食道逆流症で食道異物感を訴える方は意外と多く(特に女性)、その6割はプロトンポンプ阻害剤(PPI)で劇的に軽快しますが、残り4割は胸焼けなどの症状が改善してもつかえ感が残る場合があります。そのため消化管運動機能改善薬や半夏厚朴湯などの漢方薬を併用したり、ストレスや更年期障害などに対して精神安定剤の使用や心療内科と連携して心理療法を行うこともあります。
また最近ではPPIが無効な例として好酸球性食道炎が注目されています。食物によるアレルギー反応が原因と言われ、食道の粘膜にアレルギーに関連する白血球の一種である好酸球が集まって慢性の炎症を起こす病気です。嚥下障害やつまり感が主症状で進行すると食道狭窄が生じることもあります。頻度は5,000人に1人と比較的珍しい病気で男性に多い傾向があります。内視鏡検査で食道粘膜の縦走溝、白斑、多発輪状狭窄などの所見を認めた際は(例え所見がなくても症状から疑う場合も)積極的に食道粘膜の生検を行い、粘膜内に好酸球の存在を確認することで確定診断が可能です。治療には喘息などで使用する吸入用ステロイドの食道粘膜への投与を第一選択とします。

健診などで空腹時の血糖値が正常(110㎎/dl未満)であっても、食後の血糖値が糖尿病の人と同じくらい高くなるかくれ糖尿病が問題視されています。食後2時間を過ぎても血糖値が140㎎/dlを超える状況を食後高血糖と言います。糖尿病の初期によくみられ、食後高血糖を放置すると糖尿病同様に心筋梗塞や脳梗塞のほかにもがんのリスクを高めたり、最近では高齢者の認知症を増加させる原因の一つとも考えられています。
朝食や昼食を抜いたり、夕食を就寝前の遅い時間に食べたり、間食を取りすぎたり、そして早食いは厳禁です。食事はゆっくり時間をかけて摂ること、特にご飯やパンなどの炭水化物は消化・吸収されやすく食後高血糖の原因となります。つまりダイエットなどで話題となるグリセミックインデックス(GI)値が高い食品です。一方野菜、海藻、キノコ類など食物繊維が豊富に含まれる食品はGI値が低く、糖質の吸収も緩やかなため、メニューに野菜などを多くとり入れ、野菜→炭水化物の順に食べると血糖値の急激な上昇を抑えることができます。運動不足や肥満も原因となりますから食後1時間ぐらいに20分程度の散歩やウォーキングも効果的です。

保険機能食品の中で栄養機能食品は栄養成分(ビタミン、ミネラル)を基準量含んでいれば届け出なしで、機能性表示食品は販売前に安全性及び機能性の根拠などを消費者庁へ届け出るだけで機能性の表示ができます。一方特定保健用食品(トクホ)は効果や安全性について国が審査し食品ごとに消費者庁が許可しており国からお墨付きをもらった食品と言えます。
トクホのお茶の成分には脂肪や糖の吸収を抑える難消化デキストリン、悪玉コレステロールを減らす茶カテキン、食後の中性脂肪の上昇を抑えるウーロン茶重合ポリフェノール、脂肪分解酵素を活性化させるケセルチン配糖体、血管収縮物質を生成する酵素を阻害し血圧に効果のあるゴマペプチド等があります。でも「糖尿病を防ぐ」とか「血圧が下がる」ではなく「体脂肪が(血糖値が、血圧が)気になる方に」などの表現が多いですね。誇大広告にならないようにとの配慮ですがあくまでも医薬品でなく食品ということです。トクホ茶を飲んでも食べ過ぎれば意味がありません。先日初めてトクホの許可取り消しがありました。消費者である私達はトクホの表示を正しく理解して食品を選ばなければならないのです。

まずは整形外科を受診する方が多いと思いますが、レントゲンやMRIなどで脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニア、圧迫骨折など原因が特定できることは少なく、腰痛の85%は原因がわかりません。ストレス、運動不足、筋肉疲労、肥満などが考えられます。
原因が特定できた15%の中にはがんの骨転移など腰椎を直接傷害するものやそれ以外にも臓器周囲の神経が傷害されることで腰痛として痛みを感じることがあります。なぜ内臓疾患で腰痛が起きるのか。それは心臓や胃、膵臓、子宮などの神経と背中や腰の神経が脳へ行く途中の脊髄で交わっているため、脳が内臓の痛みを腰痛などと勘違いを起こすもので関連痛と呼びます。
循環器系では解離性大動脈瘤、消化器系では胃・十二指腸潰瘍、膵炎、胆石症などが背部痛、泌尿器系では尿路結石、婦人科では子宮筋腫などが腰痛の原因となり得ます、そして悪性腫瘍などがあります。背部痛では膵臓がんを心配される方が多いようです。増加傾向にある膵臓がんですが罹患率は人口10万人あたりおよそ10人と他のがんに比して高率ではありません。過度の心配は不要ですが痛みがよくならないときは一度内科を受診しましょう。

大人で胸やけや呑酸(どんさん)などの症状があれば逆流性食道炎を考えます。お子さんの場合は病的とまでは言えないようですが呑気症(どんきしょう)(空気嚥下(えんげ)症)などを疑います。日本人の8人に1人が悩んでいると言われており、げっぷの他、おならが多い、腹部膨満などの症状があったりします。げっぷは生理的なものであり、人は飲食時にいっしょに空気も飲み込むためげっぷやおならで排出します。腸管内のガスの70%以上が飲み込んだ空気です。普段でも唾液と一緒に少量の空気を飲み込みますが、緊張やストレスで過剰に空気を飲み込むとげっぷやおならが多くなります。早食いや口呼吸の多い人、ストレスが多い、うつ気味の人、特に歯を噛みしめる習慣がある人は噛みしめ吞気症候群といい、頭痛や肩こりなどの原因にもなります。うつむき加減の姿勢は噛みしめやすくなるため長時間のデスクワーク、力仕事などは要注意です。
治療は生活習慣の改善や消泡薬や消化管運動改善薬などの薬物療法が中心ですが、ストレスやうつ症状が強いときは心療内科での心理医学療法や向精神薬の使用、さらに噛みしめ防止にマウスピースを使用したスプリント療法も考慮されます。

海外渡航者の予防接種において現在接種可能な国産ワクチンはA型肝炎、B型肝炎、狂犬病、黄熱病、日本脳炎、破傷風、コレラです。短期ツアーや台湾、韓国、北アメリカ、ヨーロッパ、オセアニアへの渡航では基本予防接種は不要です。長期滞在の場合は地域別(日本脳炎ならば東南アジアやインド、ポリオは中近東、アフリカなど)に推奨されるワクチンがあります。また野生動物と接触する機会が多い場合は狂犬病(発症すれば致死率100%)、怪我などのリスクが高い場合は破傷風ワクチンなど。
B型肝炎は観血的な医療行為や性行為で感染するため、ワクチンよりも海外での性的交渉や刺青などを避けることです。ただし医療関係者や中国アジア、南米、アフリカ等に長期滞在する際は接種をお勧めします。A型肝炎は経口感染ですので長期滞在はもちろん短期渡航であっても欧米を除き、衛生環境が悪い屋台などで現地食を食べる機会が多い場合は接種をお勧めします。ワクチンは2~4週の間隔で2回接種すると6ヶ月以上の免疫、6ヶ月後に3回目を接種することで5年以上の免疫を獲得できます。そのため遅くとも渡航の1か月前までに接種を開始して下さい。

経皮内視鏡的胃ろう造設術(PEG)はおなかに小さな穴(胃ろう)をあけて胃に直接チューブを入れる手術で、内視鏡を使い10分ほどで終了します。脳血管障害などで口から食事がとれない方や、食べても誤嚥(ごえん)して肺炎を繰り返す方などが対象となります。心臓に近い静脈に管を留置して高カロリーな輸液を行う中心静脈栄養より生理的(腸管から吸収)で、鼻から胃にチューブを入れて栄養する経鼻胃管より苦痛も少なく、介護者の管理も容易です。そのため本人のQOL(生活の質)よりも管理の手軽さが優先され、高齢者施設ではPEGが増えており、PEGが入所の条件となることさえあります。最近では認知症や寝たきり患者へのPEGが延命治療としてネガティブにとらえられるようになりました。実際欧米では認知症患者へのPEGは行われていません。
一方でPEGでの適切な栄養管理や嚥下(えんげ)訓練で経口摂取が可能となったり、褥瘡(じょくそう)が軽快したり、水分補給で熱中症を回避出来たり、内服薬の管理がしっかり出来る等のメリットもあります。まずは主治医と納得できるまで話し合いましょう。そしてPEGを行うのであればPEGの管理や栄養管理が適切に出来る環境をしっかり整えましょう。

ピロリ菌は免疫が十分でない5歳までに感染が成立し、大人が感染しても一過性の胃炎を起こすだけで感染は持続しないと言われています。感染経路についてはまだ不明な点が多いのですが、人の口腔内(唾液や歯垢)や糞便からピロリ菌の遺伝子が検出されているため、口から口もしくは糞便から口という経路で人から人へ感染すると考えられています。中でも親から子への家庭内感染が問題となっています。両親がピロリ菌に感染している場合は50%、片親の場合でも25%の子供に感染が認められており、特に母親が感染者である場合は感染率が高くなります。親から子供への食べ物の口移しなどには注意が必要です。
また井戸水を飲用する集団でピロリ菌の感染率が高かったことから井戸水なども感染源と考えらえています。上下水道が十分整備されていなかった時代に幼児期を過ごした60歳以上では約60~70%と感染率が高い一方で、現在の10代では10%以下にまでに低下しています。衛生環境が整った現在では水道水を飲んでピロリ菌に感染することはないということです。またハエやゴキブリの体の表面にもピロリ菌が証明されています。清潔な環境は大切ですね。

病院で胃の検査を行う時はまず上部消化管造影(UGI)ではなく食道胃十二指腸内視鏡(EGD)が選択されます。早期胃がんなど胃粘膜の微細な異常を見つける上でEGDが優れており生検で組織診断も行えること、またピロリ菌除菌治療においてもEGDで胃がんがないことを確認しないと保険で除菌治療が行えないこと、さらに最近多い逆流性食道炎もUGIでは判り難くEGDによる評価が一般的なことなどがその理由です。
一方で胃がん検診においてはEGDではなくUGIが推奨されていました。疫学上の胃がんの死亡率減少効果がUGIでは多くの調査で示された反面、EGDではその十分な証拠がないことが理由です。これに現場の医師の多くは違和感を覚えました。それは胃がんの発見率がUGIに比べEGDは3~4倍と言われているからです。しかし韓国で行われた20万人規模の調査でEGDにより胃がん死亡率が57%も減ったとの結果を受けて、厚労省もようやく重い腰を上げました。2016年4月から内視鏡検査の導入を推奨し、さらに検診対象年齢も50歳以上に引き上げるとの新しい方針を打ち出したのです。内視鏡検査による胃がん検診の幕開けですが内視鏡検査医の不足など課題も多いのが現状です。

ABC検診ではヘリコバクター・ピロリIgG抗体とペプシノゲン(PG)を血液で測定します。ピロリ菌感染で胃炎が持続すると胃粘膜は痩せていきます(萎縮)。PGは胃の消化酵素ペプシンの素で萎縮が進行すると分泌が低下します。特に胃体部の胃底腺から分泌されるPG Iの低下は胃体部萎縮の良い指標となります。
以上からA群:ピロリ菌感染がなく、萎縮もない健康な胃、B群:ピロリ菌はいるが萎縮があまり進んでいない、C群:ピロリ菌がいて萎縮が進行している、D群:萎縮がかなり進行してピロリ菌がいなくなった胃の4つのグループに分けられます。萎縮が進行すると胃粘膜が腸上皮化生といって腸粘膜の性質をもった粘膜に置き換わり、胃粘膜を好むピロリ菌はそこに住めなくなります。この粘膜こそ発癌リスクの最も高い粘膜で、胃癌の年間発生頻度はA群:ほぼゼロ、B群:1000人に1人、C群:500人に1人、そしてD群は80人に1人と高率です。
ABC検診は胃癌を見つけるための検査ではありません、リスクの高い人は積極的に除菌治療を受けて、胃内視鏡検査も定期的に受けるようにしましょう。そして症状のある人は最初から胃内視鏡検査を受けて下さい。

体の中は横隔膜という筋肉の膜によって胸腔と腹腔に仕切られています。この横隔膜には食道や大動脈、大静脈が通る穴があいておりその穴を裂孔といいます。食道が通る穴が食道裂孔です。ヘルニアとは本来あるべき部位から臓器の一部が突出、脱出した状態を意味し、腹腔内にあるべき胃の一部が食道裂孔から胸腔側へ脱出している状態を食道裂孔ヘルニアと言います。
加齢により横隔膜が緩むことでヘルニアは起き易くなります。また腹圧の上昇も原因と考えられており、喘息や慢性気管支炎などの呼吸器疾患や肥満による内臓脂肪の増加もその一因です。さらに腹部を締め付ける服装や前屈みの姿勢、背骨の曲がりなども誘因となります。本来食道と胃のつなぎ目は横隔膜でしっかり締められて胃の内容物が食道に逆流しないようになっていますが、食道裂孔ヘルニアでは締め付けが弱くなり容易に逆流が起こります。食道裂孔ヘルニア自体は病気ではありませんが胸焼けなど逆流性食道炎の症状があれば胃酸を抑える薬が必要となります。多くは薬で軽快しますが重症化例や傍食道型といわれるヘルニアのタイプでは手術が必要となることもあります。

抗血栓薬として、心筋梗塞や狭心症の治療後、脳梗塞後の再発予防目的にて抗血小板薬(アスピリン、プラビックス、プレタール等)が、また心房細動や人工弁置換術後、肺塞栓症に対しては抗凝固薬(ワルファリン、プラザキサ、イグザレルト等)が投与されます。内服中の患者さんが内視鏡検査を受ける際、生検などでの出血を避けるため検査前にかなりの休薬期間を設けていました。しかしアスピリンの休薬で心血管イベントや脳梗塞のリスクが3倍に上昇したことや、ワルファリンの休薬で1%に血栓塞栓症が発生したなどの報告があり、内視鏡処置に伴う出血よりも休薬で生じる血栓塞栓症のリスクが問題視されるようになりました。
そこで2012年に日本消化器内視鏡学会より「抗血栓薬服用患者に対する消化器内視鏡ガイドライン」が出されました。ガイドラインでは生検を含む通常の内視鏡検査では出血の危険性が少ないため休薬せずに検査可能となりました。ただしワルファリン内服中の場合凝固能(PT-INR)が適正な治療域にあることを確認して生検を行うこと、2剤以上を内服している場合は症例に応じて慎重に対応することが推奨されています。

一度除菌に成功すれば再感染のリスクは数%以下となり、潰瘍もほとんど再発しなくなります。一次除菌の除菌率は当初90%近くと良好でしたが抗生剤耐性菌の増加により、現在は70%程度に低下しています。除菌治療を受けただけで安心してしまい、尿素呼気試験や便中抗原検査等での除菌判定を受けなかった人の中にも少なからず不成功者がいます。判定済みであっても潰瘍の再発を認める場合は再感染の可能性も含め、再度除菌判定を受けて下さい。
またアスピリン等の抗血小板薬や非ステロイド性抗炎症鎮痛薬の使用、骨粗鬆症の治療薬であるビスフォスフォネート製剤との併用も潰瘍のリスクを高めます。その他まれではありますが副甲状腺機能亢進症(副甲状腺腫瘍や過形成が原因)に伴う高カルシウム血症(尿管結石なども合併しやすい)や胃酸分泌を促すガストリンを産生するガストリノーマなどの悪性腫瘍(膵臓や十二指腸に発生)も多発性難治性潰瘍の原因となります。いずれも副甲状腺ホルモンやガストリンの血中濃度が高い時に強く疑います。
除菌が成功しているのであればピロリ菌以外の原因も鑑別する必要がありそうです。

B型肝炎ウイルス(HBV)は母子感染(1985年B型肝炎母子感染防止事業が施行されて激減)が多く、C型肝炎ウイルス(HCV)は以前輸血後肝炎と言われ原因不明でしたが、1989年にウイルスが発見され1992年に献血時のHCV抗体検査が改良されてからは輸血による感染はほぼなくなりました。その他覚せい剤など回し打ち、入れ墨の針の使い回し、また過去の集団予防接種時の注射針の使い回しも感染拡大の原因と言われています。
そのため2002年より肝炎ウイルス検診が実施され、40歳以上を対象に5歳ごとの節目に1回のみですが無料で受けられるようになりました。しかし平成23年度、24年度のつくば市・つくばみらい市の検診対象者63,634名のうち実際に受診された方は10,259名(16.1%)とまだまだ少ない状況です。B型肝炎 57名(0.6%)、C型肝炎 41名(0.4%)と全受診者の約1%に肝炎ウイルスの感染を認めました。未受診者53,375名の1% 約500名が肝炎ウイルスに感染していることを知らずにいる可能性があります。何度も受ける必要はありませんが必ず1回は肝炎ウイルス検診を受けて下さい。また肝機能障害を認める人は、まずは医療機関に相談してみましょう。

脂肪肝は腹部エコー検査で容易に診断可能で、健診では受診者の35%に脂肪肝を認め、20%は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)です。肝硬変に進行する脂肪肝として問題とされる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は2%と言われています。NASHは5~10年で5~20%が肝硬変に至り、その後5年間での肝癌発癌率は10~15%と高率です。また脂肪肝は皮下脂肪、内臓脂肪に続く「第3の脂肪」と言われますが肥満指数(BMI)と密接に関係します。BMI 25以上が肥満となりますが30以上ではその8割が脂肪肝を伴います。特にBMI35以上の高度肥満、肝酵素のASTが80以上、ALTよりASTが高い、糖尿病などを伴う場合はNASHのリスクが高くなります。
脂肪肝の治療は薬物療法よりも体重を減らすことがもっとも効果的です。NASHでは食事・運動療法により‐7%の減量が目標になります。NAFLDでは‐3%の減量でも肝機能障害が改善しますからまずは無理のない減量から始めて下さい。ただそこで満足せずにさらに減量を目指しましょう。運動は週3回以上で1日20分以上の有酸素運動を心がけて下さい。禁酒が望ましいのは言うまでもありませんね。

欧米や日本の疫学調査ではコーヒーにはある一定のがん予防の可能性が示唆されています。それは肝臓がん、膵臓がん、女性の結腸がんや子宮体がんのリスクを低下させるというものです。コーヒーに含まれているクロロゲン酸等のポリフェノールが抗酸化作用で発がんを予防している可能性が考えられています。
女性での死亡者数第1位が大腸がんです。2006年の「高山スタディ」で、コーヒーを1日に1杯以上飲む女性は、ほとんど飲まない女性に比べ、進行結腸がんの発生リスクが6割近くも低くなることが示されました。厚労省研究班JPHC Studyでも同様の結果でした(こちらは1日3杯以上)。一方で「宮城県コホート」ではコーヒーによる大腸がんのリスク低下は否定的でした。また肝臓がんとの関連も注目されており、コーヒーをほとんど飲まない人に比べ、1日に5杯以上飲む人では発がんリスクが4分の1に低下しました。しかしこれらは疫学調査の結果であり絶対的なものではありません。おいしいコーヒーを味わうのは至福の時間でもありますが、胃の調子が悪くなるほど無理に何杯も飲む必要はありません。疫学的には適度な運動のほうが効果が高いようです。

コレステロールは胆汁中に排泄されますが、脂肪やコレステロールを過剰に摂取すると胆汁中でコレステロールが結晶化し胆石が形成されます。食事の欧米化に伴い胆石の7割がコレステロール胆石です。胆石の5Fと言われ女性(Female)、40~50歳(Forty~Fifty)、肥った(Fatty)、多産の(Fecund)、白人(Fair;美人?という意味も)に多いと言われています。最近では若い人にも見られ、急激なダイエットによる体重減少を繰り返す人に多いようです。腹部エコー検査では数mm程の胆石でも見つけることが可能で、ドックでは3~5%の頻度で胆石が見つかります。多くは無症状ですが年率1~2%の頻度で胆石発作を起こします。
有症状胆石は基本的に腹腔鏡下胆嚢摘出術の適応となります。胆嚢ごと摘出するため再発はありません。内科的治療としてはウルソデオキシコール酸による経口胆石溶解療法や体外衝撃波胆石破砕療法(ESWL)があります。溶解療法は1㎝以下の石灰化の少ないコレステロール結石と対象が限定され、少なくとも半年以上の内服が必要です。ESWLは3㎝以下の石灰化の少ないコレステロール結石で3個以下が対象となります。いずれも再発が問題で10年間での再発率は50~60%と言われています。

日本では集団検診(昔肛門にセロファンを押し当てて小学校に持参しましたね)、集団駆虫が実施され、終戦直後国民の70%に見られた回虫、蟯虫も現在ほとんど見かけません。一方世界では約10億人が回虫に感染していると推定され、年間約6万人が亡くなっています。ただ日本でも自然食ブームによる有機肥料の使用で回虫の感染は増加傾向にあります。
さらにペットブームではトキソプラズマやイヌ回虫が。グルメブームではジビエ料理などでの加熱不十分な獣肉の生食による感染;住肉胞子虫(鹿肉)、ウェステルマン肺吸虫(猪肉)、有鉤嚢虫(豚肉)、旋毛虫(熊肉)など。また魚介類を生食する日本ならではの感染としてアニサキス(サバ、スルメイカ等)、横川吸虫(アユ)、日本海裂頭条虫(サクラマス、サナダ虫ダイエットの条虫です)を始め、放尾線虫(ホタルイカ)、棘口吸虫(ドジョウ)、肝吸虫(ワカサギ)など枚挙に暇がありません。予防は食品を充分加熱すること、また冷凍(-20℃で48時間以上)すると寄生虫は死滅します。海外渡航による輸入寄生虫なども問題となっており、寄生虫の流行地や感染経路をよく理解することも大切です。

慢性肝炎は6ヶ月以上の肝機能検査値の異常が続く病態を言います。その患者数は約150万人とされ、その約65%はC型肝炎ウイルス、 20%がB 型肝炎ウイルスによるものです。B型は母子垂直感染や注射針の使いまわしなどで、C型は輸血後肝炎と言われウイルス検査が出来ない時代に輸血などにより感染が広がりました。その感染者数はB型が150万人、C型が200万人と推定されています。
慢性肝炎は自覚症状に乏しく放置すると肝硬変や肝癌に進展します。B型肝炎は2000年以降4種類の経口抗ウイルス薬が登場し、ウイルスの増殖を強力に抑え込むことが可能となりました。一方C型肝炎はインターフェロン療法が主流で9割近い著効(ウイルスが消える)率とはいえ副作用が問題でした。しかし昨年9月に効果は同等かそれ以上で副作用の少ない経口抗ウイルス薬のみでの治療が承認され、今後も次々と経口薬が承認予定です。そんな中で自分がウイルスに感染していることを知らない人も多くいます。市町村では40歳から5歳毎の節目の年齢者を対象に無料(1回のみ)で肝炎ウイルス検診を実施しています。必ず一度は検査を受けましょう。

平成26年の喫煙率は男性で30.2%と半世紀で50%以上減少し、女性は9.8%と横ばい傾向です。タバコの煙には4,000種類の化学物質、その中に60種類以上の発癌性物質が含まれています。さらに問題なのは喫煙者が吸う主流煙よりもタバコから立ち昇る副流煙に有害物質が多く含まれており子供など周囲の人にも影響を及ぼすことです。喫煙者は約10年平均余命が短くなると言われますが40歳までに禁煙すればその余命を取り戻せます。
禁煙と言えばニコチンガムやニコチンパッチが主流でしたが、最近ではチャンピックスというニコチンを含まない飲み薬が注目されています。脳にあるニコチン受容体にニコチンが結合すると、快楽物質(ドパミン)が放出されます。そこにチャンピックスが結合して少量のドパミンを放出させることでニコチン切れの症状を軽くして、タバコを美味しいと感じ難くさせます。治療期間は1日2回の服用で12週間です。内服中の禁煙達成率は約8割、1年後の禁煙継続率は約5割です。副作用は吐き気、眠気などです。健康保険での治療が可能で自己負担額は13,000~20,000円が目安です。まずは禁煙外来を行っている専門医に相談しましょう(すぐ禁煙.jpで検索)。

のどや食道のつかえ感や異物感などの症状を咽喉頭異常感と言います。30~50歳代の女性に多いようです。主な原因としては慢性咽頭炎、慢性副鼻腔炎(後鼻漏)、アレルギー性鼻炎、胃食道逆流症(GERD)などで、他にも喫煙、慢性甲状腺炎、狭心症、変形性頸椎症など様々です。咽喉頭癌、食道癌などの悪性腫瘍も1%位で存在するとされています。明らかな病気がない場合は咽喉頭異常感症と診断されます。
胸焼けやゲップなどの症状を伴う場合はGERDの関与を疑います。プロトンポンプ阻害剤(PPI)という胃酸分泌を抑える薬を投与し、症状が改善するかどうかをみたり(PPIテスト)、必要により内視鏡検査を行います。6割はPPIで劇的に軽快しますが、残り4割は胸焼けなどの症状が改善しても食道異物感が残る場合があります。そのため消化管運動機能改善薬や半夏厚朴湯、柴朴湯など漢方薬を併用することもあります。それでも軽快しない場合は咽喉頭異物感症を考え、ストレス、更年期障害、うつ病などに対して精神安定剤の使用や心療内科と連携して心理療法を行うこともあります。内視鏡検査で癌でないことがわかるだけで症状がよくなる場合もあります。

風邪の後に咳だけが2~3週間以上続くときに咳喘息を疑います。気管支喘息は慢性の炎症により気管支が過敏状態となり狭窄したりすることで、呼吸困難発作や喘鳴(ヒューヒュー、ゼイゼイ)などの症状が出現します。呼吸機能検査で閉塞性障害と診断されます。対して咳喘息は咳のみで呼吸困難や喘鳴などの症状がなく、検査でも異常を認めません。どちらも冷気やハウスダスト、花粉などのアレルギー反応が関与すると考えられています。
咳喘息は抗生剤や通常の咳止めでは効果がなく、β2刺激薬などの気管支拡張薬(貼付薬もありますね)がよく効くことが特徴です。気管支喘息に準じた治療で、その他ロイコトリエン受容体拮抗薬や、特に吸入ステロイド薬は有効です。再発することもしばしばで繰り返すと5年以内に30%が気管支喘息に移行すると言われており、治療をしっかり継続することが大切です。安易に咳喘息と診断されることも問題となっており、咳の原因も百日咳(最近大人にも多いようです)、結核、肺癌、慢性閉塞性肺疾患、一部の降圧剤などによる薬物性、逆流性食道炎など様々です。必要に応じてレントゲン検査なども受けましょう。

潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜にびらんや潰瘍が形成される原因不明の疾患で下痢、腹痛、血便などの症状を伴います。病気の範囲によって直腸に限局した直腸炎型、直腸から大腸の出口側半分(S状結腸、下行結腸)に及ぶ左側大腸炎型、大腸全体に広がる全大腸炎型に分けられます。病変が徐々に拡大していく場合もあるため定期的な内視鏡検査は必要ですが、その適切な間隔についての十分な臨床研究データはありません。またこの疾患は完全に治癒することはないため、症状のみならず内視鏡所見上の改善(寛解といいます)が治療目標となります。症状がなくても内視鏡上では強い炎症を認めることもあるため治療効果の判定に内視鏡は有用です。しかし下痢や血便、特に発熱や腹痛などの有症状時は検査で悪化する可能性もあるので無理はせず主治医とよく相談して下さい。
さらに癌化のリスクも問題となっており発症から10年で2%、20年で8%、30年で18%に大腸癌の合併が認められました。特に全大腸炎型で発症後8~10年以上の患者さんは毎年の検査をお勧めします。癌を発見するにも炎症のない寛解期での検査が望ましいと考えます。

大腸がん検診で行われる便潜血検査は大便中に含まれる微量の血液を検出する検査法です。従来の化学法は感度に優れますが食肉中の血液や鉄剤などにも反応してしまいます。最近の免疫法(ヒトヘモグロビン法)は人の血液にのみ反応し、胃液で変性した血液には反応しないため大腸からの出血に特異的と考えられています。健診受診者の6%が便潜血陽性となりますが実際のがんの発見率は0.16%であり、陽性者100人を検査して実際にがんが見つかるのは3人程度と言われています。ただし便潜血陽性者は陰性者に比べてがんの確率が10倍高いと言われていますから必ず内視鏡検査などを受けましょう。また進行大腸がんでも便潜血陽性率は80%、早期大腸がんでは50%にすぎませんから陰性であってもがんが見逃されている可能性はあります。
基本少量の血便であっても受診が望ましいですね。鮮紅色でポタポタ落ちるような出血は痔疾患をまず疑いますが直腸がんの可能性も否定できません。50歳以上であればがんのリスクは高くなりますし、20代でも下痢を伴う場合は潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患であったりすることも稀ではありません。

コーヒーにはカフェインとポリフェノールの一種であるクロロゲン酸が含まれています。カフェインには眠気や疲労感を抑え集中力を高める働きや体脂肪を燃焼させる効果があります。また胃酸分泌を活発にする働きや大腸蠕動(ぜんどう)運動の亢進作用もあり、過剰な摂取は胃腸障害や下痢の原因となります。クロロゲン酸はポリフェノールとして赤ワインと同等、緑茶の2倍ほど含まれており、その抗酸化作用は糖尿病や動脈硬化などの予防が期待されます。発がん予防に関しても厚生労働省研究班の調査では、コーヒーを1日に3杯以上飲む女性はほとんど飲まない女性に比べ、進行大腸がんのリスクが56%も低くなることがわかりました。またクロロゲン酸には収斂(しゅうれん)作用(腸粘膜のタンパク質と結合して保護膜を作り、刺激が弱まることで腸の蠕動を抑える)といった整腸効果があります。
それでも下痢をする場合は飲む量を控える必要がありそうです。食後のコーヒーも必ず下痢を軽減してくれるわけではないようです。紅茶のカフェインはコーヒーの半分、カフェインレスコーヒーやたんぽぽコーヒーなどもありますが、何となく物足りないですね。

皮膚が刺激を受けると肥満細胞からヒスタミンが分泌します。過剰なヒスタミンは血管を拡げて皮膚を赤くさせ、軽い腫れが起こり、痒みを伴う蕁麻疹が起こります。温熱蕁麻疹は入浴や温風等の刺激で出現し、蚊が刺したような皮膚の赤味と軽い腫れ、強い痒みを伴います。
ただ温熱蕁麻疹は実はまれで、多くがコリン性蕁麻疹である可能性があります。コリン性蕁麻疹は体温が上がり発汗することで起きる蕁麻疹で、入浴以外に辛い物を食べたり、運動や精神的ストレスなどでも誘発されます。発汗に関連する交感神経から分泌されるアセチルコリンという物質が原因と考えられています。温暖蕁麻疹に比べ数ミリと小さめな点状皮疹で痒みよりチクチクとした痛みを伴います。
抗ヒスタミン剤が効きにくいことが多く、抗コリン剤やステロイド剤、漢方薬などを併用することもあります。お風呂はぬるめ、薄着で体を温めない、刺激物も避け、規則正しい生活でストレスを溜めないといったことも大切です。症状は数分から長くても数時間で軽快することがほとんどで、10~30代の青年期に多く、年齢とともに改善し自然治癒すると言われています。

大腸内視鏡の挿入部の硬さが調節できる機能(硬度可変スコープ)や直径6.8mmの極細径スコープなども開発されましたが、曲がりくねった長い大腸に内視鏡を挿入していくための挿入法の進歩こそが苦痛軽減のポイントです。ループ解除法、軸保持短縮法が最近の主流です。軸保持短縮法は大腸を折り畳むように挿入するため腸管を押すことが少なく苦痛が少ない挿入法です。ループ解除法は腸管に小さなループを形成しては解除、直線化することで大腸深部に挿入する方法です。ループを形成する際に腸管を押すため痛みを感じることがあります。しかし強い屈曲部にわざと緩やかなループを作ることで挿入を容易にすることも可能であり、腸管の走行にあわせて臨機応変に対応することが大切です。術者によって多少の差はありますが被験者の3人に2人は軸保持短縮法での挿入が可能と言われており、またその習得には5,000例以上の経験が必要という先生もいます。
痛みの感じ方には個人差があり、腸管癒着があると強い痛みが出ることもあります。その際に軽い鎮静をかけることもありますがすべての人に必要なものではないようです。

ポリープ切除はスネアという金属のワイヤーでポリープの根元を締め付けて高周波電流で焼き切ります。いかにも痛そうですが大腸粘膜には痛覚神経がないため痛みは感じません。しかし胃炎、虫垂炎、下痢、大腸内視鏡などでは腹痛を感じます。痛みには体性痛、内臓痛、関連痛があり、体性痛は皮膚の痛覚などの表在痛と筋肉、骨、腹膜などが感じる深部痛があります。虫垂炎から腹膜に炎症が及ぶことで起きる痛みは体性痛です。胃炎や下痢などの蠕動痛(せんどうつう)は内臓痛で内臓に疎らに存在する知覚神経が刺激されることで感じます。強い内臓痛が体表面に投影されることを関連痛と言います。内臓の知覚神経と体表の痛覚神経が脊髄レベルで同じ神経を通るため内臓からの刺激を脳が体表面の痛みと錯覚するためで、内臓の位置から離れた所に現れることもあります(心筋梗塞時の肩の痛みや歯痛など)。内視鏡検査時の痛みは腸管の筋層や外膜が強く伸展されることで起こります。ポリープ切除時の痛みは粘膜だけでなく、筋層が巻き込まれている可能性があります。筋層を傷つけると腸に穴があく危険性があるため我慢せず医師にしっかり伝えましょう。

一次除菌の除菌率は80%、二次除菌は90%であり、合わせると95%以上の確率で除菌が可能です。そして除菌1年後の再感染のリスクは1~2%と言われています。ピロリ菌感染は5歳までに成立すると言われ大人での感染は起こりにくいからです。しかし遺伝子型の異なるピロリ菌の大人での再感染が最近報告されており稀なことではないようです。ピロリ菌の感染経路は口移しなどの経口感染や井戸水などの水系感染が考えられており除菌後も井戸水などを使用する場合は煮沸することをお勧めします。
また再感染には再燃も含まれていると考えられます。除菌の判定には息で調べる尿素呼気テストや便中ピロリ抗原検査などを行いますが診断精度は95%であり微量ながらピロリ菌が残った場合でも陰性と判断されてしまう可能性があります。しばらくしてピロリ菌が増殖して胃炎が再燃するのです。そのため除菌後も定期的な内視鏡検査は必要です。内視鏡で胃炎が持続している場合などは再度除菌判定を受けることをお勧めします。除菌後の検査でピロリ菌が陰性であった場合でももう一度は保険で再検査を受けることができます。

γ-GTP(ガンマ・グルタミルトランスフェラーゼ)はアルコールや薬物の分解など肝臓の解毒作用に関係する酵素です。過度のアルコール摂取などで肝臓や胆管の細胞がこわれるといち早く血液中にγ-GTPが流れ出てくることから健診などで「アルコールの飲み過ぎ」の指標として使われています。
γ-GTPのみが高い場合はアルコールの過剰摂取を疑いますがAST(GOT)、ALT(GPT)なども上昇している時は慢性肝炎などの肝臓病の鑑別が必要です。アルコールを飲まない人の場合はまず薬物などの影響を考えますが、服薬歴もない時は脂肪肝を疑います。とくに数値が100以上では脂肪肝が進行している可能性があります。さらに200以上や短期間で急に上昇した場合は胆石、胆管炎、膵炎や胆道癌、膵癌などによって胆管がつまっている可能性もあるためエコー検査やCT検査などの精密検査が必要です。いずれにせよ一度は肝臓専門医を受診してみて下さい。
ちなみにγ-GTPの半減期は約2週間です。200ぐらいの人でもアルコールが原因であれば1ヶ月程度の禁酒で正常化します。またγ-GTPが血液中に多くなっても、それ自体が何か悪い影響を及ぼすことはありません。

テレビCMではありませんが、それは胃食道逆流症(GERD;ガード)を疑います。診断には内視鏡検査が有用ですので検査をお勧めします。食事の欧米化に伴い日本人にもGERDが増えています。ただ日本人のGERDは軽症のものが多く、内視鏡検査で食道粘膜にびらん(ただれ)のない非びらん性胃食道逆流症(NERD)が6~8割を占めています。胃酸を強力に抑えるプロトンポンプ阻害剤が有効なことが多いのですが、再発もしやすく生活習慣の見直しが重要です。脂肪や蛋白質の多い食事や香辛料、アルコール、コーヒーなどの過剰摂取も胃酸の分泌を増やし症状を悪化させます。食後すぐ横になるのは避け、就寝3時間前には食事を済ませるように心がけましょう。
また肥満など内臓脂肪が増えると内臓が圧迫され腹圧が上がり逆流が起き易くなります。ベルトや下着による締め付け、長時間の前屈みの姿勢や重い物を持ち上げるなども腹圧を上げる原因になります。横になると胃酸が逆流し易くなりますが立って寝るわけにもいきません。それでも枕や座布団を使って上体を少し起こして眠るといいでしょう。左側を下にするとさらに逆流が少なくなりますので、試してみて下さい。

過度のアルコール摂取、高脂肪食や遅い時間の高カロリーな食事は脂肪肝の原因となります。過剰な中性脂肪を無理に燃焼しようとすると、有害な活性酸素が増加し肝臓に障害が起きます。シジミ、カキ、イカ、タコに多く含まれるタウリン、ウコンのクルクミンは胆汁の流れを良くしたり、アルコールの分解を助けることで肝臓を保護するほか、この活性酸素を減らす抗酸化作用を有します。抗酸化ビタミンと言われるビタミンA、C、E(カボチャ、ブロッコリー、トマトなど)、ゴマ(ゴマリグナン)も同様です。また納豆や豆腐などの大豆製品、牛乳・乳製品、青魚などの良質なたんぱく質も肝臓の修復や再生に必要な栄養素です。特に青魚はオメガ3脂肪酸(DHA・EPA)なども多く含み、悪玉コレステロールや中性脂肪を下げ、脂肪肝を改善します。慢性肝炎、肝硬変の人は少し注意が必要です。肝機能が悪い人は肝臓に鉄がたまりやすく、その過剰な鉄が酸化することでさらに肝機能が悪化します。昔から肝臓にいいと言われてきたシジミやレバーですが鉄を多く含むことから最近では摂取を控えるようになりました。
まずは1日30品目を目標にバランスのとれた食事を心がけましょう。世界遺産登録を目指している和食は肝臓にやさしい食事かもしれませんね。

ピロリ菌感染による胃がんのリスクは健常者の5~10倍と言われていますが、除菌によりそのリスクを3分の1に減らすことが可能です。今年2月に胃炎の患者さんへの除菌治療が適応拡大となり、胃がんを将来的に減少させることが期待されています。胃炎が進行するにしたがって発癌のリスクが高くなるため、若いうちに除菌することが推奨されますが、特に年齢制限はありません。ピロリ菌感染は60歳以上では3人に2人と高齢者に多い傾向がありますが、高齢者だから特に副作用(頻度10.2%)が多いということもないようです。しかし、持病や常用する薬が多い人は主治医によく相談しましょう。小児の除菌についても副作用を考慮し、潰瘍や鉄欠乏性貧血を認める場合でも10歳以上が望ましいと考えます。また除菌後に3~19%の頻度で食道炎が起きたり、悪化したりするとの報告がありますが、一時的で軽症のものが多いため除菌の妨げにならないというのが最近の考え方です。ほかペニシリンアレルギーなど使用する薬剤にアレルギーがある人は除菌治療ができません。基本的に除菌をお勧めしますが、治療前に胃がんがないことを内視鏡検査で確認することも必須となります。まずは専門医に相談してみて下さい。

糖尿病の患者さんだけでなく、ダイエットで糖質制限をする人も増えていますが食べる量が減れば便の量や回数も減ります。そのため食物繊維を併せて摂取することが大切です。食物繊維は不溶性、水溶性に大きく分けられます。不溶性食物繊維はセルロースなどの水に溶けにくい繊維質で、水分を保持し、便のかさを増やして排便を促すほか、腸のお掃除もしてくれます。野菜、穀類(ライ麦、玄米等)、芋類(さつまいも等)、豆類、キノコ類に含まれています。水溶性食物繊維は粘性と保水性が高く便を柔らかくします。ビフィズス菌などを増やす整腸効果もあります。また糖分の吸収を遅らせたり、脂肪の吸収を抑えコレステロール値を下げる働きもあります。海藻類(わかめ、寒天等)、こんにゃく、果物(りんご等)などに含まれています。こんにゃく芋に含まれるグルコマンナンは水溶性ですが凝固剤で固められた板こんにゃくは不溶性となります。不溶性食物繊維だけでは便秘が改善しないこともあるため不溶性:水溶性=2:1の割合で摂取するのが理想です。おくら(不溶性3.6g:水溶性1.4g/100g中)、ごぼう(3.4g:2.3g)、アボガド(3.6g:1.7g)、納豆(4.4g/2.3g)などがお勧めです。摂取目標量は1日20g以上です。

オナラを我慢するとガスは腸管から吸収されて血液に溶け込み、呼気として排出され口臭などの原因になります。腸管ガスの70~90%は食事などでいっしょに呑み込んでしまった空気で残りは腸内細菌がつくるガスと言われています。ヨーグルトや納豆、緑茶(カテキン)などを摂取して善玉菌を増やしたり、食物繊維などで便秘を解消することは大切です。バナナなどは食物繊維や善玉菌を増やすオリゴ糖などを多く含みます。そして適度な運動も必要です。しかし最近臭いのないオナラに潜んでいる「噛み締め呑気症候群」が注目されています。日本人の8人に1人が経験し、ストレスや緊張で奥歯を強く噛み締めた際に唾液とともに空気を過剰に呑み込んでしまうことで腹部膨満感が出現します。他にも頭痛、めまい、肩こり、うつなどの症状を伴う場合もあります。特にパソコンなどうつむき加減で仕事をする人に起きやすいようです。意識的に歯を離すように心がけることですが、マウスピースなどを使った治療法もあります。また一般的な呑気症の対処法として早食い、過度の咀嚼、炭酸飲料も避けましょう。固唾は飲みすぎないのが肝心です。

胃ポリープとは胃粘膜の一部が隆起した病変の総称で、一般に良性のものを指します。無症状で健診では5~10%の頻度で見つかります。9割以上が胃底腺ポリープで中年女性に多く、胃の上部に5mm以下で扁平、多発することもありますが癌化の心配はありません。
その他には過形成ポリープがあります。慢性胃炎などを背景に出現し、ピロリ菌感染者に多いようです(胃底腺ポリープはピロリ菌がいない人に多い)。過形成ポリープの癌化も1~2%と低いのですが、2cmを超えると10%近くが癌化するとの報告もあります。そのため2cmを超えるものや、少しずつ出血して貧血の原因になる場合や胃の出口近くで通過障害をきたす場合も切除の適応となります。ピロリ菌の除菌後に過形成ポリープが消えてしまうこともあるので、切除前に除菌を検討してもいいでしょう。経過観察が基本ですが、初めて指摘された場合や、増大傾向にあるもの、1cm近い大きさで表面が不整なポリープなどは一度内視鏡検査を受けることをお勧めします。ちなみに内視鏡的胃ポリープ切除(ポリペクトミー)は1968年日本で最初に行われました。

ストレスなどが原因で潰瘍などの病気がないにもかかわらず胃痛や胃もたれなどが続く場合は神経性胃炎を考えます。一番はストレスの原因を取り除くことですが難しいですよね。まずは十分な睡眠と消化のいい食事(白身魚、ささみ、豆腐など)を心がけて、脂もの、香辛料、アルコールなどは控えましょう。消化酵素を多く含むキャベツ(ビタミンUいわゆるキャベジン)、大根(ジアスターゼ)などはいいですね。とは言え胃痛にはやはり制酸剤が有効です。最近はH2ブロッカー(ガスター10など)が薬局で手に入るので薬剤師さんに相談するのもいいでしょう。
また空腹時に症状があるときはクラッカーやヨーグルトなどを少量間食することでよくなることもあります。禅宗の僧が軽石などを火で焼き、布で包んだもの「温石(おんじゃく)」を懐に入れて一時的に空腹をしのいだことが懐石料理の語源と言われていますが、ホットミルクや温かい野菜スープなども症状を緩和してくれるかもしれません。コーヒーは避け、カフェインの少ない番茶、麦茶を飲みましょう。それでも症状がよくならないときは医療機関を受診しましょう。

夏バテには辛いもので食欲増進などと言われ、唐辛子を使った韓国料理は日本でも人気です。唐辛子の辛味主成分はカプサイシンです。実は辛味は舌で味わうだけでなく、胃腸など消化管の知覚神経にもカプサイシン受容体があることが判ってきました。辛いものは胃に悪そうですが、少量の唐辛子を食べるとカプサイシン受容体が刺激され、胃粘膜血流が増加、胃粘液の分泌を促進し、胃酸の分泌が抑制されて胃粘膜が保護されます。胡椒の辛味成分ピペリン、山椒のサンショオールなどもカプサイシン類で同様の効果があります。ただし過剰な摂取はカプサイシン受容体の機能が麻痺し、胃粘膜損傷を引き起こします。またカプサイシン受容体の過剰反応による消化管知覚過敏が胃痛、腹痛などの一因と考えられており、唐辛子の摂取が症状を悪化させる可能性もあります。カプサイシンの1日摂取量の目安は1~2㎎(一味唐辛子小さじ3分の1から半分程度)で十分です、摂り過ぎには要注意。「誉められて唐辛子を食う」(誉められて調子に乗っていると後で痛い目に遭う)、何事もほどほどが肝心ですね。

便秘はお肌の大敵、便秘で悩む女性は多いですね。便秘には腸蠕動の低下で起きる弛緩性便秘とストレスで自律神経が過敏になり腸管の痙攣が起きる過敏性腸症候群(IBS)に代表される痙攣性便秘(兎糞状の硬便)があります。弛緩性便秘では便を柔らかくする塩類下剤(酸化マグネシウム)や大腸の動きを刺激する大腸刺激性下剤(センノシドなど)が使われます。下剤や浣腸の乱用が直腸性便秘など新たな便秘を引き起こしたり、IBSでは消化管運動調節薬や漢方薬、精神安定剤などを使う場合もあるので症状が改善しない時は早めに消化器科を受診しましょう。また便秘に大腸がんなどの病気が隠れていることもあります。急な便秘や下痢と便秘を繰り返す中高年の方は大腸の検査を受けましょう。便秘の人が大腸がんになりやすいわけではなく統計的には運動をしている人に大腸がんが少ないと言われています。適度な運動は便秘解消にもなります。イギリスの諺「1日1個のリンゴは医者を遠ざける」、食物繊維を摂ること、またリンゴのペクチンは腸内細菌環境を改善させ善玉菌を増やすと言われています。

ノロウイルスは特に11月から2月に流行します。カキなど二枚貝や汚染された食品による集団食中毒が報道されますが、多くは人から人への感染で拡がっていきます。感染力は強くウイルス10~100個でも感染します(嘔吐物1gに100万個以上、便には1億個以上)。潜伏期は1~2日、激しい下痢や嘔吐、腹痛、発熱で発症します。イオン系飲料などを摂取し脱水を予防すると1~2日で自然治癒しますが治癒後1~3週間はウイルスが便に排出されます。ワクチンもなくアルコール消毒もあまり効果がないため予防の基本は食事前やトレイ後の手洗いを徹底することです。指先、指間や手首まで30秒以上かけてしっかり石鹸で洗いましょう。トイレや器具の消毒には次亜塩素酸(ハイターなどを希釈)が有効です。85℃以上1分以上の加熱も有効です。嘔吐物が乾燥するとウイルスが舞い上がり空気感染の危険があるので出来るだけ早く処理します。使い捨て手袋、マスクなどを着用し、嘔吐物をしっかり新聞紙などで覆ってから消毒しましょう。流行してからではなく日頃から手洗いを習慣づけることが一番の予防策です。

胃食道逆流症(GERD)は胃液などが食道へ逆流することでおこる病気です。特に内視鏡で食道と胃の境目に炎症(びらん)を認めるものを逆流性食道炎と呼び、症状だけでびらんのないものは非びらん性胃食道逆流症と言われ知覚過敏が原因とされています。食生活の欧米化、肥満、高齢、ストレス増が原因となり日本人にもGERDが増えていますが、実は日本人のGERDの7割が非びらん性で若い人にも多いと言われています。症状は胸焼けや酸っぱいものがあがってくる(呑酸)、げっぷ(雅語ではおくび;おくびにも出さないなんて言いますね)、胃もたれなど。また食道外症状として喉の痛みやつかえ感、慢性の咳や喘息発作、狭心症様の胸痛など様々です。治療は胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害剤(PPI)などが有効です。また高脂肪食や過食を控え、食べてすぐ横にならない、お腹を締め付ける服装や前屈みの姿勢を避けることも大切です。GERDは命に関わる病気ではありませんが再燃しやすく日常生活にも悪影響を及ぼします。少しでも思い当たる症状があるときは我慢せずに医療機関を受診して下さい。

小学校の時に初めて人体について胃や心臓など名前や場所を学びましたね。また古くは東洋医学において「五臓六腑」と言われ、この夏にビールが五臓六腑に染み渡った人も多いと思いますが、「五臓」とは肝臓、心臓、脾臓、肺、腎臓を、「六腑」とは胆のう、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦を指します。三焦は特定の臓器ではなく消化や排泄など機能を意味します。文字通り消化器とは食べ物を消化、吸収、代謝、排泄する臓器と考えて下さい。食べ物の通り道が消化管で口、咽頭、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、直腸、肛門となります。また消化管の外側に位置し消化酵素を分泌し消化・吸収を助ける臓器は消化腺や付属器と呼ばれ、唾液腺、胆のう、膵臓、肝臓です。人が食べるという行為に多くの臓器が関わっています。そして各臓器に腫瘍性(胃がん、肝臓がん、大腸がんなど)、炎症性(胃炎、肝炎、潰瘍性大腸炎など)ほか様々な病気があり、消化器内科はこれら多くの臓器や病気を診る科です。ちなみに口や歯は歯科、唾液腺や咽頭は耳鼻咽喉科の専門領域です。

2007年カプセル内視鏡(CE)が保険適応となり、つらい内視鏡検査から解放されると思われた方も多いと思いますが現在のCEは小腸を観察するためのものです。小腸は6~7mと長く、口や肛門から遠いため検査が難しく、長らく「暗黒の臓器」と言われてきました。そこに光を与えたのがCEです。最近脳梗塞や心筋梗塞の再発予防ための抗血小板薬(アスピリン等)が胃潰瘍だけでなく小腸にも潰瘍を引き起こすと言われており、胃や大腸の内視鏡で出血源が不明な消化管出血はCEのよい適応となります。カプセル(26×11㎜)を飲むと消化管の蠕動で徐々に進み、最後は自然排出されます(使い捨て)。約8時間(その間通常の日常生活が可能)で毎秒2枚、5万5千枚以上の画像を撮影し無線送信します。それを解析して病変を見つけ出します。費用は保険適応で約3万円です。
欧米では食道や大腸用CEがすでに実用化され、胃用のカプセル内視鏡も各社開発中です。次世代CEはさらに小型化し、遠隔操作が可能になるようです。近い将来病変に近づいて薬を撒いたり、ポリープを切除することも可能になるかもしれません。

腸に原因となる病気がないにもかかわらず、腹痛を伴う下痢や便秘が続く場合は過敏性腸症候群を疑います。日本人の10~15%に認められ、20~40代に多く、下痢型、便秘型、交替型があり下痢型は男性に多いようです。不安やストレスで自律神経のバランスが崩れ、腸の運動が過剰になり、痙攣のような強い動きになることで症状が出現します。最近ではセロトニンという神経伝達物質が注目され、その作用を抑制するセロトニン受容体拮抗薬は下痢型の男性に有効と言われています。ほか消化管運動調節薬、高分子化合物、整腸薬、漢方薬、抗不安薬など薬も様々で、自分の症状にあった薬を見つけることが大切です。また「病気が命に関わるものではなく、あまり気にし過ぎず、うまく付き合っていく」といった考えも必要です。早食いや過度のアルコールや香辛料の摂取を避け、十分な睡眠や休養、適度な運動などで腸の働きを整えストレス解消を心がけましょう。

人が眠っているとき胃も休んでいると思われがちですが、夜間は副交感神経優位となり、胃酸の分泌は亢進します。昔から「潰瘍は夜つくられる」と言われるのもそのためで、胃痛も起きやすいわけです。また夜間空腹時に胃が活発に収縮運動をすることもわかっており、夕食から7時間ほどすると強い収縮運動が始まります。これは胃内の食べカスなどの掃除と考えられています。夕食が遅いと十分に胃内が掃除されないため朝に胃もたれを感じ易くなります。夜食を控え、夕食は就寝の3時間前には済ませるのが理想的です。やむなく遅い夕食や夜食をとる場合は脂肪分の多いものを避け、お粥やうどんなどの炭水化物やたんぱく質ならば豆腐や白身魚など消化のいいもの摂りましょう。また睡眠不足は胃酸過多を助長し胃痛の原因となりますので7時間以上の睡眠をとるように心掛けましょう。

疲労やストレスで慢性的に繰り返される症状からは機能性胃腸症が考えやすく、胃の運動機能障害や胃粘膜の知覚過敏が原因とされています。診断には胃カメラなどで胃潰瘍や胃炎を否定する必要がありますが、潰瘍の原因とされるピロリ菌の感染率が20歳代は15%程であり可能性は低そうです。空腹時の胃もたれは胃運動低下や胃酸過多によるものと考えます。「胃腸は心の鏡」と言われるようにストレスで自律神経のバランスが崩れると胃腸の動きが悪くなり、食欲が低下します。胃酸分泌も一旦低下しますが、その後反動で胃酸過多になり易いようです。治療は消化管運動機能改善薬、胃酸分泌抑制薬などが有効です。併せて充分な休養と睡眠をとること、適度な運動も効果的です。食事は1日3回規則正しく、よく噛んでとりましょう。ただし症状が続くときは胃カメラなどの検査が必要です。

胆のうポリープの多くは5mm前後の非腫瘍性のコレステロールポリープで癌化することはまれです。腫瘍性(良性)の場合は腺腫と呼ばれ10mm前後で単発のものが多いのが特徴です。ポリープは大きくなるほど悪性の可能性が高くなり10mm以下では5%程度ですが、10~15mmで25%、16mm以上では60%と高率です。そのため10mm以上では手術を検討します。また短期間に増大するものも要注意で5mm以下は1年毎、6~10mmでは3~6ヶ月毎に定期的な超音波検査が必要です。10mm以上ではさらに造影CT検査や超音波内視鏡検査などで精密検査を行います。10mm以上でも良性と判断されれば経過観察となりますが、悪性が否定できない場合は胆のう摘出術を行います。最近では腹腔鏡による手術も行われます。残念ながら薬や食事療法でポリープを治療することはできません、定期的な検査がもっとも大切です。

人間ドックなどでよく指摘されるのは肝のう胞や肝血管腫ではないでしょうか。肝のう胞は肝臓の中に液体が溜まった袋がある状態です。ドックでの発見率は約10%です。肝血管腫は増殖した細い血管が無数に絡み合って出来た腫瘍状の塊で良性の腫瘍です。こちらの発見率は5%程度です。いずれも数㎝以内のものが多く、無症状のため治療の対象とはならず経過観察されることが多いのですが、10㎝以上の巨大なものでは腹痛や破裂の危険もあり外科手術などが必要な場合もあります。肝のう胞は腹部エコー検査で黒く抜けて見えます。肝血管腫も高エコー(白くみえる)、後方エコーの増強、カメレオンサイン(体位変換で見えなくなる)等の所見で診断可能です。中には他の腫瘍性病変との鑑別が困難な場合もあり、その際にはMRIやCTなどで精査します。
肝のう胞や肝血管腫は1~2年ではほとんど大きさは変わりません。もし半年で増大した場合は悪性腫瘍などの可能性も考慮して精査を受ける必要があります。半年後でいいということはあまり悪性を疑っていないとも言えますが、心配ならば3ヶ月後再検でもいいかもしれませんね。